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Bリーグのチームは、特別指定選手の大学生たちに何を求めているのか

筑波大の主将として牧(右)は3年ぶりのインカレVを果たした後、琉球ゴールデンキングスでプレーしている(提供・B.LEAGUE)

3月27日、男子プロバスケットボールのBリーグは残り試合が全中止となり、今シーズンの年間優勝チームは「なし」となった。今シーズンを振り返ると、「特別指定制度」を活用し、いち早くプロの世界を経験した大学生や高校生の多さが目を引いた。リーグ発足の2016年度から数えて32人、37人、39人、そして今シーズンは51人と、前年比で30.7%の増加だ。

若き選手たちに、チームはどんなことを期待しているのだろうか。青山学院大出身でBリーグの公認アナリストであり、解説者としても活躍中の佐々木クリスさん(39)が各チームの受け止め方を探った。

高校でバスケを始め、最強チームの青学へ乗り込んだ 佐々木クリス・1
盛實、中村、平岩、増田… 「特別指定選手」がBリーグで得たもの

自分の武器がプロで通じたとき、輝きが増す

「彼のバスケットボールに対する熱意とリスペクト、本気度が非常に高くて、彼ならば少し失敗だとしてもスタート(先発)で起用し、経験を積ませることで必ず今後育っていく選手だという確信を持てました」。琉球ゴールデンキングスの藤田弘輝ヘッドコーチ(HC)が語る「彼」とは、筑波大の牧隼利(はやと、4年、福岡大大濠)のことだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、Bリーグが中止を余儀なくされたが、牧は18試合に出場。西地区首位のチームで、異例とも言える10試合連続の先発出場を果たしている。藤田HC自身は「そもそもスタートで使う(使わないといった)部分に対し、僕自身にあまりこだわりはない」と釘を刺すが、牧のひたむきさには周りを引き込むパワーがあり、ワクワクせずにはいられない。

実はワクワクしているのは、僕やBリーグファンだけではない。

テーブス海(21)は昨年、NCAA1部のノースカロライナ大学ウィルミントン校を中退し、今年1月10日から宇都宮ブレックスの特別指定選手として活躍している。そんなテーブスを日々間近で見ている稲垣敦アシスタントコーチ(AC)は「それぞれ大学で自信を持ってやってきたプレーがあると思う。渋谷(サンロッカーズ渋谷)の盛実(海翔=かいと、専修大4年、能代工)なら“セクシー”と表現されるステップ、川崎(川崎ブレイブサンダース)の増田(啓介、筑波大4年、福岡大大濠)ならハッスルとか。テーブスのドライブも、それが一瞬でも通用した瞬間に、明らかにアグレッシブさが変わる。様子見だったところから『俺もプロの一員だぞ』というブレイクスルーの瞬間が訪れると、見ている側も楽しい」。若者たちのインパクトについて、熱く語ってくれた。

テーブス(左)はノースカロライナ大学ウィルミントン校をやめ、今年からBリーグで戦っている(提供・B.LEAGUE)

「全員がBリーグに入れるわけではない」という現実

もちろん一筋縄ではいかない。プロの壁に当たって挫折することもあるだろう。僕にとって東京サンレーヴス時代のチームメイトであり、いまは名古屋ダイヤモンドドルフィンズに所属する高田紘久ACは「まずはこの世界に入って、自分がどうなりたいかということを明確に思い描いて練習してほしいし、いま自分がいる場所(大学)でプレーしてほしいと思います」と切り出し、こう続けた。

「分かりやすく言えば、ディフェンスの部分で(千葉ジェッツふなばしの)富樫(勇樹)についていけるのか。もし、このリーグに入りたいと思ってるポイントガードであれば、そういう選手とマッチアップしなければいけないことになる。パワーフォワードのポジションであれば、外国籍選手とどう渡り合うのか。頭の中で想像できるくらい自分を高めることはすごく大事です。いま自分のいる(大学)レベルの選手に勝ってるだけで、果たしてそれでいいのかということを自分に問いかけながら、日々過ごすのがいいのかな、と僕は思います」

これは「自分のスタンダードをどこに置くか」という意味で、僕自身もすごく共感できた言葉でもあった。思い返してみれば、僕は青学時代のころ、熱血すぎて、周りに煙たがられてしまっていたところもあっただろう。と同時に、いまとなれば「だからなんだ?」って笑い飛ばせる。

なかなか表現が難しいが、絶対に妥協できない「自分基準」を持っているかどうか。これでパフォーマンスは決定的に違ってくるばかりか、その一瞬一瞬が真剣勝負というプロの世界ではとくに、プロの先輩たちから受ける信頼にも関わると思う。

琉球の藤田HCはこうも言っている。「大学に入ったら『もうバスケだけすればいいんでしょ?』という風潮があるのかな、と僕は思ってるんですけど、それはよくない。全員がBリーグに入れるわけではない。そこはしっかり自己分析をして、夢を追いかけてほしいです」

これは当然のことだと思う。客観的な自己分析と知識を得ることは、バスケのプロを目指すこととも矛盾しない。むしろ僕の経験上、セルフプロデュース力やマネジメント力がなければ、真のスターにはなれない時代になっていると考えているからだ。NBAで言えば、スーパースターのレブロン・ジェームズやステフィン・カリーの発信力やビジネスの展開。そして彼らは巡り巡って地域貢献にまでつなげ、単なるバスケプレーヤーでとどまらない存在になっている。Bリーグでも発信力の強い選手たちを想像してほしい。彼らに習って行動していけば、学問も疎かにはできないはずだ。

学生時代から知ってるアイツがキャプテンだぜ、という物語

Bリーグは若いエネルギーを必要としている。いまはそれが顕著でなくても、僕自身はリーグの高齢化は大きな不安要素になり得るし、だからこそ向こう5年の動向を注視しようと考えていた。しかし想像以上のスピードで、大学生たちが新たな風を吹き込んでいる。

増田は3年生のときにも、川崎で特別指定選手としてプレーしている(提供・B.LEAGUE)

ならばもっと高みを目指せないか? 大学時代、僕の一つ上の先輩であり川崎ブレイブサンダースを指揮する佐藤賢次HCも「フランチャイズプレーヤーというか、軸となる選手を若い中からつくりたいというのはあるかもしれない。学生時代からチームに来てもらって、主力になってもらう。お客さんから『学生のころから知っているアイツがいまやキャプテンだ!』という感じに選手を育ててもらう。そういうのも、クラブとして一つの魅力だよね」と期待を寄せ、スターの誕生を心待ちにしている。

「好き」という気持ちで一心に続けてきたものが自分の収入源に変わったとき、そこには考えてもいなかったような困難が生じることになるだろう。それでも僕自身、競技人生が終わり、それでもなおバスケットボールを生業として続けてこられたのも、「好き」という気持ちを燃やし続けてきたからにほかならない。特別指定制度を利用し、自らの腕試しをする若武者たちの活躍はバスケの競技力向上のみならず、「バスケで日本を元気に」とリーグが掲げるフランチャイズと地域、選手とファンの関わり方にも大きく寄与してくれると期待してやまない。

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