ラグビー

慶應・相部開哉主将、ルーツ校復活へ ラグビー人生のすべてをかけてやり切る

常にチームに献身的なプレーをする相部開哉主将(撮影・斉藤健仁)

2019年度、関東大学対抗戦で5位に終わり、22シーズンぶりに全国大学選手権出場を逃した日本ラグビーの「ルーツ校」である慶應義塾体育会蹴球部(ラグビー部)。2シーズン目となる栗原徹HC(ヘッドコーチ)の下、名門復活の旗頭に指名されたのが接点で体を張り続けるLO(ロック)相部開哉(あいべ・かいと、4年、慶應義塾)である。

大方の予想通り、同期の投票で選出される 

相部は2年から不動のLOとして試合後、誰よりもジャージーが汚れているような選手である。タックルやオーバー、ラインアウトのサインを出す「コーラー」などボールを持たないプレーでチームを支える中軸のひとり。伝統的にディフェンスが売りのチームにあたり、同期の指名により主将に就任した。大方の予想通りだった。なお副将には、やはり低学年から活躍してきたCTB三木亮弥(4年、京都成章)が選ばれた。

オンライン取材に応じた相部主将(撮影・斉藤健仁)

「同期で何回か話し合って、投票によって選んでもらいました。自分か三木だろうなと思っていましたね。(HCの栗原)徹さんからは『自分らしく頑張ってください』と言われました。自分の強みはタックルですし、ディフェンス、タックルは慶應としてブレてはいけないところ。コーチ陣と共通認識を持ってやっています」(相部) 

2019年の関東対抗戦は3勝4敗、緩みも

19年度は筑波大学、日本体育大学に競り負け、ライバルの明治大学、早稲田大学にも敗れた。相部主将は「2つ上の代はタレントがたくさんいて、昨シーズンはごっそり抜けたが、その中でも自分たちの力を最大限に発揮できなかった。その要因としては規律がよくなかった、すべてにおいての緩みがあった。グラウンド内だけでなく、私生活でも緩みがあった」と振り返る。

レギュラーとなった2年時の相部開哉はまだ、細身だった(撮影・斉藤健仁)

終盤になってから相部主将をはじめ選手間で「本当に意識を変えよう」と取り組んだ結果、最終戦の帝京大学戦に勝つことができたと感じていた。そのため相部主将らリーダー陣は「昨シーズンは(スイッチが入るのが)遅すぎた」と反省した上で、今シーズンのチームの軸として「とにかく毎日全力でハードに100%でやる」「お互いに厳しく指摘し合いましょう」の2つを行動指針とした。形骸化することを恐れて、あえてスローガンは掲げなかった。

どこよりも早かった新チームの始動

昨年の12月7日にジュニア選手権の入れ替え戦が終わり、その翌週にすぐに新チームの練習をスタートさせた。ライバルチームのどこよりも早い始動である。年始の9日間以外は、ぶっ続けてトレーニングをしていたという。フィジカルやフィットネスのトレーニングをしつつ、まずは基本スキルの徹底に時間を割いた。相部主将は「昨シーズンは1年生がたくさん試合に出て若い力が育ちました。ただ慶應はタレントがいないと言われ、早稲田大、明治大と比べてセンス、スキル劣っていると思うので、ひたむきさ、泥臭い部分で負けられない。基礎を積み上げてやっていくところに勝機があると思います」と意気込んだ。

コロナ禍、ラグビーナレッジ強化に

しかし、新型コロナウイルス拡大の影響で3月27日にグラウンドでの練習は中止。その後1カ月ほどは、大学の施設は完全に使用できなくなった。相部は寮の自室で、自重によるトレーニングに精を出した。またチームとしては「頭の部分で成長しよう」とラグビーナレッジ(知識)の強化に時間を充てた。ZoomやLINEを使って自チームの試合やライバルチームの試合、スーパーラグビーの試合の映像などを共有し、週2~3回はそうした時間を設けた。

5月になって、人数制限をした上で、やっとグラウンド脇のトレーニングルームが使用できるようになった。その後、グラウンド練習の許可も出たが、最多でも6人までという条件つきで、コンタクトの伴わないボールを使った練習やフィットネストレーニングをしている。全体練習の本格始動は今のところ7月に入ってからの予定だ。相部主将は「早く負けた分、早くスタートして昨年の12月から自分たちに厳しく練習をしていました。今の自分たちがどのくらいできるのか、どの程度の位置にいるか知りたかったので、春季大会で試合をしたかったですが……」と残念がった。

バイクをこぐ相部主将(慶應義塾体育会蹴球部提供)

栗原HC体制2年目を迎えて、今シーズンの慶應義塾大学はどんなラグビーを目指しているのか? と聞くと、相部主将は「FWとBK関係なくハードにやろうと意識があり、戦術的には賢くプレーし、オプションを持ってスペースにボールを運ぶ、効率のいいラグビーをしていこうということをやっています」と自信をのぞかせた。すでにWTB/FB山田響(報徳学園)、CTB 永山淳(國學院久我山)  といったルーキーもAチーム入りしているという。チームとしての目標は最終的には「大学日本一」だ。ただ「この数年は(大学選手権ベスト4に入って)正月を越えることができていないので、正月は越えたい。また早稲田大には大学に入学してから勝つことができていないので勝ちたい」と腕をぶした。

最後の1年、勝ちたい

また相部主将個人としては「やり切りたいですね」と語気を強める。ラグビーをしていた父親の影響で小学校1年から茅ヶ崎ラグビースクールで競技を始め、花園(全国高校大会)こそピッチに立てなかったが、U20日本代表、ジュニア・ジャパンに選出された。昨年、あるトップリーグチームから声をかけられた。だが身長183cm、体重92kgとトップリーガーと比べると大きな体格ではない相部は「悩みましたが、自分が活躍するビジョンが見えなかった……」と結論付けて今春、一般就職を決めた。トップレベルでラグビーをするのは今シーズンが最後となる。

主将としてラストシーズンに挑む相部開哉(撮影・斉藤健仁)

新チームとなり、相部主将個人の行動指針として「自分に対しても厳しくやって、人にもどんどん厳しく言ってやっていきたい」とチームの前で宣言した。「最後なのでラグビーをやり切りたい。勝ちたい」。黒黄ジャージー随一のタックラーがグラウンド内外で模範となって、まずは大学トップ4を目指す。

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