部活動再開、屋外練習でマスクは着用すべき?専門家が共同声明で「推奨しない」
新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、本格的な夏を迎える。練習や試合の再開され、夏合宿を予定している部活動もある。熱中症予防とともに、感染防止のためにどのような対策をとればいいのだろうか。同志社大学スポーツ健康科学部教授・同志社大学スポーツ医科学研究センター長の石井好二郎氏に話を聞いた。
――先日、日本臨床スポーツ医学会・日本臨床運動療法学会が共同声明を発表しました。その中で、運動中のマスク着用について「屋外運動時のマスクや口鼻を覆うものの着用は、基本的には推奨いたしません」としています。
運動中のマスク着用は、簡単に言えば、体内の二酸化炭素が増えて酸素が減り、呼吸不全や意識喪失を引き起こす危険性があります。また、呼気からの気化熱と皮膚血管拡張による熱放散を妨げることになり、熱中症の危険性が高まります。海外では死亡例も報告されています。他に声明では、ロッカールームや更衣室などは、三密(密閉・密集・密接)になりやすいので特に注意し、使用後のタオルは他人が触れないように気をつける、とくに激しい運動後は一時的に免疫機能が低下することがあり、感染予防により気を配るように呼びかけています。
――屋外のマスク着用は国も注意を呼びかけていますね。
気温と湿度が高い場合、厚生労働省と環境省が熱中症予防の観点から、高温や多湿の環境下において身体に負荷がかかる運動や作業は避け、屋外で2メートル以上離れられるときは運動に限らずマスクを外すように求めています。
屋外と屋内で違いは?
――運動中にマスクを外すことを心配する声もあります。
新型コロナウイルスは、飛沫(ひまつ)感染と接触感染により感染します。ウイルスが一粒あるからすぐに感染するわけではないので神経質になりすぎないことです。通常の呼吸であればすぐに蒸発、乾燥します。咳による飛沫でも2メートル以内に落下あるいは乾燥します。屋外なら気流があり、飛沫が拡散してウイルスが薄まります。乾燥も促されることから、感染リスクが低下するという情報が多数見受けられます。相手の真正面を向いてくしゃみをすれば3メートル以上、飛沫が飛ぶことがありますが、現実的ではありません。ランニングであれば2メートル以上の距離を保てば感染リスクを十分減らすことができるでしょう。
――屋外と室内で対策の違いもありますか。卓球やバドミントンなど室内競技はどうすればいいのでしょうか。わずかな気流がプレーにも影響します。
室内競技は密室になりやすく、声を出すことで飛沫が飛び、球などにあたります。それに触って感染するわけではなく、触った手で目や鼻、口の粘膜に触れることで感染します。真剣勝負のプレー中は難しいかもしれませんが、顔を触れないようにする、球を頻繁に交換するなど感染ルートを排除することを考えるしかありません。また、しばらくは換気をしてプレーをするしかありません。
――ラグビーやアメリカンフットボールといった団体競技、特にコンタクトスポーツはどうしたらよいのでしょう。
大学スポーツといっても練習を再開できる競技とできない競技があります。コンタクトスポーツは非常に難しいものがあります。プロスポーツはPCR検査ができるかもしれないが、学校現場はそうはいきません。プロスポーツで大丈夫となってから学校現場へとなると思います。時間はかかると思いますが、少しずつどこまでできるか試しながらやっていくしかありません。
運動後の感染防止対策は?
――運動後はどうすればよいでしょうか。
トレーニングや試合で運動した後は、日頃鍛えていたとしても一過性で免疫機能が下がります。オープンウィンドウ説というのですが、そういうときこそより一層気をつけて、自分たちは感染しやすい弱い状態にあることを意識することです。お互いに顔を向けてしゃべらない、距離を保って個人で行う、手洗いやうがいをするなど対策したほうがいいと思います。ロッカールームなど気流がわずかな密閉空間は注意が必要です。湿度が高い室内ではエアロゾル(非常に小さい粒子)感染の可能性があります。エアコンではなく、窓を開けてしっかり換気をして空気を混ぜるようにしないといけません。そうした一つ一つの対策を怠らないことです。
指導者に求められることは?
――学生アスリート自身、指導者が新型コロナウイルスに対して、正しい知識を持って対策することが必要ですね。
指導者の教育・啓発は重要です。例えば日本陸上競技連盟のようにガイドラインを作っている団体もありますし、大学スポーツ協会(UNIVAS)でも大学スポーツ活動再開のガイドラインを示しました。
ここからは情報リテラシーの話になってしまいますが、限られた情報に触れるのではなく、正しい情報を取るようにして選手たちに伝えることが必要になります。日本臨床スポーツ医学会と日本臨床運動療法学会は様々な分野の専門家が集まり、国内外の論文や報告も踏まえてディスカッションして、今回の声明文を発表しました。こうした専門家が発信する情報に接している指導者もいればそうでない指導者もいます。健康や医療の専門家がいない学部、部活動もあります。現場の指導はボランティアでやっている人も多いです。
――対策をしていてもマスクをしないことに不安を感じる人はいます。
いわゆる「自粛警察」と呼ばれる人が正義感から根拠のない感覚的な発言で練習している子どもに注意し、その子が泣きそうになっている姿を見ました。このままでは子どもたちの練習が危機的な状況になってしまうと危惧しました。作家の遠藤周作の言葉を借りれば「善魔」ですね。新型コロナウイルスに対する偏見や誤解から生じた発言や態度で傷つく人がいます。感染症への正しい理解と他者への思いやりを大切にしたいですね。