部活動再開に寄せて 感染予防に加え熱中症対策を
新型コロナウイルスの影響で自粛していた大学運動部の活動が段階的に再開している。感染防止のガイドラインを整えて解禁になった大学もあれば、キャンパスへの入構が制限されているため学外で練習を始めた大学、少人数のみでの練習が認められている大学、7月から再開する大学など、それぞれ事情と判断によって状況は様々だ。ただ、再開にあたって共通するのは、感染拡大の予防策はもちろん、今夏は、熱中症対策に例年以上の注意を払う必要があるということだ。
今夏はより高いリスクに警戒を
熱中症のリスクが高まる条件はそろっている。まず、自粛期間が長かったため、基礎的な体力が落ちている可能性がある。それに付随して、暑さへの慣れが十分でない。特に、受験を経てきた1年生の多くは長期間、本格的なスポーツ活動をしていない。そして、「ようやくできる」と意欲に満ちるあまり、知らず知らずのうちに強度を上げすぎてしまう懸念もある。大学スポーツ協会(UNIVAS)も6月18日に公開した「大学スポーツ活動再開ガイドライン」の中で、あえて熱中症対策についてこう言及している。
「練習再開の時期が夏になるため、熱中症に例年以上の注意が必要である。暑熱順化(期間は7~10日必要)ができるまでは、時間をかけて徐々に練習量や強度を増やし、各種熱中症対策を積極的に行う」
とにかく慎重で段階的な練習が求められる。
過去には重大事故も
体ができている学生アスリートといえども、熱中症での重大な事故は起き得る。実際、2017年8月に、北海学園大アメリカンフットボール部員の3年生が練習中に倒れ、搬送先の病院で死亡している。死因は警察から「熱中症の疑い」と発表された。午前9時半ごろに練習で走り込みをしていた時に倒れたという。塩分入りの水が用意されていたが、事故は起きてしまった。
「下級生への配慮を」 細川さんからのアドバイス
具体的にはどんなことに留意すればいいのだろう。今年6月20日付の朝日新聞で、中高の運動部活動を対象にした熱中症予防の特集記事が掲載された。その中で筆者は、米国での研究実績がある早稲田大の細川由梨・専任講師(アスレチックトレーニング専攻)にポイントを聞いたインタビュー記事を担当したのだが、大学運動部にも共通する内容なので、改めてピックアップしたい。
細川さんはまず、「日本の部活動で象徴的なのは、学年別にみた時、重大なけがや熱中症は高校1年生に多いこと。上級生に比べ、体が出来上がっていない面とともに、同じ休憩時間が与えられても十分に水分を摂取できない環境や、我慢してしまう雰囲気などがあるととらえらる」と指摘した。大学でも上下関係は根強く残る。全員が水分補給できるタイミングが確保できているか、下級生に休息を阻む無用な負担をかけていないか、練習環境を見直すことが必要だろう。
「罰走」などはもってのほか
再開後の練習メニューについて、細川さんは「運動強度の基準を、体力の落ち方が最も大きい生徒に合わせ、緩やかに強度を上げていくこと」を留意点に挙げた。「米国では、長期のオフを挟んだ最初の2週間はスポーツ障害の発生のリスクが高く、重篤な事故が多いと言われている。『7月から強度を上げよう』などとカレンダーを目安にするのではなく、『何回の練習で強度を上げられる段階になるか』と考えるのがいい」とアドバイスする。
大学も、練習時間や練習頻度に制限があるケースもあるだろう。「時期」ではなく、「練習回数」を意識した計画を立ててほしい。そして、細川さんは「『罰走』はもってのほか。突発的なメニューは過負荷による事故につながることを、生徒の体力が低下している今、意識するべきだと思う」とも話した。
練習内容の透明性を
米国の大学では、学内のクラブを管轄するアスレチックディレクターという役職に、各部のコーチが予定や練習内容を提示し、最大の負荷のラインを示すことを強く奨励しているそうだ。第三者の目を入れ、科学的で透明性の高い練習を推進することで、過負荷による事故を防ぐやり方だ。日本の大学でも、指導者が常駐する部であれ、学生主体の程度が高い部であれ、何らかの形で練習内容の透明性を高めることは、熱中症のリスク管理につながるだろう。