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アフターコロナを見据えて、学生アスリートが取り組むべき体調管理やトレーニング

例年5月に開催されている陸上の関東インカレも、今年は5月開催を延期し、年度内での開催を目指している(写真は昨年の関東インカレ、撮影・松永早弥香)

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各大学は部活動の自粛をチームに呼びかけており、多くの選手たちが家の中など感染拡大に配慮したトレーニングに切り替えている。「(大会が延期・中止になり)焦りもあるでしょう。いまのこの時間を使ってライバルたちを出し抜きたいという気持ちもあると思います。でも適度なトレーニングができているのか、みんなで練習ができないいまだからこそ、目標と見比べながらみんなでチェックし合うことが大切になります」

そう話すのは、株式会社ユーフォリア代表取締役Co-CEOの宮田誠さん(44)だ。同社ではスポーツ選手のコンディション管理システム「ONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)」などを通じ、学生からプロまで様々なアスリートをサポートしている。コロナ禍のいま、どのようにコンディション管理やトレーニングをすればいいのか、宮田さんに話を聞いた。

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オンライン越しにみんなでトレーニングをする意味

まずコンディション管理において基本になるのが、起床時間やトレーニング時間、睡眠時間など、いつものルーティーンを保つこと。睡眠は時間だけでなく質を保つために、30分以上の適度な有酸素運動が欠かせない。ランニングをする際は人と距離をとり、飛沫(ひまつ)感染防止のためにマスクなどの配慮をするようにしたい。

とくにいまは新型コロナウイルス感染の早期発見につなげるべく、毎日の体調チェックが大切になる。なお同社はいま、ONE TAP SPORTS《体調チェック機能》をスポーツチームと医療従事者に対し、今年12月末まで無料で提供している。6項目(体温、倦怠感の有無、咳の有無、喉の違和感、嗅覚・味覚の異常、家族・同居する人の発熱やその他症状)をスマートフォンなどのデバイスから入力し、管理者は管理画面から全メンバーの現状を一覧で確認できるというサービスだ。

トレーニングにおいて、朝練、昼練、夜練などと決まった時間に取り組んできたチームであれば、その時間に合わせて全員が同じメニューに取り組むのもいいだろう。そこにはルーティーンを保つ以外にも意味があると宮田さんは言う。

「いま、いろんな媒体でたくさんのトレーニング方法が発信されています。それを見て読んで、モチベーションが上がるというのは確かにあるでしょう。ですが、いつもより負荷を上げすぎてけがをしてしまったという選手もいます。実際に集まって練習をするのが難しいなら、Zoomやハングアウトなどのオンラインサービスを使うのもありだと思います。適切なトレーニングができているのかみんなでチェックし合えるし、連帯感が生まれますよね。こんなときだからこそ、みんなで頑張ろうという気持ちも芽生えると思います。練習が再開されたとき、急に運動強度が高まってけがをしてしまうということを我々も懸念しています。スムーズに練習に入れるかどうかは、いまのトレーニングの仕方にかかっているとも言えるでしょう」

オンラインサービスを活用したミーティングも、日々の練習の一環として取り組みたい。他のチームの分析や自分たちのチームの戦略について一人ひとりが考えて行動し、共有する場としてミーティングを実施することも、いまだからできることの一つだろう。

挫折や苦しいときはチャンス

先行きがなかなか見えない現状、メンタルケアも重要になる。とくに今年がラストイヤーとなる4年生には、就職活動への不安があったり目指してきた大会の中止で目標が見えづらくなったりなど、いろんな悩みを抱えている選手も少なくない。「これはコーチ陣へのお願いになるんですけど、学生たちがいまどんな思いで日々過ごしているのか、オンライン上でも一人ひとりと向き合う時間を設けてもらいたいです」と宮田さんは言う。

宮田さんは学生時代、スノーボートでプロを目指していた(写真提供・株式会社ユーフォリア)

自分のキャリアを振り返ったとき、「本当に絶望、挫折のでしか学ばなかった」という思いが宮田さんにはある。

長野県出身の宮田さんは、白馬村在住の親族3人に冬季オリンピック選手(アルペンスキー)がいた影響から、16歳のときにスノーボードを始めた。当時はまだスノーボードが国内に輸入され始めて間もない黎明期ではあったが、メーカーのクラブチームに所属していた宮田さんにはスポンサーもついていた。明治大に入学した後もそのままクラブチームで練習に励み、プロとして生きていく将来を思い描いていた。しかし、大事なプロテストの直前に大けがをしてしまい、そのまま現役引退。一般企業に就職してからも数年は、「あのままプロになっていたらどうなっていたんだろう」という思いが拭えなかった。

「僕の場合はけがをして強制的にスノーボードができなくなって、やっぱり苦しかったですね。でも、プロにならない道を自分で初めて考えて行動したから、ユーフォリアという会社を立ち上げたいまがあるんだろうな。“その場”にいる人には酷で、何も響かないかもしれない。でも自分と向き合ってみてください。『この意味ってなんだろうって。僕自身も“その場”では分からなくて、いま振り返って気がついたっていうぐらいですけど。でも絶対意味はある。乱暴な言い方になるかもしれないけど、『挫折や苦しいときはチャンスだよって、僕は学生たちに伝えたいですね」

東京オリンピック・パラリンピックが延期になったいま、学生アスリートはトップアスリートの姿勢に学ぶチャンスでもあると宮田さんは言う。「私たちはトップアスリートのサポートもしているんですけど、彼らは目標とする大会に向けて、心身ともにピークを合わせる緻密(ちみつ)なコンディショニングをしています。大会が1年先になったことで、ある意味、全部がやり直しになりました。これから1年かけてどうピークを合わせていくか。学生アスリートにとっても役立つメソッドはあると思うんですよね」

いまのこの苦しいときを、未来につなげる。いまの行動一つひとつが、未来につながる。

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