ハンドボール

中央大ハンドボール部主将・安永翔 大学生活最後の5試合、全勝で優勝を宣言!

ハンドボールに対する熱い思いと周りへの気配りを忘れない主将の安永翔

新型コロナウイルス感染拡大によって、あらゆる学生スポーツの大会が延期や中止を余儀なくされた2020年。学生ハンドボールも春季リーグ戦は中止、そして11月に熊本で予定されていた全日本学生選手権大会(インカレ)も中止となってしまった。そんな中で、今季最初で最後の公式大会となる秋季リーグが9月13日に開幕。中央大は19日に初戦を迎える。

熱い思いを持つ主将・安永翔

「今年はインカレ決勝まで絶対にいけたと思うんだよ。自信があったし本当に残念……」。実方智監督がこう評するほど、今年の中央大は選手層・経験値ともに充実していた。昨年のインカレでは「全員ハンドボール」を合言葉に、目標としていた「インカレベスト4」を達成。しかし準決勝は強豪日本体育大に惜敗し、日本一にはあと2つ届かなかった。

この雪辱を果たすべく、昨年手の届くところまで近づいた「日本一」へ。2020年、全員ハンドボールを引き継いで、さらに「全員で全力で楽しむ」というサブタイトルを加えた。今年こその思いで臨んだオリンピックイヤーに、中大ハンド部の主将を託されたのは安永翔(4年、博多)だった。

味方のゴールにガッツポーズを見せる安永(左)。右は昨年度のキャプテン、山川慎太郎

ここで私が心に残っている取材のことを一つ紹介したい。2019年11月10日、宮城インカレの舞台で前年度王者の大阪体育大を破り、全国ベスト4というチームの目標を達成した試合後、私は安永の取材を担当した。興奮冷めやらぬ中、タイミングを見計らっていつものように「安永さん!」と声をかけると、こちらを真っ直ぐ見つめて、このような第一声が返ってきた。「やりました! ありがとうございます!」。そしてテーピングを巻いたままの手を私に向けて差し出し、がっちり握手をして取材がスタートした。

約1年前のことだが、私はこれがうれしくて、そのときの取材をずっと覚えている。握手からスタートした取材は初めてかもしれない。何度も安永には取材をさせてもらっているが、リーグ戦を通じても、この言葉からも熱い気持ちと勝利への思いを随所に感じ取ることができた。それ故、準決勝敗退直後のミーティングでは目を赤く腫らし、悔しさをあらわにする姿が印象的だった。

アジアU-22選手権の代表選手にも選出

安永がハンドボールを始めたのは小学生のころ。もともとはソフトボールをしていたが、「親がハンドボールの教師だったので、『平日暇なら行けよ』と連れていかれた」ことがきっかけだという。それからはハンドボールの楽しさに魅了されてハンドボールひと筋。ハンドボール部の1期生として博多高校に進んだ。

大学は「関東の一部でプレーしたい気持ちはあったけど、どこからも声がかからなくて。そんな中で実方監督が唯一声をかけてくれた」ことで、目標としていた関東一部リーグへの道が開けた。「(中央大は)これから絶対に強くなるチーム」と高校時代の恩師からの勧めもあって、中央大に入学。大学では教職課程を履修しながら、ハンドボールでも努力を重ね、昨年はアジアU-22選手権の代表選手にも選出されるまでに成長した。

ポジションはゲームメイクを行うセンター。2年次からベンチに入り、試合にも徐々に出場して経験を積むと、当時の絶対的エース・北詰明未(現・トヨタ車体)のあとを継いで3年次からはチームに欠かせない主力選手として活躍してきた。

部内の投票でキャプテンに選出

学生トップレベルの関東一部リーグにおいて、身長175cmと決して体が大きいわけではないが、そのゲームメイク力から監督からの信頼も厚い。「その選手の調子だったりを見たり聞いたり、やりたいことを聞いたり、会話することを心掛けています。目で見て分かる部分ではなく、頭を使ってプレーするところが強みかな」とチームの司令塔としての役割を話す。

そんな安永に4年間一緒に戦ってきた同期の存在について聞いてみると、真っ先に「みんな真面目です」と返ってきた。こんなエピソードも話してくれた。「気を使える人がすごく多くて。下級生のころ、自分が結構ミスもしてたんですけど、それで飲み会に行ったときとかに『ほんとにごめん』って言ったら、みんなめっちゃ優しいから責めないで『大丈夫、大丈夫。終わったあとに笑い話になるから』みたいな感じで言ってくれて。逆に怒ってよ~とかも思ったりして。その優しさに泣いちゃったこともありました(笑)」。

優しさにあふれる4年生は下級生の見本にもなっている

優しさあふれる同期に支えられ、部内の投票でキャプテンに選出された安永は「自分は周りと比べるとわがままな部分もあるので」と謙遜するが、先ほどのエピソードからも分かるように、チーム全体への声掛けや気配りはもちろんだが、私のような一つ年下のいち学生記者に対しても気配りをしてくれる。

そんな安永を中心にハンドボールに対して真面目で熱く、優しさにあふれた4年生の姿は見本となり、「全員ハンドボール」「全員で全力で楽しむ」という今年掲げた目標はチーム全体に浸透している。

残された最後の5試合に向けて

4月末、オンライン取材をしたときには春リーグの中止を受けて、「秋もどうなるかは分からないですけど、前向きに捉えて体を大きくしたりとか、インカレに向けてやるべきことをしたいと思います。とにかく1番を取りたい」と話していた安永。だがインカレ中止が決まったそのときは、「目標がなくなってしまったので、特に練習を再開したときとかは何を目標に練習しているのか分からなくなった。みんなもふわふわしている感じだった」と正直な思いを口にする。それでも「まだリーグ戦がある。今年の代は終わっていないから」と4年生を中心に切り替えた。

「自分がこういう風にやろうぜとか言ったわけじゃないし、話を誰かとしたわけでもない。それでもインカレがなくなったから変な空気になるんじゃなくて、4年生が声を出してって率先してやっていたので、すごく助かりました」

全勝優勝を目標に大学生活最後の5試合に挑む安永

今も体育館で練習する時間が限られている。そして、残された試合はリーグ戦の5試合のみ。初戦まで残り数日となったリーグ戦に向けて、修正したい点もあると語るが、それを補う層の厚さには自信をのぞかせる。「今年のチームは1年生から4年生まで誰が出てもクオリティが高いプレーができる。いい形になっていると思います」と調整は順調に進んでいるようだ。

「目標はもちろん全部勝って優勝。そして目の前の試合を楽しむことです」とリーグ戦の目標を力強く宣言した安永。そして取材の最後にひと言、「(リーグ戦序盤の試合会場である)茨城遠いですけど、がんばって来てくださいね(笑)」。

ハンドボールに対する熱い思いと周りへの気配りを忘れないキャプテンが、大学生活最後の5試合で躍動する。

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