フィギュアスケート

横井ゆは菜、自分らしい演技を求めてひとつずつ 中京大のフィギュアスケーター

優れた表現力で横井ゆは菜ワールドに引き込んでいく(すべて撮影・朝日新聞社)

フィギュアスケートの本格的なシーズン開幕を告げるジャパンオープンが10月3日に開催される。新型コロナウイルスの影響で例年と違い、日本のスケーターのみが参加する。その舞台に昨年の全日本選手権5位、中京大学スポーツ科学部2年、横井ゆは菜(中京大中京)が初出場する。試合に向けてどう過ごしてきたのか、プログラムの見どころや目標などを聞いた。

大学でメリハリのある生活

名古屋市出身の横井ゆは菜は2019年、宇野昌磨(トヨタ自動車)らトップ選手が通う中京大学に進学。全日本ジュニア女王としてシニアに参戦した昨シーズンはグランプリ(GP)シリーズ2戦に出場、全日本選手権5位と飛躍の1年だった。

大学では心理学や生体力学を学び、構内にあるリンクや邦和スポーツランドで練習している。「授業の空いた時間を利用して集中して練習していました。メリハリのある生活が自分にとってよかったです。授業を通していろんな人と出会うので毎日新鮮な環境の中で過ごせていたと、いまは特に思います」。コロナ禍で授業はオンラインに。練習も満足にできない時期があったという。

ギャップを見てほしい

今シーズンはショートプログラム(SP)、フリーともに新しくした。SPは映画『君の名は。』から『なんでもないや』、鈴木明子氏が振り付けた。ステップの途中で英語から日本語に変わり、「どんどん自分の世界にひきこんでいけたら」と見どころを語る。

フリーはコミカルな曲調の『トムとジェリー』。最初は陽気なおじさんのイメージだったが、いたずらっ子でおちゃめなジェリーのイメージに変更したという。とくに中盤のコレオシークエンスに注目。「だいぶ長めにとっています。ジャンプに時間を使ったほうが効率的だと思ったんですが、それを無視したような(笑)。リンクを端から端まで往復しているので体力的にはきついですが、その後の3連続ジャンプも決まればさらに盛り上がります。SPで『雰囲気変わったね』と思ってもらい、フリーではギャップで『やっぱりゆは菜ちゃんは楽しませてくれるね』と思ってもらえるようにしたいです」

今季の目標は四大陸選手権

今シーズンの目標を聞くと、2021年2月に予定されている四大陸選手権を挙げた。なぜ世界選手権ではないのか、その理由は冷静な自己分析からだ。「『二兎を追う者は一兎をも得ず』で、私の過去を振り返ると、欲張ったらだいたい失敗しているんです」。例えば中学3年のシーズン、腰のけがを抱えながら全日本ジュニア選手権で3位に入った。翌シーズンは少し背伸びをした目標を設定。世界ジュニア選手権やトリプルアクセル習得を目指したが思うように結果を残せなかった。

「少し背伸びしちゃったかなと思ったときに、その目標に自分が追いついてないことに焦りを感じて失敗する」。その反省から次のシーズンは「自分のできることをまとめて点数を出すことが大事」という考え方に変わった。結果、全日本ジュニア選手権で4位に入り、全日本選手権にも出場を果たした。

昨シーズンもその姿勢で練習を積み重ねた結果、夢だと思っていたGPシリーズ2戦に派遣された。「母も『1個ずつ成長すればいい』と言ってくれます。私も一つずつ成長していきたいと思っています」。昨年末の全日本選手権は僅差で表彰台を逃した悔しさもあり、もう一歩先の四大陸選手権を目標に掲げた。

昨年の全日本選手権、表彰台まであと一歩だった

同学年の樋口、坂本に追いつく!

横井の世代は競争が熾烈だ。同学年には18年世界選手権銀メダルの樋口新葉(明治大学/ノエビア)、18年平昌オリンピック6位の坂本花織(シスメックス、神戸学院大)らがいる。二人に比べると横井はシニアデビューも遅かった。だがそれが原動力にもなっている。「(自分の成績に)満足しすぎないという意味では逆によくて。先を進んでいる二人の背中に追いつこうと、まだまだ自分は頑張らないといけないと思っています」と力強い。

タレント揃いの選手たちを見ると羨ましく思うこともある。「新葉ちゃんの足さばき、氷に下りた瞬間からエッジにのっている。花織ちゃんは2回転も3回転も同じ軌道と高さで跳べる。(山本)草太は6分間練習で滑っているだけで『違うな』と感じる。うまいな、ずるいなと。宇野(昌磨)選手(トヨタ自動車)の曲が鳴ったときに急に出るかっこよさは反則でしょ、と思って見ています。ステップはとくにオーラがすごいです」

大事なのは「自分らしさ」

周りと比べて自信を失いそうになるとき、大切にしているのが「自分らしさ」だ。「だめかなって思うこともあるけれど、こんな自分でもここまで来られた。いかに自分らしさを演技で出すのかが大事。昨シーズンのプログラム『黒い十人の女』はいい反応をいただけた。これからもどんどん面白いプログラムにチャレンジしたいと思います。そして目の前の課題をひとつひとつクリアして目標にたどりつきたいと思います」

横井は「自分は凡人」と言ったことがあるが、観客を演技に引き込む力、曲の世界観を表現できる才能は唯一無二のものだ。今シーズンのテーマに「華やかさ」を掲げる山本草太(中京大学)も「スケートは魅せる競技だから派手なくらいがいい。横井選手にはそれがあって自信のあるように見せることができる。他の選手とはまた違ったオーラがあると思います」と称する。

来シーズンは北京オリンピックを迎える。横井は言う。「せっかくここまでやってきているなら、というのがあって。オリンピックが無理だからと力を抜いてしまうのが一番もったいない。頑張れることは頑張りきろうという気持ちで五輪シーズンに向かっていこうと思います」。これからも「自分らしさ」を心に留めて自信を持って羽ばたいていってほしい。

【写真】氷上のエンターテイナー、横井ゆは菜
フィギュアスケート・中京大の横井ゆは菜からファンへのメッセージ動画です

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