フェンシング

フェンシング・東莉央 「支えられていることを知り、自分のフェンシングも成長した」

和歌山県で生まれ育った東選手は、小5の時にフェンシングと出会った(写真は本人提供)

現在、明治安田生命「地元アスリート応援プログラム」で支援を受けている東莉央選手(あずま・りお、日体大4年、和歌山北)。フェンシングをはじめた小学生から国際大会で多くの実績を残しており、22歳になったいまも日本のトップランクで活躍する。競技や地元に対する思い、そしてさまざまな方からの支援を受けることで成長したことなど、彼女の素顔に迫った。

世界で戦うために必要なもの

目にも止まらぬ、瞬時の駆け引きが魅力のフェンシング。ユニフォームの上からマスクをつけ、剣と剣が交わり、相手より一瞬でも先に突けば勝者となる競技だ。

一度見ればその迫力に魅了され、選手たちもその迫力やスピードの醍醐(だいご)味を口々に語るが、トップレベルで競技を続ける選手にかかる負担は身体的、精神的のみならず、経済面でも大きい。そのための支援を受ける方法は――。女子フルーレ日本代表の東莉央選手は、2017年から明治安田生命「次世代トップアスリート応援プロジェクト~めざせ世界大会~」で、世界を舞台に活躍することが期待される若手スポーツアスリートとして支援を受ける。そして2020年には、この「次世代トップアスリート応援プロジェクト」を継承する「地元アスリート応援プログラム」に申し込んだ。これらはすべて、万全な体制で世界を舞台に戦い続けるためだ。

「ユニフォームや剣、こだわればこだわるほど高額になり、テーピングなど消耗品も必要です。加えて、大きな大会に出場するためのポイントを獲得するためには海外での試合、合宿に参加しなければいけません。すべて自腹で賄うのはかなり大変なことなので、サポートしていただけるのはとてもありがたいです」

2020年2月ワールドカップロシア・カザン大会で東選手(右)は個人8位となった(写真は本人提供)

地元と家族がいたからこそ、ここまで戦えた

競技に必要な経費を支援してもらえるという理由だけでなく、惹(ひ)かれたのは“地元”というキーワード。和歌山で育ち、和歌山でフェンシングを始めた東選手にとって地元は、世界を舞台に戦うようになったいまも変わらぬ大事な場所だからだ。「人が多い場所は苦手なんです(笑)。田んぼが広がる景色を見ると田舎やな、とホッとします」

フェンシング選手だった母の美樹さんの影響で小学5年生からフェンシングを始めた。間もなく1歳下の妹・晟良(せら)選手も同じスクールでレッスンを開始。最初は「それほど好きだったわけではない」と振り返るが、週に1回の練習では飽き足らず、妹と毎日自転車で練習に通った。

妹と切磋琢磨(せっさたくま)しながら頭角を現し、和歌山のみならず活躍の舞台は全国へ。中学、高校時代はインターハイなど日本一をかけた決勝の舞台でも妹と対戦した。

「自分のほうがいつも変に力が入っていて、負けたほうがいつも不機嫌になった」と笑いながら振り返るが、一番近くにライバルがいる。その環境が東選手を強くさせ、高校時代までは和歌山県を拠点としながら共に日本代表としても活躍。徐々に視野は世界へと広がった。

妹の晟良さん(右)と切磋琢磨して成長してきた(写真は本人提供)

支えられたことを知り、私も変われた

現在は活動拠点を東京のナショナルトレーニングセンターに置くため、和歌山へ帰省する機会は数えるほどしかないが、2020年は新型コロナウイルス感染症により緊急事態宣言が発令され、都内での練習もままならなくなった。そこで3月から6月まで妹と和歌山へ戻り、2人でトレーニングやランニング、フェンシングの技術練習に汗を流した。

「フェンシングの面だけを見れば、満足いく練習ができたわけではありません。でも、実家で母がつくってくれるご飯が大好きなので、毎日母の手料理を食べて、実家でゆっくりできる。気持ちの面ではとてもリラックスすることができました」

昨年9月に開催された全日本選手権は無観客で行われた。普段応援してくれる家族も近くにいなかったこともあり、力を出し切れず、ベスト16での敗退となった。だが、たとえ目の前ではなくとも、どんな状況でも自分を応援してくれる人がいることのありがたさ。そのことに改めて気づかされる機会になったのが全日本選手権の悔しい敗戦であり、同時に「地元アスリート応援プログラム」を通して続々と寄せられる支援や応援の声なのだと言う。

個人競技は孤独との戦いでもあるが、クラウドファンディングで支えを感じた(写真は本人提供)

「和歌山で声をかけていただくことも増えたのですが、人見知りで(笑)。今回、クラウドファンディングを通してさまざまな方がメッセージを寄せてくれるのが、自分にとっては大きな力になるのだと感じました。目に見える、自分が知っている人たちだけじゃなく、自分を応援してくれる人がいると伝わる機会はとてもありがたいです」

新たな発見は感謝だけに留(とど)まらない。支援をしてくれる人たちに対して、自分がいまどんな練習を行い、どんな目標を持っているのか。簡単な活動報告も行うのだが、もともと自分のことを話したり、人に伝えたりすることをあまり得意としなかった東選手にとって、書いて伝えることが改めて自分を整理することにもつながっている。

「自分のことを伝えることでまた多くの人に自分が知ってもらえる機会になるだけでなく、応援してくれる人がいるのだから『もっと頑張ろう、頑張らなきゃいけない』とも思います。競技を続ける中で苦しいこともたくさんあるし、フェンシングはお金もかかる。それでもなかなか結果が出ないと諦めてしまいそうになることもありますが、応援してくれる人がいると思えばもう一度頑張れる。ここで頑張らなあかん、と思わせてもらっています」

サポートを受けることで、もっと頑張れる

世界での公式戦は昨年3月以来行われていないが、19年11月のワールドカップエジプト・カイロ大会で個人戦初のベスト8、翌20年2月のワールドカップロシア・カザン大会でも個人戦でベスト8進出を果たすなど、確実な手応えもつかんでいる。

「高い目標を持って選手を続ける中で、遠征や用具にかかる費用が捻出できず競技続行を諦めなければならない選手もいます。でもこのようなプログラムがあれば、選手にとっては本当に心強いですし、私自身もこのプログラムに参加したことで、本当に幅広い、たくさんの人が応援してくださっていると知ることができました。諦めずに、やりたい競技を続けるために、これからも支援、応援に感謝しながらもっと頑張ります」

力強いサポートと共に、大きな夢の実現へ向け、東選手は世界を舞台に戦い、輝き続けることだろう。

 

【profile】
あずま・りお/1998年7月27日、和歌山県和歌山市生まれ。母親の影響で、小学校から姉妹でフェンシングを始める。 フェンシングを始めて1年半で、日本と欧米の6カ国の同年代が集まった国際大会「国際ケーニヒ杯」小学生の部で準優勝。「2012年第25回全国少年フェンシング大会」中学生の部、「2016年インターハイ」で優勝を果たすなど数々の大会を制覇。1歳下の妹、晟良選手と共に日本の女子フルーレを牽引(けんいん)する期待の選手。

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