サッカー

「結果にこだわり、常に点を取る」J町田内定・佐藤大樹が紡ぐ法政ストライカーの系譜

佐藤は総理大臣杯で決勝ゴールを決め、法政大に18年シーズン以来のタイトルをもたらした

第45回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント決勝。法政大学と東洋大学の日本一を懸けた一戦は、11分に東洋大が先制点を挙げるが、前半終了間際の41分に法政大が追いつき、同点のまま後半アディショナルタイムへと突入していた。両チームともに追加点を挙げるべくゴールを目指すなか、法政大にチャンスが訪れる。途中出場のMF中川敦瑛(1年、横浜FCユース)がボール奪取から裏へ抜け出した佐藤大樹(4年、コンサドーレ札幌U-18)へスルーパス。ボールを受けた佐藤が倒され、絶好の位置でFKを獲得した。

普段キッカーを務めているキャプテン・田部井涼(4年、前橋育英)はけがで欠場。ボールの側には、田部井に代わりキャプテンマークを巻く佐藤の姿があった。味方のフェイクの直後、彼の左脚から放たれたボールは見事な軌道を描き、ネットを揺らした。このゴールが、法政大に4大会ぶり5度目の総理大臣杯をもたらした。

2年次から主力に定着も、痛感した力不足

北海道コンサドーレ札幌U18時代から活躍を見せていた佐藤。しかし、トップチーム昇格の知らせは届かなかった。次の舞台に選んだのは、法政大。「正直、当時は大学サッカーを知らなかったです。全てが新鮮な環境でのプレーだったことを覚えています」

2年からスタメンとして出場したが、力不足も感じていた

佐藤が法政大に加入した2018年に、チームはインカレ優勝を果たす。その時に決勝点を挙げたのがディサロ燦シルヴァーノ(現・清水エスパルス)だ。また、ひと学年上には、2017年の総理大臣杯で1年生ながら優勝を決める決勝点を挙げ、今年東京五輪に日本代表として出場した上田綺世(現・鹿島アントラーズ)など、法政大にはチームを勝利へ導くストライカーの存在があった。

激しいポジション争いを勝ち抜いた佐藤は、2年次の関東大学リーグ戦で開幕スタメンに抜てきされる。さらには、その試合で自らが獲得したPKを沈め、開幕初ゴールを記録して見せた。「自分のストロングポイントを練習から出せていたことが評価されて、開幕戦の出場につながったと思います。シーズン当初から自分らしいプレーを表現できていました」

その後もコンスタントに試合出場を重ね、順調な歩みを見せる自身とは裏腹に、チームは苦境の時代に突入する。2019年は天皇杯で東京ヴェルディ、ガンバ大阪といった名門を撃破し話題を集めたものの、総理大臣杯は準優勝、リーグ戦は4位に終わり、無冠でシーズンを終えた。そして、2020シーズンはコロナ禍での戦いを強いられた。

「すごく波のある時期で、チームとしても個人としても危機感がありました。そういった中で、コロナの影響で試合ができないとなると、ストレスが溜まりましたし、まとまりがなかった。いろいろな変化に対応できなかったと思います」。リーグ戦は、前半の出遅れを取り戻すことができず、またしても4位。また、インカレの代替大会として開催された#atarimaeni CUPでも決勝進出を果たすものの敗れ、2年連続の無冠でシーズンを終えた。

副キャプテンとして、決意のラストシーズン

「3年間で自分の力不足をすごく感じていました。このままでは何も成し遂げられないという危機感が強く、そこをどう変えるかと考えた時に、結果だけでなく、人間としても成長しなければならない。リーダーシップを持ってチームを引っ張っていく存在になろうと覚悟しました」

大学ラストシーズンを迎えた今季、佐藤は副キャプテンに就任。「自ら発信すること」をテーマに掲げ、チームに貢献することを決意した。関東大学リーグ戦では、開幕戦でのゴールや、慶應大戦のハットトリックなど、印象深い得点でチームをけん引。アミノバイタルカップでも得点という形でチームを決勝へと導いた。

総理大臣杯の試合後は、少しホッとした様子を見せていた

しかし、タイトルが遠い。アミノバイタルカップ決勝では、スタメン出場もノーゴールで途中交代。チームもPK戦の末に敗れ、準優勝に終わった。個人としてもチームとしても、足りない何かを追求し、取り組んできた。そして誰一人として、それが間違っていないと信じている。だからこそ、並々ならぬ思いで迎えた総理大臣杯決勝だった。

先制点を奪われながらも、同点に追いつき迎えた後半アディショナルタイム。自身のひと振りで、悲願のタイトルを法政大にもたらしてみせたのだ。「自分たちが積み上げてきたものを結果で証明できたという嬉しさがありました」。得点後はよろこびを爆発させた佐藤だが、試合後、トロフィーを受け取る姿からは、少しホッとした様子が見てとれた。

法政で得たもの、そして残していくもの

ディサロ燦シルヴァーノ、上田綺世、そして2017年から母校・法政大でコーチを務める井上平コーチも、かつては関東大学リーグ得点王に輝くなど、オレンジのユニフォームをまとい、チームに勝利をもたらしてきたストライカーだ。「平さんは、相手との駆け引きや、細かいゴール前への入り方、前線からの守備などのプレー面だけでなく、メンタルの部分も熱心に指導してくれます。細かいアドバイスが自分の成長につながりました」。偉大な先人たちによって紡がれたストライカーとしての心得を、ピッチで表現し続けている。

今年4月、佐藤の町田ゼルビア(J2)への来シーズン加入内定が発表された。法政大での努力が実を結び、早々のプロ入りを決めたのだ。内定先の町田には、中島裕希や鄭大世など、名実ともにJリーグを代表するFWがずらり。「同じポジションの選手として、経験値が違うなと感じます。大事な局面で、大事なところにいたり、点を取るための技術や、チームのための守備の迫力など、全ての面において凄みがあります。コミュニケーションをしっかり取って学んでいけば、より高いレベルでやれる自信があります」。酸いも甘いも嚙み分けたベテランとのプレーもまた、佐藤の可能性を広げていった。

法政のストライカーとして、後輩たちにも財産をのこしていきたい

そうした経験を未来へ残していくのも、最上級生としての役目。法政大サッカー部のホームグラウンド・城山に戻れば、大塚尋斗(3年、矢板中央)や久保征一郎(2年、FC東京U-18)、石井稜真(1年、アビスパ福岡U18)など、未来のエース候補となる後輩が待っている。佐藤が見せる日々の姿は、彼らの脳裏にしっかりと焼き付いていることだろう。

「結果にこだわり、常に点を取る選手に」。『ストライカー』としての覚悟を胸に戦う大学ラストシーズン。1つのタイトルだけで満足するはずがない。折り返しを迎えたリーグ戦、そしてインカレと戦いは続く。全てのタイトルを手にするため、佐藤大樹は貪欲に、ゴールを狙い続ける。

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