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特集:天皇杯 JFA 第99回全日本サッカー選手権

明大GK加藤大智、「人生最大のチャンス」フロンターレ戦で好セーブ連発

明大のキーパー・加藤は並々ならぬ思いでこの試合に挑んだ

天皇杯 JFA 第99回全日本サッカー選手権2回戦

7月3日@神奈川・等々力陸上競技場
明治大 0-1 川崎フロンターレ

サッカーの天皇杯は7月3日と10日に2回戦があり、明治大学はJ1で2連覇中の川崎フロンターレに挑んだ。結果は0-1で敗戦。惜敗した明大の選手の中で、好セーブを連発したGK加藤大智(4年、名古屋グランパスU18)に注目した。

一番倒したい相手が来た

後半のアディショナルタイム。右サイドからのクロスから、中央でフリーとなった須貝英大(ひでひろ、4年、浜松開誠館)の足元にボールがこぼれた。決まれば同点。一瞬の静寂があって、チームの思いを乗せたシュートはゴール左へ外れた。それはJ1王者という高い壁に挑戦した明大の夢が、幕を閉じた瞬間でもあった。

時を少し遡(さかのぼ)って5月26日。天皇杯1回戦で、明大はJ3のブラウブリッツ秋田と対戦していた。結果は3-0。勝利した瞬間、チームの視線は一つのJ1チームに向けられた。「勝ったあとにアミノバイタルカップという大会を戦ってはいましたけど、みんな天皇杯で川崎フロンターレと戦うことが頭にありましたね」。こう言って笑ったのは、この夜、特筆すべき活躍だったGK加藤だ。

「J1を倒す」という目標のもと、チームはこの大一番に挑んだ

日本のトップリーグとなるJ1で連覇を果たしている王者との対戦を、誰もが待ち望んでいた。チームの力を試すという意味でも、自分の存在をプロの関係者にアピールする意味でも、明大の選手たちは、この夜の試合に対する並々ならぬ思いを胸に秘めていた。

加藤もまた、野心を抱いていた一人である。

「今年のシーズンが始まる前に『J1を倒す』という目標を掲げてました。しかも相手が川崎フロンターレさんという前年のチャンピオン。一番倒したいJ1のチームが来たという気持ちでした。個人としても本当にここが人生最大のチャンスであり、人生の転換点になるかなと思ってました」

このチャンスを逃したくない。トレーニングから熱が入った。GKコーチで元FC東京の榎本達也氏に話を聞き、プロのシュートのタイミングを頭に叩き込んだ。またチームとしても守備面や攻撃の決め事など、一つひとつ準備してきた。“オレたちが倒してやるんだ”という思いを共有し、チーム全員でこの特別な一戦を目指してきた。

「やってやるぞ」の気持ちで挑んだ

加藤は試合前のミーティングで先発出場を告げられた。激しいポジション争いの中で、自分がどの立場になったとしてもフロンターレに勝つための努力をしようと考えていた。そんな中でつかんだ守護神の座。「自分がしっかり試合に出て勝たせるということ、自分のプレーを出してチームの勝利に貢献すること。本当にやってやるぞという気持ちでした」

押し込まれそうになっても、加藤はひたすらにゴールを守った

観衆は8031人。加藤にとって「人生で初めて」という大観衆の見守る中、試合はスタートした。前半の明大は相手をリスペクトしすぎてなかなかボールを動かせなかった。迎えた15分には相手のセットプレーからオウンゴールで失点。「先に失点だけはしたくなかった。そうなったら相手に押し込まれて難しい展開になると思ってました」。ピッチに立つ多くの選手がアンラッキーな失点によってバランスを崩し、一つひとつのプレーに迷いが生じて自分たちの思うようなサッカーができなくなった。

いまにも切れそうな糸をつなぎ止めていたのが加藤だった。37分には最終ラインの背後に出されたボールに反応。積極的に出てピンチをしのげば、43分にはFW知念慶(24)のミドルシュートに対応してビッグセーブ。「フロンターレさんに2点目を奪われるのは、本当に死に近いというか(笑)。本当に試合が終わってしまう可能性があったので、自分の仕事としてはシュートを止めること。最終的にゴールを守ることを意識してました」と、加藤は振り返る。

打たれたシュートは11本。加藤は好セーブを連発してゴールを死守した

もし2点目を決められていれば、一気に試合の大勢が決してしまったかもしれない。だが、守備陣の踏ん張りで失点を1に抑えたことが、攻撃陣に奮起を促し、後半の反撃へとつながった。結果的にあと一歩、勝利には手が届かなかったが、最後までJ1王者を苦しめたことは今後の糧となることだろう。

高いレベルを知り、より高みを目指す

そして、試合を通して素晴らしいパフォーマンスを見せた加藤は、改めてJ1王者と対戦したことで見えた気づきを明かす。「本当に悔しいのは阿部浩之選手がチップキックで狙ったループシュート(後半29分)。あれをやられたときに『これがプロか!』と思いました」。ポジションを少し前にしてシュートに対応しようとしていたのに対して、阿部はその隙を見逃さずにループシュートを狙った。ボールはバーを直撃してノーゴールだったが、「自分の中では1失点と一緒」と、悔しさがにじみ出た。

試合終了後、悔しさから思わず涙を流す

より高いレベルを知ったことで見えたものがあった。それは何よりも大きな経験となったはずだ。ここで感じたことを今後のサッカー人生にどうつなげていくか。「やっぱり次の舞台、プロに行きたいと思っているので、そういう舞台で自分の力を発揮するためにはどうすればいいかというのを、日々考えていきたいと思います」と加藤は言う。

「やる前から楽しかったですし、やっている最中も楽しかったですけど、あとは本当に勝ちだけでした。今後は本当に大学サッカーを制するということを念頭に置いてやっていきたいと思います」。再び舞台は大学サッカーに戻る。初夏の経験が加藤にどんな成長をもたらすのか。いくつものタイトルを獲得するため、また新たな自分をつくりあげる日々が始まっている。

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