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特集:天皇杯 JFA 第99回全日本サッカー選手権

サッカー天皇杯でストイコビッチに挑んだ関西学院大OB、大いに語り合う

大学時代にプロチームと対戦した試合について、関学OBの石割さん(右)と新名さんに振り返ってもらった

サッカーの天皇杯は7月3日と10日に2回戦があり、ここからJ1、J2のチームも出てきます。天皇杯の醍醐味(だいごみ)の一つが、大学のチームがJリーグのクラブを「食う」番狂わせです。3日に6試合、10日に2試合、大学がJのクラブに挑むゲームがあります。4years.ではプロに挑む大学へのエールも込めて、さまざまな記事をお届けします。第一弾は21年前に大きな壁に挑んだ関西学院大学サッカー部OBの対談です。

「夢のような相手」との対戦

1998年12月13日、関西学院大は天皇杯3回戦で伝説の名手ドラガン・ストイコビッチを擁するJ1の名古屋グランパスに立ち向かった。関学の選手たちは岐阜県の長良川競技場で堂々たる戦いを見せ、J1のタレント軍団に最後まで食らいついた。最終スコアは1-3。番狂わせは起こせなかったが、関学サイドにしてみれば濃密な時間だった。21年の時を経ても、記憶が色あせることはない。当時、関学の3回生として中盤でプレーした新名(にいな)幹大さん(41)と石割(いしわり)健さん(41)に、あの日を振り返ってもらった。

ーー天皇杯で名古屋グランパスと戦った日のことは鮮明に覚えてらっしゃいますか。

新名 もちろん。試合が終わったあとに、石割がピクシー(ストイコビッチの愛称)に握手を求めに行ったんだけど、気づいてもらえなくてね。その絵面でテレビの中継が終わったんだよな?

石割 いやいや、正確に言うと、僕が駆け寄ったのは望月重良さん。ピクシーは途中でベンチに下がってたから。

新名 そうか、それは記憶違いやった(笑)。それ以外のことは、めちゃくちゃ覚えてますよ。天皇杯の出場権をつかんで、Jクラブと真剣勝負できるぞ、って意気込んでました。

石割 そうそう、練習試合では関西のJクラブとはよく戦ってたんですけど、公式戦ではやったことなかったので。

新名 トーナメント表を見たら、1回戦が静岡産業大学。初戦を突破したと思ったら、2回戦は国士舘大学。まさかの2試合連続の大学対決でした。関東はレベルが高いですし、国士舘には負けるかなと思ってました。それでも、何とか3回戦に進出したんです。

石割 そこには、夢のような相手が待ってた。

新名 メンバー表にはピクシー、小倉隆史さん、平野孝さん(現・ヴィッセル神戸アカデミー部部長兼スカウト部部長)もいたからな。

ストイコビッチと競り合う石割さん(18番)(提供:MICHI ISHIJIMA)

石割 大岩剛(現・鹿島アントラーズ監督)さんもいたよ。当時のグランパスには、日本代表クラスの選手がずらりと並んでました。1998年の天皇杯といえば、あの3回戦。世間的には、98年度限りで消滅することになってた横浜フリューゲルスが優勝した天皇杯なんでしょうけど、僕らだけは違います。

新名 確かに、そうやな。正直、大学の4年間で何が一番印象に残っているかと聞かれれば、迷わずにあの天皇杯を挙げます。

石割 僕らにとって98年最大のトピックはフランス・ワールドカップではなく、天皇杯の3回戦。

新名 ほかのチームメイトたちにとっても、あの天皇杯は特別だったと思いますよ。1学年上の先輩で、ゴールキーパーとして出てた木越健太さんは、いまでも会社のデスクの上に、ピクシーにPKを決められた写真を飾っているくらいです。そもそも、足をかけてPKを取られたのも木越さんやから(笑)。

石割 あの人、キーパーなのに「足つった」って。よっぽど緊張してたんでしょうね。

リアルアマチュア軍団、プロに挑む

ーー試合前の雰囲気は、どんな感じだったんですか。

石割 いまの大学生たちとは、天皇杯に臨むメンタリティーが違いました。番狂わせを起こしてやろう、とは思ってなくて……。いまほどジャイアントキリングもなかったですし。

新名 現在は大学のレベルも上がって、「プロ予備軍」と言ってもいいぐらいです。天皇杯でも、本気でJクラブに勝つつもりで準備してますし、僕らの時代とは違います。当時、プロと大学のレベル差は、いま以上にあったと思います。ただ、その分、大学生たちはワクワク感を持って天皇杯に臨んでたかな。“リアルアマチュア軍団”が本物のプロに挑む、って感じでした。

新名さんは当時の試合のことを、昨日のことのように鮮明に記憶していた

石割 とくに僕らは関西のチームで、関東の大学に比べるとレベルも低かったと思います。

新名 そんな状況だったので、あのときも本気で勝てるとは思ってなくて……。僕らとしては、どこまで無失点で粘れるかどうかでした。0-0のままでいくと、相手は焦ってくるし、そうすれば何かが起きるかもしれんぞと。ミーティングでは、前線からゴリゴリと捨て身でプレスを掛けていこうって話していました。

石割 12月だし、気候的にも走れましたからね。

新名 ウォーミングアップから気合を入れて、大きな叫び声を上げてました。Jリーガーを動揺させるためです。ちらっと横を見ると、小倉さんが笑ってましたけどね(笑)。

ーーいざ、試合開始の笛が鳴ると、ピッチ上ではどうだったんですか。

新名 僕らはガツガツと体をぶつけにいったので、序盤から荒れました。名古屋の選手たちは僕らのプレスにいら立ち、次々とイエローカードをもらっていました。ピクシーをはじめ、「なんだよ、こいつらは」と思ったんでしょうね。僕らとしては「よしよし」って感じでした。

石割 0-0のまま試合を折り返したので、ハーフタイムは盛り上がりました。

新名 これはいけるんちゃうか、っていう雰囲気になったよな?

石割 そうそう。「集中を切らさず、同じようにガンガンいこうぜ」とか話して。

後半10分、フェイントにやられて先制点を献上

ーーしかし、後半10分に失点しました。

新名 そう、岡山哲也さんに決められたんです。うちの綿田(貴文)が簡単にフェイントにひっかかって(笑)。いまとなってはネタです。

石割 最初に失点したときは、がっくりきました。

新名 あれは忘れへんよ。いま思えば、僕らの集中力が続かなかったんです。それを逃さないのがプロ。さすがやな、って思いました。そこから、さらに2点を取られました。最後にフリーキックから1点を返したんですけど、大きな差があったのは事実です。

石割 僕らはトップギアに入れっぱなし。でもプロは、力の使いどころを知ってました。ここぞという場面で勝負を仕掛けてきて、ポンポンとゴールを奪いました。あと、僕がよく覚えてるのはスタジアムの雰囲気。グランパスのサポーター以外は、みんな僕らを応援してくれてる感じでした。

大学生らしく、とにかく「圧倒してやる」という気持ちでプロに挑んだ(提供:MICHI ISHIJIMA)

新名 関学のアメフト部のみんな会場に来てくれてましたし、アウエーの感じはしなかった。関学側の応援は、グランパスサポーターにも負けてなかったです。

石割 大学からバスが3台ぐらい出て、大勢で応援に駆けつけてくれましたから。

ーー激戦のあとは、みなさんどうしたんですか。

新名 すぐに気持ちを切り替えて、みんなすぐにグランパスの選手たちにサインをもらいに行きましたよ(笑)。ピクシーとか小倉さんとかに。

石割 試合前から行ってたヤツもおるでしょ(笑)。

新名 僕は試合後ですけど、小倉さんにサインをもらいました。高校時代からグランパスが好きで、弁当袋もグランパスグッズでした。

石割 知らんがな!

新名 誰にも見せたことがなかったからな(笑)。小倉さんのことは四日市中央工業高校のときから好きだったので、まさしく夢の時間でした。静岡育ち(清水東高校出身)の僕としては、望月さん、平野さん、大岩さん(いずれも清水商業高校出身)も特別な存在です。僕は、そんな静岡が生んだ大スターである平野さんを相手に「股抜き」したんですよ! 一矢報いたと思いましたね。股抜きをされるのって、静岡では最大の屈辱だから。

石割 そのプレー、全然気付かんかったわ。新名が相手をはがすときはたいがい股抜きなので、あったかもしれないです。

新名 後半の疲れ切った時間にあったんよ。1度だけな。

ーーところで、石割さんは誰のサインをもらったんですか。

石割 僕は誰にももらっていないです。

新名 まじで?

石割 僕ひとり、真剣だったんでしょうね(笑)

新名 おいおい!

石割 疲れ果ててたんです。試合後は電車で岐阜から関西まで帰ったんですけど、翌日は39度を超える高熱でうなされましたから。

新名 それは知らんかった。石割はハードタックルが売りのボランチで、しつこい守備で食らいついてたからなあ。僕も含めて、消耗度合いは尋常じゃなかった。それも天皇杯ならではでしょうね。

一生の思い出になる試合、楽しんでほしい

ーーお二人にとって、大学生としてJクラブに挑んだ天皇杯は一生の思い出ですね。

新名 いまだに言いますから。ピクシーがいたチームに真剣勝負を挑んだこと、選手用のIDカードに小倉さんのサインをもらったこと、平野さんを相手に股抜きしたことも、すべてが最高の思い出です。

石割 僕にとっても特別なものです。あの試合の写真はフェイスブックのトップ画面に設定してますから。周りに突っ込んでもらうためにね(笑)。

石割さんはいまでもグランパスとの対戦の写真をFacebookのトップページにしているという

ーー最後に、これから天皇杯でプロに挑む大学生たちに向けて、エールをお願いします。

新名 卒業後、プロとしてサッカーを続けられるのは、ほんのひと握り。とくに4年生は最後ですし、思う存分、楽しんでもらいたいです。

石割 いまは「楽しんでください」と言っても、僕らの時代のようにはいかんでしょ。本気でJクラブを倒すつもりで練習してますから。それでも、あえて言いますね。20数年後、僕らのように天皇杯を楽しく振り返る日がきっとくると思うので、少しでも心の余裕を持って、試合に臨めるといいですね。

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