サッカー

連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

学生でA代表・上田綺世に思う大学のメリット

コパ・アメリカ初戦のチリ戦、上田(左)のシュートはGKに阻まれた(撮影・内田光)

4years.では、かつて大学時代に体育会で競技に没頭した著名人の方にお願いして、経験競技の「応援団長」になっていただくことにしました。ご自分の経験を踏まえたコラムを書いていただいたり、選手に直接取材してもらったりできればと考えています。サッカーの応援団長に就任いただいたのは、元日本代表DFの岩政大樹(いわまさ・だいき)さん(37)です。最初のコラムは、現在ブラジルで開催中の「CONMEBOLコパアメリカブラジル2019」(7月7日まで)に出場している日本代表で唯一の大学生、上田綺世(あやせ、法政大3年、鹿島学園)についてです。

島で育ち、勝つためのサッカーを悟る 元日本代表・岩政大樹さん

チリ戦でことごとく決定機を外し

日本代表に大学生が選ばれるのは9年ぶりです。コパ・アメリカとは南米一を決める大会。日本代表の場合はJリーグが稼働中ということもあってフルメンバーではないとはいえ、そこは立派な国際Aマッチ。真剣勝負の舞台で日の丸を背負い、戦っています。

6月18日(現地時間17日)、初戦のチリ戦。上田選手はスタメンで出場を果たし、再三決定機をつくり出す動きを見せました。しかしことごとくゴールのチャンスを逸し、日本は0-4で黒星スタートとなりました。上田選手は一部から「戦犯」として扱われましたが、そうした経験もまた彼を大きくしていくでしょう。日本は20日(同21日)にウルグアイと戦い、上田選手も後半22分に途中出場しましたが、2-2で引き分けました。そして25日(同24日)にはエクアドル戦があります。

より“恵まれた”環境がすべてじゃない

それにしても、高校まで無名だった選手が大学サッカーで飛躍し、日本代表です。来年の東京オリンピックではエースの期待もかかっています。いかにして彼はここまでのぼりつめたのでしょうか。同年代には何人も上田選手の上をいっていた選手がいたはずです。彼らはみな、高校からプロに行き、より“恵まれた”環境でサッカーをしているにも関わらず、より成長できたのは上田選手でした。

ちなみに、私は上田選手と多くを語り合ったことはまだありません。よって、ここからは想像になりますが、上田選手はきっと「大学だからこそできること」を探し、見つけ、取り組んできたのだと思います。

一見、プロにいけばサッカー選手として成長するためのすべてがそろっているように感じるものです。しかし「環境」とはそれだけで自分に何かを与えてくれるような便利なものではありません。プロになったからこそできることも当然ある一方で、プロになったらできないこともあるのです。

岩政さんご自身も、東京学芸大学を経てプロになった一人(撮影・山本倫子)

出会い、学び、時間……それらはいましかないもの

例えば「出会い」です。サッカー選手になれば、日々のルーティンの中ではサッカー選手にしか会えません。プロの大先輩たちとの日々は刺激に満ちていて、学ぶことはたくさんあります。しかし一方で、狭い世界の人にしか会わなくなります。とくに若いときには視野を広げる余裕などなくて、いい結果を出さなければならない日々の中で、毎日が何かに追われるように過ぎていきます。

たとえば「学び」です。プロサッカー選手は24時間サッカーのためにすべてを捧げなければ、本当の勝負どころでのディテールを制することはできません。新たな知識を得ることよりも、目の前の結果を出し続けていくことを求められる仕事です。インプットよりアウトプットが多くなってしまうのは致し方ないのです。

たとえば「時間」です。サッカー選手は高卒であろうとも毎週末プロとしての明確な結果を突きつけられます。「何年間かは下積みだ」なんて言ってた選手たちも、毎週の“審判”の中で、結局は長い目で自分のキャリアや課題に向き合うことなどできなくなるのです。

たとえば「統率」です。プロには18歳の若手も、35歳のベテランもいます。チームの中で中心的な役割は、20歳そこそこの選手には決して任されません。先輩の背中を見て、必死に追いていかれないように、追いつけるように、毎日“前”の一点を目指します。そこに“全体を見る”、“みんなをまとめる”という視点は入ってきません。よくも悪くも、チームの中の一つの駒として機能していかなくてはなりません。

さあ、大学でサッカーをするみなさん、スポーツをするみなさんはプロと違う生き方ができているでしょうか。できていなければ、もったいないので、ぜひ「大学だからこそできること」を、プロとの対比の中から一つでも見つけて、明日から取り組んでください。

もういちど言います。「環境」とはそれだけで自分に何かを与えてくれるような便利なものではありません。「環境」とは、“その環境だからこそできること”を身につけたときに、初めて大切なものになるのだと思います。大学という環境にも、それがたくさん落ちています。

サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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