フィギュアスケート

特集:フィギュアスケート×ギフティング

早大・西山真瑚「満足に練習できることは特別」 羽生結弦が背中で語ってくれたこと

羽生結弦の背中をこれからも追いかけ続ける(すべて撮影・浅野有美)

フィギュアスケート男子でオリンピック2大会連続金メダリストの羽生結弦がプロ転向を発表してから1カ月が過ぎた。新しい道を進み始めた偉大な背中を追いかけ続ける早稲田大学の西山真瑚(しんご、3年、目黒日大)もまた決意を新たにしてシーズンにのぞんでいる。羽生から学んだこと、アイスダンスへの思いや今シーズンの目標について語った。

オリンピック「本気で目指していきたい」

昨シーズンは早大の高浪歩未(3年、ケイインターナショナル東京)とアイスダンスでカップルを組み、シニアデビューした。

コロナ禍、拠点のカナダでローカル大会に出場し実戦を積んだ。その中でジュニアとのレベルの違いを痛感した。「僕と同じくらいの年齢でも大人の雰囲気を出しています。一生懸命滑っている感じでもなく、自然に女性をリードしていて余裕があるんです。そして圧倒的に技術やスピードが違う。学ばないといけないこと、鍛えないといけないことが山積みだと思いました」

昨年12月、全日本選手権で3位に入り、大きな収穫を得た。

「全日本は表彰台に乗れたこと、小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)と村元哉中(かな)、高橋大輔組(関大KFSC)と並べたのはすごくうれしく思っています。カナダから帰国後は隔離生活もあり、不安な気持ちがあった中で自分たちができる最大のパフォーマンスを発揮でき、自分自身のアイスダンスの自信にもつながりました」

全日本は北京オリンピック代表の最終選考会を兼ねていた。「オリンピックにかけている思いがウォーミングアップをしているときからひしひしと伝わってきました。これがオリンピックを本気で目指す選手たちの姿なんだと感じました」と、特別な大会を振り返った。

そして、北京オリンピック団体で銅メダル(暫定)、直後の世界選手権で銀メダルを獲得したペアの三浦璃来、木原龍一組(木下グループ)の快進撃に「二人のように、僕はアイスダンスの歴史をつくりたいと思いました」と心を打たれた。

西山はシングルとアイスダンスとの両立を大切にしているが、「本当にオリンピックを目指すとなったら、アイスダンス1本に絞って本気で目指していきたいです」と決意を新たにした。

今年3月の「WASEDA ON ICE」に出演した

今シーズンはシングルで全日本へ

シーズンが終わりに近づいた3月、西山は苦渋の決断を強いられることになった。家庭の事情でカナダから帰国、そして高浪とのカップル解消を発表した。

「コロナ禍による海外渡航の長期規制に加え、突如ロシアのウクライナ侵攻が始まったことで、父の仕事に更なる影響が出ました。経済的厳しさから、カナダから戻ってくる決断をせざるをえませんでした」

だが、東京のクラブではアイスダンスの練習時間が少ないのが現状だ。「ダンスの練習をカナダと同量に日本で行うとなると、個人で貸し切りを何時間もとることになり、カナダより何倍もの費用がかかってしまいます。日本を拠点にする選択肢も難しく、自分の事情にパートナーを巻き込むには先が見えないということから、歩未ちゃんに事情を話し、解散という決断に至りました」

帰国後は東京の明治神宮外苑アイススケート場で練習を続けている。現時点ではパートナーを探しながらも、今シーズンはシングルで大会に出場する予定だ。

今季のフリーの一部を「WASEDA ON ICE」で披露した

ジェイソン・ブラウンのように

今シーズンのプログラムは過去の使用曲から選んだ。ショートプログラム(SP)は「That's Life」 、フリーは「Anthem」と「New World Symphony」で、いずれもカナダで指導を受けていたジョイ・ラッセルさんが振り付けた。

2連続3回転ジャンプやトリプルアクセル(3回転半)の感覚は戻ってきていると言い、プログラムを仕上げている段階だ。

大技は入れず、プログラムの完成度や表現力で点数を積んでいく戦略をとる。「(コーチだった)ブライアン(・オーサー)から、君は(米国代表の)ジェイソン・ブラウンのように演技するといいと言われていました。僕は高難度ジャンプをできるわけじゃないけど、ジャンプの完成度やスピン、ステップ、表現で点数はしっかり出るからと。今シーズンはブライアンからのアドバイスを忘れずに演技しようと考えています」

26日から始まる東京夏季フィギュアスケート競技大会が初戦となる。そして9月開幕のブロック大会を勝ち進み、12月の全日本選手権に出場することが目標だ。

ジェイソン・ブラウンの得意なスパイラルを採り入れた

一つひとつの練習を大事にしていた羽生結弦

7月19日、西山が小さいころから憧れている羽生結弦がプロ転向を発表した。羽生は自分が目指す先で輝く“道標(みちしるべ)”のような存在だった。

出会いは西山が小学2年生の頃。合宿先の仙台で羽生のスケートを見て衝撃を受けた。「自分もこうなりたいって思って。スケートを始めてすぐにスケートでの道標になりました」

中学3年の終わりに羽生が拠点とするカナダ・トロントの「クリケットクラブ」に移籍。3年間ともに練習する機会にも恵まれた。そして大学も羽生と同じ進路を選んだ。

「同じ時間を共有することができ、僕にとっては本当にすごく財産です」

目に焼き付いているのは羽生が練習に対する姿勢だ。

「羽生くんは練習に入る前にすごく集中します。練習は毎日あるのでなぁなぁになりがちなときもあるんですけど、羽生くんは毎日一つのセッションに対しても全身全霊で一生懸命取り組んでいました」

羽生がなぜそこまで一つひとつの練習を大事にするのか。アイスダンスの練習を十分にできないいまだからこそ、その意味が痛いほどわかる。

「いままでクリケットで満足に練習できてきたことは特別なことだったとすごく感じました。いま僕は一つひとつの練習を大事にしています」

今シーズンはシングルで全日本選手権出場を目指す

羽生と競技で共演することはなくなるが西山の道標として光り続けてくれている。「プロの世界で今後もまだまだ羽生くんのスケートを見られるのはすごくうれしいです」とほほえんだ。

アイスダンスの夢を諦めない

全日本選手権出場の目標を達成し練習環境が好転したら、次の目標としてパートナーを見つけ、再びアイスダンスに挑戦、そして専念する計画だ。

「オリンピックに出たいという気持ちがすごく強くあって。オリンピックに行きたいからアイスダンスを始めたというのもあります。競技生活で一番大きな目標です」

羽生結弦はリンクの閉鎖や東日本大震災での被災、度重なるケガといった苦境を乗り越え、歴史的な記録を打ち立ててきた。前人未到の4回転アクセル習得にも励み、常に挑戦する姿を見せてきた。

「羽生くんはこれからも挑戦し続けると話していたので、羽生くんが挑戦し続ける限り、自分も挑戦し続けたいなと思います」

西山が抱いたアイスダンスでオリンピック出場の夢。ここで諦めるわけにはいかない。

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