陸上・駅伝

杜の都で5年連続2位の大東文化大 チームワークを武器に、悲願の駅伝優勝を今年こそ

4月の学生個人選手権、女子3000m障害を大会新記録で制した吉村(撮影・藤井みさ)

第40回全日本大学女子駅伝対校選手権(杜の都駅伝)

10月30日@宮城・仙台
6区間:38.1km(弘進ゴムアスリートパーク仙台スタート)
1区:6.6km(~仙台育英学園)
2区:3.9km(~仙台育英学園・総合運動場側)
3区:6.9km(~仙台市太白区役所前)
4区:4.8km(~五橋中学校前)
5区:9.2km(~石井組前)
6区:6.7km(~仙台市役所前市民広場)

全日本大学女子駅伝(杜の都駅伝)で名城大学が5年連続優勝なら、大東文化大学は5年連続2位である。2013~15年も2位なので、過去9大会で8回の2位を取ったことになる。

5年連続2位をどう受け止めているのか

だがすべてが「同じ2位」だったわけではない。外園隆監督は次のように言及した。

「監督にしてみれば2位ばかりで、何かが足りないのかもしれません。しかし選手たちにしてみればその年、その年のチームが全力で戦って出した結果の2位なんです。『2位が取れて良かった』という年もあれば、『なんで勝てなかったんだろう』という年もありました」

昨年は吉村玲美(4年、当時3年、白鵬女子)が秋シーズン絶好調で、1区の区間賞候補だった。吉村は3000m障害で世界陸上代表経験のある選手である。そして5区に、4カ月半後にマラソン学生記録を出す鈴木優花(現・第一生命グループ、当時4年、大曲)を起用し、優勝のチャンスと捉えていた。だが1区の吉村が4km過ぎで他の選手と接触して激しく転倒。大きく出遅れてしまい、鈴木優花が区間新記録(区間2位)で2位に浮上したが、「悔しい2位」(外園監督)になった。

鈴木優花(現・第一生命グループ)は今年の名古屋ウィメンズマラソンで、日本学生記録を更新した(代表撮影)

一昨年は鈴木優花が8月末に腓骨(ひこつ)を疲労骨折し、直前まで起用できるか分からなかった。5区で大学院生の関谷夏希(現・第一生命グループ)が3位に上がり、アンカー6区にぎりぎりで起用できた鈴木優花が2位に上がった。同監督は「良かった2位でした」と言う。

今年は山賀瑞穂(4年、埼玉栄)が学生の世界大会であるワールドユニバーシティゲームズのハーフマラソン代表に選ばれるまでに成長し、吉村と4年生コンビがチームを牽引(けんいん)する。ただ、過去5年間の5区を走ってきた関谷と鈴木優花のような、トラックの10000mで学生トップレベルの大砲がいない。

それでも大東大は変わらず頂点を目指す。4年生コンビと、期待されている四元桃奈(よつもと、昌平)、鈴木日菜子(城西大城西)、藤原唯奈(白鷗大足利)の2年生3人に話を聞いたが、全員が「今年こそ優勝する」という強い気持ちを口にした。

キャプテンでもある吉村は3年連続1区を走り、区間5位(区間1位と51秒差)、区間4位(同16秒差)、区間11位(同28秒差)という成績。どんな3年間だったのか。そして今年にかける思いがどう違うのか。

「1年目はいい意味でプレッシャーがなく、思い切り走ることができました。優勝を取りにいくチームで走る経験も初めてで、走り終わって『これが全国で2位ということなんだ』と実感しました。2年目は(関谷)夏希さん、スズさん(鈴木優花)がいる安心感がありました。世界陸上に出場して注目されるプレッシャーも感じながらも、2人がいらしたので落ち着いて走ることができましたね」

「3年目は調子も良く、絶対に区間賞を取ると思ってスタートしました。自分のあとの3区間が全員1年生だったので、なんとしてもいい流れを作りたかったんです。転倒してしまった悔しさと、チームに貢献できなかった申し訳なさで複雑な気持ちでした。それでも1年生たちが頑張って5区まで襷(たすき)を渡して、スズさんが2位に上がってくれた。昨年はチームに助けてもらったので、最後はチームに恩返しをしたいんです。3年間、見えたのに取れなかった優勝を、今年のチームで必ず取ります」

吉村の言葉には最終学年にかける気持ちの強さが込められていた。

4年生コンビ、吉村の強さと山賀の信頼感

今季の吉村は6月の日本選手権3000m障害で9分39秒86の学生新をマークしたが、7月の世界陸上では予選3組14位(9分58秒07)で決勝に進めなかった。それまでは卒業後の進路を決めかねていたが、レース後に競技続行を明言した。

吉村は今年の世界陸上にも出場した(代表撮影)

9月の日本インカレと関東大学女子駅伝はひざの故障で出場しなかったが、練習は9月には通常通りに行っていた。4連勝がかかっていた日本インカレ欠場を決断した吉村の気持ちを、外園監督が推し量った。
「4連覇はいけたと思いますが、そこで頑張ると大学最後の駅伝が駄目になる可能性がありました。チームに貢献することを大切にしている吉村にとって、そのリスクを取る選択肢はありませんでしたね」

在学中に2回(2019、22年)も世界陸上代表になった吉村の強さは、どんなところにあるのだろうか。4年間を近くで見てきた山賀に聞いてみた。

「頑張るぞ、という素振りは見せないのですが、誰よりも心の強さを持っています。練習は外しませんし(設定タイムを大きく下回らない)、やらないといけない時期はしっかり集中し、やると決めたことは絶対にやり遂げます。自分のことをすごく理解していて、レース前にこれくらいができれば本番も走れると理解しているから、ピーキングをしっかりできて、チャンスをものにできるんです」

世界陸上後にひざの故障で走れない期間があったマイナスをどう克服し、最後の杜の都駅伝にどうピークを合わせるか。客観的に見れば区間4位や5位では、吉村が100%の力を出したとはいえない。区間は1区と決まっているわけではないが、前半区間でチームを流れに乗せる走りが期待される。

もう1人の4年生である山賀は典型的なスタミナ型の選手。杜の都駅伝は1年時から6区区間4位、3区区間9位、6区区間2位の成績を残してきた。今年の関東大学女子駅伝は、夏に新型コロナウイルスに感染したり、けがをした影響で、当初は出場予定がなかった。だが出場予定の1年生が故障をしたため急きょ起用され、6区区間賞の走りを見せた。「区間賞は初めてでうれしいのですが、課題があったことも含めて、もっともっと力をつけないといけません」と、自戒を込めて話す。

自身の4年間の成長を「一番は学年が上がるにしたがって、距離の練習で余裕を持てるようになったこと」と自己分析する。4年目は最長区間の5区への出場が有力視されている。

「3年間、関谷さん、(鈴木)優花さんと力を持った先輩がいたから、のびのびと頑張ることができました。今年は4年生として、後輩をのびのびと、力を出し切る走りをさせられたら優勝につながると思います」

山賀が走るのは後半区間。前半を走る選手をのびのび走らせるには、練習や日常生活で後輩たちから信頼される存在になる必要がある。四元は「前半区間で私たち2年生が踏ん張れば、名城大と五分五分の勝負ができます。そうしたら(山賀)瑞穂さんが決めてくれる」と話していた。

山賀は後輩たちの目には、関谷や鈴木優花と同じくらいの存在に映っている。

杜の都では4年生の走りがカギを握る(以下の写真はすべて撮影・寺田辰朗)

2年生トリオの中から区間賞選手が現れるか

前半区間で名城大と互角に戦うには、2年生トリオが今まで以上の走りをする必要がある。では、3人はどういった特徴がある選手たちなのだろうか。

3人とも高校時代に全国大会で活躍した実績はないが、昨年の杜の都駅伝でメンバー入りした。5000mの自己記録は藤原が16分19秒16、鈴木日菜子は16分28秒10、四元が16分32秒11と同レベルで、トリオとして紹介されることが多い。

ただ3人個々に特徴は異なる。分かりやすいのは距離への適性の違いだ。藤原が次のように説明してくれた。

「鈴木(日)は長めの距離が得意で、昨年の全日本も3人の中では一番長い3区(6.9km。区間9位)を任されました。四元はこれまではスピードでしたが、今回の関東で最長区間の3区(8.6km。区間5位)を初めて走りました。私はスピードが特徴で昨年の全日本が4区(4.8km。区間3位)、先日の関東が1区(4.3km。区間4位)です」

鈴木日菜子は関東大学女子駅伝5区では区間6位で、区間賞の嶋田桃子(日本体育大学2年)に1分近く離された。練習ではリラックスしたいい走りができていて、外園監督は区間賞の可能性も感じていたという。

鈴木日菜子自身、練習と駅伝の走りの違いを自覚していた。

「合宿を通して体幹の強化ができて、長い距離では課題だった後半もブレたり、上に跳ねたりしなくなったんです。スピードを少し上げてもできて自信があったのですが、駅伝になったらリラックスした走りができませんでした」

関東大学女子駅伝で良かったのは四元である。最長区間の3区で区間5位。区間賞選手には30秒近く引き離されたが、区間2位選手とは6秒差にとどめた。外園監督は「高校から昨年は貧血もあり、距離への不安がありましたが、夏場にかつてないくらい走りました。合格点とまでは言えませんが、距離の長い区間でも走るイメージを持てるようになりましたね」と期待する。

同学年に同レベルの選手が3人いることで相乗効果も生じている。藤原は「私は自信を持って練習を引っ張ることができないのですが、他の2人は引っ張っています。尊敬もしていますが、負けたくもありません」と切磋琢磨(せっさたくま)する様子を話した。寮はオフの場で、日常生活中にトレーニングや競技のことは話さない選手も多い。だが3人は「今日は粘れなかった、とか、引っ張れなかった、という話が何げない会話の中で出る」と言う。

高校時代の実績を見れば、3人の成績は現時点でも健闘といえる。だが優勝を目指すには、もう1段階も2段階もレベルアップする必要がある。

外園監督は「大胆になれ」という言葉を3人に投げかけている。鈴木日菜子はその言葉を「走らなければ、という考え方で走るのでなく、挑戦する気持ちで走ることだと思います。失敗を恐れず、練習からチャレンジしていく。ビビらず大きな気持ちで臨みます」と受け止めている。

外園監督は2年生トリオに「大胆になれ」と声を投げかけている

高校時代の実績がなかった選手も、鈴木優花や山賀、かつて5区を走った福内櫻子のように、学生トップレベルに成長した例が多い。外園監督は3人の中からも、そのレベルの選手が育つことを期待している。
今年の全日本大学女子駅伝で1人がその成長を見せて、区間2位を10~20秒引き離す走りができれば、他の2人は区間3~4位でもチームはトップ争いを展開していける。

大学で伸びるトレーニング法を日本でも

箱根駅伝で優勝4回の伝統校である大東大は、女子長距離の強化を2010年にスタートさせ、OBの外園監督が就任した。外園監督自身は学生時代はマネージャーで、卒業後はトレーナーとして活動した。アメリカでも研鑽(けんさん)を積み、帰国後にクレーマージャパンを設立。スピード・アジリティー(敏捷性)・クイックネスに着目したSAQトレーニングの普及などに尽力してきた。

外園監督は現場指導に乗り出した時、「日本の高校生はすごい選手が現れるのに、シニアになって伸び悩んで世界に差をつけられていた。私が活動していたアメリカでは、大学に進んだ段階で伸びていました。それを日本でもできないか」という点を強く意識してスタートした。

大東大が行うサーキットトレーニングの光景

強化3年目の12年には杜の都駅伝初出場で6位に入賞し、翌13年には3連勝した立命館大学に次ぐ2位と、早くも学生女子長距離のトップレベルに躍進した。その後は21年までの9大会で8回の2位を占めている。

大東大選手たちの成長を語る時、「サーキットトレーニング」への取り組みは欠かせない。学生は実業団ほど練習時間がとれないため、1日3回の練習ができる合宿を頻繁に行ったり、走り込みに時間を費やしたりすることができない。その点を補い、基礎体力アップや効率の良い走り方の習得と、持久力強化を同時に行うことがサーキットトレーニングの狙いである。

年々改良を加えて完成度が高まったのと同時に、Sシリーズ、Mシリーズ、Rシリーズと3つのパターンに発展してきた。一昨年あたりに現在の形になり、昨年は鈴木優花が取り組みを強化してマラソン学生記録につなげた。

効率の良い走り方の習得と、持久力の強化を同時に行うことができる

現役学生では吉村がサーキットトレーニングの活用を次のように話していた。

「効果を実感したのが去年の日本インカレでしたね(9分41秒43の当時学生新、日本歴代2位)。夏の間ずっとステーション(Sシリーズ)を続けて、筋肉の付き方が変わりました。『フォルムが変わったね』といろんな人に言われましたから。やり始めた頃はダメージが大きくて体の使い方までは意識できませんでしたが、慣れてくると、今、どこの筋肉を使っているかが分かってきて、トレーニングの効果をより上げていくことができるんです」

サーキットトレーニングだけが理由ではないが、大東大の選手たちの成長を見ると、これまでになかった長距離強化のメソッドとして確立されてきた、といってよさそうだ。

サーキットトレーニングに励む吉村

武器は明るさとチームワーク

取材を通じて大東大選手たちの明るい雰囲気と、チームワークの良さが伝わってきた。

練習後の集合で監督やスタッフの感想や指示が伝えられた後、選手だけが集合し、短い時間ではあるがミーティングが行われていた。取材日の内容は「先輩から、今日のサーキットトレーニングはみんな正確にできていた、ということや、夏合宿の成果が表れていること、これからロードシーズンに入っても筋力を落とさないように工夫していこう、というお話でした」と四元が明かしてくれた。

「良かったことも悪かったことも、その日気づいたことを先輩後輩関係なく話し、タテのコミュニケーションもしっかり取ることが目的です」

そして最後に全員が人さし指を両頰に付け、「にこにこー」と言って笑顔を見せた。「練習がうまくできなかった選手がいても、最後はみんな笑顔で終わるんです」と四元。次の練習に積極的な気持ちで向かうことができる方法だろう。

選手だけのミーティングは、ほぼ毎日行われる

2年生たちを取材していると、先輩たちの話が何度も出てくる。

藤原は「4年生にとって最後の全日本大学女子駅伝です。自分たちの走りをすることはもちろんですが、感謝の気持ちを持って走ります。4年生に日本一を取ってもらうためには4年生だけに頼らず、2年生3人でも引っ張る意識でいます」と話した。

藤原は昨年の杜の都駅伝を、「1年生で怖い物知らずでいきました」と話している。吉村の1年時と同じ感想で、大東大では強いから駅伝メンバー入りするというより、駅伝に出場していくことで成長していく。

ただ、どこかで戦力がそろわないと優勝には手が届かない。今年で言えば、2年生トリオの中からブレークする選手が現れる必要がある。そのためのチームワークでもあり、4年生が一番、後輩たちの成長を願っている。

吉村が杜の都駅伝を前にした今の思いを話してくれた。

「卒業する時に私たちの代が、何をチームに残せるか。世界陸上は個人で出場した大会ですから、残すことができる一番の思い出、宝といえるのはやはり駅伝なんです。3年間、2番の景色を先輩たちが見せてくれました。今年こそ初優勝したい。そのために3年間チーム作りでここが足りなかった、と思える部分を埋めるために、学年に関係なくコミュニケーションを取れるチームを作ってきました」

鈴木優花がマラソン学生記録を出した時、大東大メソッドとしてサーキットトレーニングが注目を集めたが、駅伝に優勝した時は大東大のチームワークも、それに劣らず注目を集めるのではないか。

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