橋岡優輝「世界で戦う経験値を増やしたい」パリオリンピックで走り幅跳びの金メダルへ
陸上男子走り幅跳びで東京オリンピック6位入賞の橋岡優輝。パリオリンピックでは金メダルをめざしている。2022年シーズンからはけがの影響もあり、同年7月に米国オレゴンであった世界選手権は10位。目標実現に向けたプラン、競技の魅力や地元・埼玉への思いなどを語った。
※この記事は2022年12月公開のインタビューを再構成したものです。
オレゴンの収穫、世界トップで戦える自信
橋岡は埼玉県浦和市出身。父が棒高跳び、母が100m障害と三段跳びでそれぞれ日本記録樹立の経験を持ち、叔父の渡邉大輔さんも走り幅跳びのオリンピック代表という陸上一家に育った。
日本大学時代はU20世界選手権、アジア選手権、ユニバーシアードで金メダルを獲得。2019年世界選手権(カタール・ドーハ)で日本人初の8位入賞、2021年東京オリンピック6位入賞、2022年世界選手権(米国・オレゴン)10位と、世界トップジャンパーの道を歩んでいる。
橋岡は「ドーハでやっと世界のスタートラインに立ち、東京で一歩進み、オレゴンで世界で戦っていくビジョンが見えたことが大きな収穫でした」と、これまでの大会を振り返る。
ドーハと東京では予選に集中したが、オレゴンではピークを決勝に合わせて臨んだ。予選を8m18(+0.4)の全体トップで通過したが、決勝は2回ファウルをして7m86(+0.4)に終わり、悔しさが残った。
「2回ファウルしてしまいましたが距離が出ていたので、ピーキング方法をもう少し突き詰めていけば、世界トップとして戦える自信がつきました。そこで戦い切っていくという自力や経験というのが足りないというのが露呈した試合だったので、そういうところを埋めていかないといけないなという新たな課題が見えた試合でした」
感覚の言語化、再現性を高める
世界の舞台で得た収穫と課題。試合で高いパフォーマンスを発揮するために必要なことは何なのか。橋岡は「再現性」をキーワードに挙げる。
「1回出た記録については、コンディションさえ整えばすぐ出せるという状況をつくり上げることで、大事な試合や1年間を計画していく中で余裕が持てるようになります」と説明する。
再現性への意識は八王子高校時代に培われた。叔父で陸上部顧問だった渡邉大輔さんの指導で「言語化」を意識した練習に取り組んできた。
1本跳ぶごとに「どうだった?」と感覚を聞かれる。高校生の限られたボキャブラリーの中から言葉を探してアウトプットしていくうちに、少しずつ自分の中から言葉を引き出して感覚を伝えられるようになった。「自分の感覚が言語化できるようになり、言語化した状況に体を合わせればいいというのがやりやすくなりました」。それが再現性につながっている。
日大では、森長正樹コーチに教わる中でインプットの機会が増えた。「具体的な体の動きをインプットしてもらえるようになり、それを自分で組み込んでいって、コーチに伝えてアウトプットする繰り返しでした」。好循環が生まれ技術が磨かれた。
大学での学びを競技に生かす
大学では、学業面でも競技につながる知識は積極的に吸収した。トレーニング論や骨格や体の仕組み、コーチング、栄養学などを学び、論文もたくさん読んだ。
当時日大には、山川夏輝(佐賀県スポーツ協会)と小田大樹(ヤマダホールディングス)の8m台を跳ぶジャンパーがいた。「強い環境に身を置くこと、学業でスポーツ科学の分野でいろいろ知っていくことが重要と考えていました」と語る。
「好きなものについて必要なものは何でも貪欲(どんよく)に吸収する必要性があるという考え方です。ただただ感覚でやるだけではだめで、自分の体を知ることによって調子を整えることができると知っておくのがまず一つなのかなと。論文など確立されているものを知っておくことは自分の経験値として生きていく。引き出しが多い方が乗り越えられる壁も多くなるのかなと考えています」
2024年パリオリンピックで金メダルを目指す橋岡。そのために「世界で戦う経験値」を増やしたいという。
「今年に関してはけがでダイヤモンドリーグなど大きな試合をこなせず、いきなりオレゴンがどんと目の前に現れた感じでした。トップの選手とダイヤモンドリーグなどで顔合わせていれば、自分のペースでもっと試合を進めることができる。ずっと思っていることです。跳ばれても跳び返す自力も必要だと思いますし、強引に自分の流れに引き込んでいくという経験が僕には必要かなと思います」
陸上競技、そして地元・埼玉への思い
橋岡は2022年の9月末、所属するUDN SPORTS(東京都港区)が進めるSDGsプロジェクト「地方からミライを」のトークイベントに登壇した。そこで競技の魅力や地元・埼玉への思いも語った。
UDN SPORTSでは、所属アスリートが出身地や縁のある地域で子どもたちと交流することで、競技の普及やスポーツを通じた地域活性化に取り組んでいる。そしてコロナ禍で打撃を受けた地方企業や中小企業とも連携してビジネス創出にも力を入れる。トークイベントにはバドミントンの桃田賢斗(NTT東日本)、サッカーの水沼宏太(横浜F・マリノス)らも参加した。
橋岡は地元・埼玉について「ベッドタウンとして住みよい街になっている」と魅力を語る一方、スポーツやSDGsの達成目標に向けて取り組むべきところがあると考えている。
「(埼玉の)スポーツ施設を通じて、学びとともにスポーツも普及していけたらと思っています。今回のトークイベントのように、実力も知名度もある方々と取り組むことで、いろんなプロジェクトをやっていけたらなと思いがあります」と話す。
橋岡自身は中学時代、100mハードルや砲丸投げなど4種競技で活躍していた。その経験がいまの競技に生きているといい、子どもの頃は走りの基礎や種目を絞らずに競技に取り組んでほしいという。
「陸上全部共通するんですが、走る、跳ぶ、投げる、すっごく簡単なのにいろんな技術があってすごく難しいんだよっていう。突き詰めても、突き詰めても、新しい課題が出てきたり、その先がさらにあったりする。簡単なゆえに難しいというのが一つの魅力かな」とほほえむ。
100mやリレーなどに比べると走り幅跳びの注目度はまだまだだ。だが橋岡のように世界トップジャンパーの存在が、その種目普及のきっかけになる。いつか走り幅跳びの時代が来ますか?と質問すると、「頑張ります!」と爽やかに返してくれた。
パリオリンピックに向けたアメリカでので武者修行では、22年世界選手権男子100mで決勝に進んだサニブラウン・アブデル・ハキームも所属する「タンブルウィードTC」でトレーニングに励む。
「オリンピックに向けて来年、どれだけしっかり経験を積んで、ブダペストの世界選手権でメダルに手をかけられるかが勝負。焦らずけがをしないでやっていきたいです」
最高峰の舞台で一番輝くメダルへ。世界トップレベルの環境で自らを磨き大きな飛躍を誓う。