野球

明治神宮大会を制した明治大学 全国制覇につながった「1インチ」への執着心

優勝を決め、スタンドの部員のもとへ駆け出す明治大の選手たち(すべて撮影・小俣勇貴)

第53回明治神宮野球大会で、大会最多を更新する7度目の優勝を果たした明治大学。田中武宏監督は東京六大学野球秋季リーグを制した後、気づいた。

「似ているな」

思い出したのは、コーチ時代。柳裕也投手(現・中日ドラゴンズ)や佐野恵太選手(現・横浜DeNAベイスターズ)らを擁して、前回優勝を果たした2016年だ。どことなく、チームの歩む軌跡が重なっているように感じていた。

春の敗因に向き合い続け、迎えた秋

6年前のチームは、春の全日本大学野球選手権でタイブレークの末に1-2で敗退していた。その悔しさを糧に練習に励み、明治神宮で栄冠を勝ち取った。

今年のチームも同じだった。6月の全日本大学野球選手権準々決勝の佛教大学戦、延長十回にバント処理で投手が悪送球し、外野手のカバーも間に合わず、1-2でサヨナラ負けを喫していた。そして、明治神宮大会の初戦で関西大学と対戦する組み合わせも、6年前と一緒だった。

「選手にも、それ(その情報)は頭に入れています。ここまで来たら『運』でも何でも使って優勝したい」。田中監督の言葉は、できる限りの準備は尽くしてきたという手応えの表れだったのかもしれない。

あとは天命を待つだけだ、と。

今大会は「僅差」の接戦を制して頂点まで駆け上がった。明治大が春から秋にかけて詰めてきたのは、まさに、そのわずかな差だった。

接戦で光った「1インチ」への意識

関西大との初戦は、相手投手に13奪三振を喫し、適時打ゼロながらも泥臭く1点差の接戦をものにした。肝になったのが、立ち上がりの攻撃だ。

一回1死から、この秋にレギュラーに定着した飯森太慈(2年、佼成学園)が四球で出塁。秋季リーグ盗塁王(9盗塁)の機動力を警戒される中、初球で二塁を陥れた。次打者の安打で三塁に進むと、驚いたのはさらにその次だ。

前進守備を敷く二塁手の正面に転がったゴロで、迷わず本塁に突入。相手はミスなく本塁へ送球したが、飯森はタッチをかいくぐって先制点を挙げた。殊勲の走りを見せた飯森は、「(ゴロでスタートを切ったのは)アウトになるタイミングでも、挟まれて、また二、三塁を作れば良いと思っていた。『間に合うかな』という感じだったけど、何とか(タッチを)避けられた。足で貢献したいと思っていて、チームが大事にしている初回の入りでそれができて良かった」と事もなげに振り返った。

俊足が持ち味の飯森は小技もうまく、明治大の攻撃に幅をもたせた

全日本大学野球選手権での敗戦後、チームが意識してきたのが、「1インチ」への徹底だ。守備の球際も、カバーリングも、走塁も。そのわずかな差が勝敗を分ける、と首脳陣は口酸っぱく指摘してきた。頭で分かっていながら実践できていなかった選手たちも、4年生から次第に意識が広まっていった。

4年生が集大成で見せた執着心

その徹底が、名城大学との準決勝でも要所で発揮された。この試合で躍動したのが、4年生の日置航(日大三)だ。秋季リーグで自打球によるあごの骨折で離脱していたが、チームメートがリーグ優勝を果たしたことで、集大成の場に間に合った。

一回、1死満塁から遊撃にしぶとく適時内野安打を放つと、その裏の2死二塁の守備だ。背走しながら頭上を越えそうなきわどい打球をジャンピングキャッチ。攻守で「1インチ」への執着心を感じさせた。日置の活躍によって初回の攻防で主導権を握り、5-1で決勝に駒を進めた。

「(先制打は)次に何とかつなげようと思って打席に立った結果。チームメートに感謝しながらプレーしている」と日置。言葉に、チームの団結の強さも感じさせた。

左翼で大飛球を好捕し、仲間に迎えられて笑顔の日置

最後のアウトに現れた「MEIJI」の徹底力

決勝は、大会最多16度の優勝を誇る東都大学野球連盟を代表する國學院大學との顔合わせに。東京六大学野球連盟の代表は、直近5度の「東京六大学vs東都」の決勝で5連敗中だった。

試合は、互いに好守を連発するロースコアの接戦になった。1-0の九回2死一塁、明治大が奪った27個目のアウトには、らしさが凝縮されていた。

一、二塁間にゴロが転がったとき、投手の村田賢一(3年、春日部共栄)はとっさに思った。「(右前に)抜けた」。それでも、その足は一塁ベースめがけて全力でカバーに走っていた。「(二塁手の)村松さんならもしかして(捕ってくれる)と信じて」。主将でもある村松開人(4年、静岡)が、期待に応える。難しい体勢でさばいて一塁に送球。間一髪でアウトを奪った。

27個目のアウトは、村田(左)と村松(右端)の見事な投内連携で奪った

「いつもやっている投内連携を発揮することができた。練習通りだった」と村松は言う。6月の全日本大学野球選手権では、まさに投内連係の乱れでサヨナラ負けを喫した。それ以降、投内連係やカットプレーの練習の前には、部員を一度集めて「1インチ」の意識を共有。ミスがあればしっかり指摘して、完璧に仕上げてきた。村田がカバーを怠らなかったのも、頭ではなく体で覚えていたからこそだろう。

明治大の日本一は、2019年の全日本大学野球選手権以来だった。当時、入学したての1年生が、4年生になって後輩に強い明治の伝統をつないだ。村松は「最後に後輩に日本一を経験させてやれて良かった。責任を果たせた」と胸をなで下ろした。

優勝を喜び、握手を交わす村松と蓑尾⑳

今大会メンバー入りしたのは25人。田中監督は、「アピールがすごくて、選ぶのが本当に悩ましかった」と明かした。実際、メンバー外にも高い長打力を誇る杉崎成(2年、東海大菅生)や、秋季リーグでも好投した左腕、久野悠斗(1年、報徳学園)ら実力派の下級生が控えている。

日本一という大きな経験を手にした「MEIJI」の強さ、しばらく途切れそうにない、と改めて感じさせる戦いぶりだった。

in Additionあわせて読みたい