サッカー

横浜FC内定の明大・林幸多郎 五冠知る最後の主将、元日に国立競技場で新たな伝説を

2019年以来のインカレ優勝を目指す明治大学の林幸多郎主将

第71回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。関東大学1部リーグ戦(リーグ戦)を制した明治大学は関東地区第1代表として2回戦から登場する。目玉選手不在と言われ、前評判は決して高くはなかったこのチームのリーグ戦優勝は、主将の林幸多郎(4年、佐賀北、サガン鳥栖U-18)の存在なしには語れない。2023年元日に国立競技場で行われる決勝に勝ち残るため、そして新たな“最強明治”の姿を後輩たちに示すため、集大成の舞台に向かう。

インカレ決勝目標、波乱の幕開け

まさかの幕開けだった。

林はサガン鳥栖U-18では、主将としてプリンスリーグ九州で無敗優勝を達成。明治大では、3年次から出番を得ると、今季は主将に就任した。

「元日に国立で勝って明治の校歌を歌いたい」(林)。2023年の元日、国立競技場で開催予定のインカレ決勝を最終目標に始まったプレシーズン。明治大の伝統的な4-4-2のスタイルではなく4-3-3を採用し「強烈な守備とアグレッシブな攻撃」を兼ね備えたチームを目指すなど、戦術面でも『変革』を目指した。

しかし、始動後すぐに部内で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、活動が再開したのは3月初旬。「普通プレシーズンというのは6週間は必要」(栗田大輔監督)という中で、約1カ月でリーグ戦開幕戦となる東京国際大戦を迎えた。

大敗から「厳しさ」取り戻す

試合は序盤からペースをつかまれると、31分にPKから先制を許す。その後も東京国際大の勢いに飲まれ、0-4の大敗に終わった。「これが実力なんだな、もう一回自分たちを見つめ直してやらないと降格も見えてくるぞと思っていた」(林)

思い知らされたのは、後輩たちに示さなければいけない“最強明治”の姿と現実とのギャップ。3年前の五冠を知る最後の世代だからこそ、大きな危機感を感じていた。それでも「苦しい状況でも前を向いていて、勝負強いメンタルを持っているのが明治」(林)。第2節順天堂大戦では、セットプレーからの1点を守り抜き勝利。大敗から中2日で劇的な改善を見せた。

3日間での激変の裏にあったのは、林中心に『厳しさ』を取り戻したことだった。「下級生はノリ的な部分があって試合前にヘラヘラしている部分があったのでそこをやめようと。締まりあるチームを作ろうというのは大きく変えたところだった」(林)

チームにはU-21日本代表FW佐藤恵允(3年、実践学園)など、昨年度からトップチームで経験を積んだ下級生が多く在籍。日本一厳しいとも言われる日頃の練習から養われた“個の力”は、他大学以上のものがあった。「チームの意志を統一して、一つになって向かっていく」(林)。強烈な“個の力”を締め上げ、ベクトルをそろえることで中2日での会心の勝利へとつなげた。

リーグ戦開幕戦の大敗からチームを立て直した

けがからチームを見つめ直す

順大戦からチームは引き分けを挟み6連勝。開幕6連勝と快進撃を見せた東京国際大を猛追した。林個人としてもJ2・横浜FCへの来季加入内定が発表されるなど、順調な日々を過ごしていたが、第9節を目前にアクシデントが発生。練習中に林が第5中足骨骨折のけがを負い、約3カ月の離脱を強いられることとなった。ピッチ内外でチームを支える林の離脱はチームの大きな穴となったが「自分が抜けたことで他の4年生が『やってやろう』という気持ちになってくれた」(林)。4年生全員がチームを引っ張る自覚が芽生えるきっかけとなった。

また、けがでの離脱はチームを俯瞰的に見るきっかけにもなった。「けがするまではトップチームをどうにかしようと考えていたが、6時からと8時からの2部練習でリハビリ組は最初の組に入るので後の組の選手を見ることが多くなって、下級生などセカンドチームの選手がどういう取り組みをしているのかなど、コミュニケーションを取るようになった」(林)。それまでは内側からトップチームを導くことに終始していた林。セカンドチームの選手にとっては、主将と直接コミュニケーションを取ることで「明治のために戦う」モチベーションが上がるきっかけとなった。

さらにチームの士気を高めるきっかけとなったのが、試合後の映像チェックだった。「林は試合が終わったらすぐにその映像を見るんですよ。絶対に一人ではなく食堂で見るんで、みんな気になって集まるんです。そこで解説し始めて、ディスカッションが始まって、練習に落とし込むんです」(遠藤雅己・4年、桐蔭学園)

チームの課題について学年を超えて議論。その中でも「自分たちが1年生の頃は4年生に怖さを感じて意見を言えないこともあったが、今は『何かある?』ではなく『これについてどう思う?』という聞き方をして意見を発信させ続けたことで、下級生が自分から喋ってくれるようになった」(福田)。下級生にとって発言しやすい環境を作りながらチームについて議論することで、下級生にも「自分がチームを勝たせる」という自主性が芽生えた。こうして林を中心に全員が「明治のために戦う」モチベーションを持ち、ベクトルを統一できたことが優勝へとつながった。

林を中心に全員が「明治のために戦う」モチベーションを持つようになった

“志創”の集大成を

創部100周年を迎え、後援団体となる一般社団法人明大サッカーマネジメントも発足するなど『変革』の時を迎えている明治大サッカー部。今年度は「全員が高い志を持って新たな明治を作り上げていく」という思いを込めた“志創”をスローガンに掲げシーズンへと臨んだ。

だが、新チーム発足直後に部内でクラスターが発生し、開幕戦では大敗。ケガ人も続出し、後期には2度の5失点があるなど、波乱曲折なシーズンを歩んできた。それでもリーグ戦では連敗は0。早稲田大や駒澤大などの伝統校が降格の憂き目に遭い、昇格組の東京国際大が躍進するなど勢力図の『変革』の中でも変わらぬ強さを見せ、2年ぶり7度目の王座に輝いた。両SBを林と副将の福田心之助(4年、札幌山の手、北海道コンサドーレ札幌U―18)が担い、林は特別賞に当たる東京中日スポーツ賞を、福田もリーグ戦MVPを受賞した。

2年ぶり7度目のリーグ戦優勝に導いた

12月11日には今年度最後の大会となるインカレの初戦を迎える。関東地区第1代表として出場する明治大は、順当に勝ち進めば3回戦で総理大臣杯全日本大学トーナメント王者の国士舘大学と激突する。夏のアミノバイタルカップ(関東大学選手権)決勝で敗れ、後期リーグ戦では1-5の大敗を喫した相手との対戦に「自分としては嬉しいですね。リベンジなので(リーグ戦最終節で完勝を収めた)東京国際大と同様そこに勝って優勝したいですね」(林)と意気込みを語った。

2019年のインカレ優勝以来カップ戦ではトロフィーから遠ざかっている明治大。「トーナメントでの負けが続いてるのでそこを払拭して、スタンドの応援含めて明治のサッカー部ってこういう組織なんだというのを見せたい」(林)

新たな“最強明治”の姿を後輩たちに示すため、林組最後の戦いが幕を開ける。

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