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特集:ウインターカップ2022

YouTubeのコメント欄が悔しくて 福岡第一の新旧「8番」対談

福岡第一の轟琉維(右)と横浜ビー・コルセアーズで同校出身の河村勇輝(撮影・野村周平)

 バスケットボールの高校日本一を決める「ソフトバンク ウインターカップ2022」(第75回全国高校選手権)で大会アンバサダーとして盛り上げの一翼を担うのが、福岡第一出身で3大会前に優勝を果たし、現在は日本代表で活躍する河村勇輝=横浜ビー・コルセアーズ=だ。

ウインターカップ開幕へ 大会アンバサダー河村勇輝「1試合1試合が熱い戦いになる」

 同じポイントガード(PG)で、河村を「憧れの選手」と慕う福岡第一の現エース・轟琉維(3年)が、先輩・河村と初めて対談し、チームを引っ張る上での悩みや疑問をぶつけた。(対談は11月)

■初めて見て「この子が来てくれたら安泰」

 河村「学年的にちょうど入れ替わりの年齢差なので、今回が初対面みたいな感じですよね。まずは日清食品U18トップリーグ(9~11月に全国の強豪8チームで初開催されたリーグ戦)、優勝おめでとうございます」

 轟「ありがとうございます」

 河村「どうでしたか?」

 轟「毎週遠征というすごくハードなスケジュールだったので、結構体力面でも疲れがたまりました。でも優勝できたんで、良かったかなと思います」

 河村「本当にすごい。試合映像は見られていないんですけど、結果は見ました。1桁点差の試合を制することができたのは、PGのおかげだと思います」

 轟「ありがとうございます。ところで、初めてお会いした時のことは覚えていますか?」

 河村「もちろん覚えていますよ。確か、体験入部で練習に来ていたのかな。めちゃくちゃうまくて、この子が入ってくれたら安泰だなと思って。でも、地元福岡の出身と聞いたので、(ライバルの)福岡大大濠さんが取るだろうなとも思いました。スーパースターは大濠さんの方に行っちゃうだろうなって。それが、第一に決めたといううわさを聞いて、もう、ここ数年の第一は安泰だなって、僕は思いましたね」

 轟「勇輝さんは同じPGで、自分の憧れの選手であって。同じ高校に行けば、ちょっとでも近づけるんじゃないかなと思って、第一に決めました」

 河村「本当に? いやー、ありがたいっす。インスタグラムを通じてメッセージをくれたよね。『8番付けさせてもらいます』みたいな。こういう後輩に自分の背番号を受け継いでもらえるって、すごくうれしい。ぜひ付けてもらいたいなと思いました」

 轟「メッセージを送ったのは、勇輝さんと話してみたかったっていうのがありました。それと、8番は荷が重い番号なので……。どんなメッセージにしようか悩みましたけど、勇気をもって送りました」

 河村「ははは! 先輩向けのメッセージって悩むよね。ビックリマーク、どうしようかな、とか。自分も富樫勇樹さん(千葉ジェッツ)や、第一の先輩でもある並里成さん(群馬クレインサンダーズ)に送る時は悩みますよ。実際に福岡第一で8番を付けてみて、どうですか?」

受け継いだ背番号「8」福岡第一エース轟がかける思い(朝日新聞デジタル)

■比較されるありがたみと貫く信念

 轟「1年生の頃は特にすごくプレッシャーに感じました。やっぱり、比較されるので」

 河村「自分としては、そんなに『8番だから』ってことはなかったけど、嫌な経験がありましたか?」

 轟「YouTubeに上がっている試合映像を見返す時に、コメント欄で『まだ全然河村勇輝の方がうまい』とか書かれていて」

 河村「なるほど、そういうことか。個人のファンとかだとそういう人もいるから、本当に気にしなくて良い。僕の良さもあれば、轟くんの良さもある。完全に同じプレースタイルというわけでもないし。自分の良さが引き出せるようなプレースタイルになってほしいなと思います」

 轟「結構、やっぱり悔しくて。練習しようってなりました。自分のなかでは」

 河村「自分も上の世代のPGとすごい比べられます。ただ、この世界で比べられるっていうことに、僕はありがたみを感じていて。誇りを感じています。一方で、とらわれる必要もないというか。自分にとって、良い意見を持っている人もいれば、悪い意見を持っている人もいる。最終的には、自分の信念をもってプレーすれば良いし、自分が満足すれば良いと思う。ぜひ、轟くんにも頑張ってほしいなと思います」

 轟「チームメートやトレーナーさんのおかげで乗り越えられたのかなって思います。『琉維は琉維だよ』と言ってもらって、気持ちが軽くなりました。2、3年生になってからは、『勇輝さんを超えよう』と思うようになって。今は8番も良い意味のプレッシャーだと捉えています」

 河村「今年は福岡第一が全国高校総体(インターハイ)も日清リーグも優勝。僕たちの代はインターハイとウインターカップの2冠しかできていないけれど、轟くんたちは3冠をめざせる。すでに僕たち以上の成績が残せていると思うし、ウインターカップも優勝してほしいです」

 轟「ウインターカップは3年間で最後の大会。優勝もまだ経験できていないので、最後に頂点を取りたいという思いはあります」

■あの場面、「勇輝さんだったら…」

 河村「過去2年間で印象に残っているシーンはありますか?」

 轟「去年の準決勝の帝京長岡(新潟)戦です。残り30秒を切って2点ビハインドで、同点のシュートを外してしまいました。試合はそのまま負けてしまったので、印象に残っています」

 河村「あのシーン、僕としては、別にシュートセレクションは悪くないと思いました。自分が自信をもって最後決めきると思って打ったシュートなら良い。入る入らないは、勝負の世界なんでどちらもありうる。それよりも、打ち切るってことに意味がある」

 「勝負強さを教えてほしいと言われることもあるけど、僕も、大事な場面でシュートを決めきれず、チームを負けさせてしまった経験が、何度もある。でも、それが悔しくて練習して。そういう経験があったからこそ、決められる場面が出てくる。轟くんも、今年のウインターカップでやり返した時に、昨年のシュートが良い経験になった、と言えるようになる。最後、自分が自信を持って打てれば良いと思います」

 轟「あの場面、勇輝さんだったらどういうプレーを選択していたと思いますか」

 河村「うーん。ファウルや相手のディフェンスの状況にもよるけれど、自分が一番得意なシュートを狙うかな。なんやかんや、自信をもって打ったシュートが確率良いし、それで外しても後悔がないというか」

 轟「まねしたいと思います。試合展開で、前半に点差をつけて勝っていたのに、追い上げられると焦ってしまいます。そういう時はどうしていますか」

 河村「それもゲームの一部と考える。追い上げられるということは、前半で自分たちが良い流れを持ってきていたということ。1試合のなかで流れは変わるもの、と考えることかな。一番大事なのは、そういう時もシュートを打って終わること。簡単なパスミスで攻撃が終わると、もっと流れが悪くなる。もちろん、第一だったら、1本速攻でレイアップシュートが決まれば一気に雰囲気を変えられるので、狙っていました」

■大切な外国籍選手への「指示」

 「あとはね、ウインターカップの第一で一番怖いのは、留学生のファウル。相手に簡単な2点決められるより、留学生がファウルアウトしてしまうことの方が厳しいから。PGなら、試合のなかでチクチク声かけした方が良い。僕はBリーグでもずっと、外国籍選手に『ファウルすんな、ファウルすんな』って、チクチク言っています(笑)」

 轟「チームとしては、これまでの試合で良かったところと悪かったところをしっかり話し合って、良い雰囲気で練習できていると思います。ウインターカップで優勝して、8番を『轟の8番』とできるように、頑張っていきたいと思います」

 河村「歴代初って、選手にとってすごくモチベーションになると思うんですよ。リーグ戦は今年から始まったものだから、それも含めた3冠ができれば初になる。福岡第一のみならず、歴代のバスケット、高校生バスケットのなかでも快挙だと思うので、そこに名を刻んでほしいなと思います」

 「ただ、これまでの結果だけを見ても、8番はもう十分『轟くんの8番』になっていると思います。自分も継承してきたものというか。どういう結果になっても、轟くんの8番として戦ってほしい。悔しい経験だったり、すばらしい経験だったりが、身についた番号だと思うので。そうしてまた、来年、高校1年生で入ってくる子にバトンをつないでいってほしいなと思います」

◆朝日新聞のウインターカップ特集はこちらから

朝日新聞のウインターカップ2022特集

=朝日新聞デジタル2022年12月26日掲載

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