病床の監督へのエールを自分の力に 桜花学園・横山智那美主将
全国高校バスケットボール選手権大会で3連覇中だった桜花学園(愛知)が25日、3回戦で姿を消した。
東海大福岡との試合は接戦になった。
第4クオーター終了間際、ファウルを与えながら同点の3点シュートを決められ、フリースローの1点で勝ち越された。
このとき、桜花学園に残された時間は3・3秒。
最後を誰に託すのか――。
桜花学園を長年率いてきた名将・井上真一氏が口を開いた。
「最後は横山だ」
主将でPGの横山智那美(3年)はゴール前のスペースに走り込み、頭上へのパスを手からこぼしそうになりながらつかみ、リングを狙うも届かなかった。
試合が終わった。
横山は「任されなくても、絶対自分が行くつもりでいました。最後勝ち負けを決めるのは自分だと思っていたんですけど、自分の力のなさで負けました」と語った。
なぜ、勝敗の責任を全て背負うように、あの大事な最後のプレーを買って出たのか。
そう問われると、これまでハキハキと質問に答えていた横山の目から涙が流れた。
「特にこの1年はすごく苦しくて……。それでもやっぱり自分がキャプテンだし、今、桜花を背負っているのは自分だと思ったので、最後ブザーがなるまで自分が先頭切ってやることを意識してやっていました」
主将としての責任感。その重さを口にすると、涙が止まらなくなった。
世代別の日本代表経験も豊富で、今年9月のU18女子アジア選手権では大会ベスト5に選ばれる実力の持ち主だ。
そんな横山も自分のプレーに自信が持てない時期があったという。
この日、チーム最多得点を挙げた田中こころ(2年)には、「ボールをもらったらとにかく自分が攻めるって気持ちでやれば大丈夫」と助言したことがあった。そうやって仲間を奮い立たせてきた。
主将としての1年は、自分で自分を奮い立たせる毎日だった。
今季、井上真一監督(76)が体調不良でしばらくチームを離れた。コートでは厳しさを持って指導してくれる一方で、寮では家族のように温かく接してくれた。チームを託された横山の重圧は増した。
苦しいときの支えは、意外にも井上監督を励ますことだった。自ら電話をかけ、不安を伝えるよりも、治療を受ける井上さんへ前向きな言葉を送った。
「言葉を送って、それで自分も気持ちを奮い立たせて、ずっと頑張っていました」
「井上先生は自分のことに専念してほしかったので。でもやっぱり先生から伝わる気持ちは分かっていました」
井上さんは今大会、アシスタントコーチとして復帰した。最後のプレーも横山に託してくれた。
横山は言った。
「井上先生を胴上げしたかった。キャプテンを任せてもらえるまでに成長させてくれたのは間違いなく井上先生のおかげです」
自身が放ったシュートが外れ、試合終了のブザーが鳴ったとき、横山は落胆を見せず、すぐに走って相手監督らにあいさつに向かった。
最後まで桜花学園の主将をやり抜いた。
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(平田瑛美)=朝日新聞デジタル2022年12月25日掲載