フィギュアスケート

特集:駆け抜けた4years.2023

競技引退の中京大学主将・横井ゆは菜「スケート界に必死で居残ります」

2022年スケートカナダ女子フリーで演技をする横井ゆは菜(撮影・柴田悠貴)

フィギュアスケート女子で2022年四大陸選手権代表など活躍した中京大学の主将、横井ゆは菜(4年、邦和みなとSC/中京大、中京大中京)が23年2月26日、競技を引退した。名古屋市のガイシアリーナで行われた愛知県選手権大会で最後の演技を披露。大会では引退セレモニーも開かれ、大粒の涙を流しながら17年間のスケート人生に別れを告げた。

目標だった四大陸選手権に出場

氷上では個性的なプログラムで観客を引きつける演技派。普段は面白い話で場を盛り上げてくれるムードメーカー。でも涙もろくて泣き出したら止まらない。横井はそんな愛されキャラだ。

5歳でスケートを始め、18年全日本ジュニア選手権優勝、ジュニアグランプリシリーズ(GP)出場など小学生の頃から愛知を代表する選手として活躍し、中京大中京高から中京大に進んだ。

大学3年で四大陸選手権、ラストシーズンの大学4年はGPシリーズ、全日本選手権、インカレ、冬季国体と主要な大会に出場。中京大出身の社会人スケーター大庭雅(東海東京FH)から、「最後に全部出られるってすごくいいね」と、うらやましがられるほど充実していた。

とくに四大陸は横井が目標にしていた舞台だった。18年平昌オリンピック4位の宮原知子さん(22年3月引退)の欠場で補欠から繰り上がり出場。「舞い降りてきた、みたいな感じで。シーズン前半が苦しかったからこそ、ここに出られるだけでこれ以上はないでしょ、という気持ちで、だいぶ前向きな気持ちで挑めた試合でした」。ショートプログラム(SP)12位、フリー6位で、合計185.34点を出して総合7位に入った。エキシビションにも出演できて思い出に残る大会となった。

「Queenメドレー」は「冒険した選曲」だったという(撮影・角野貴之)

観客を楽しませたいという気持ちを常に持ち、使用曲にはこだわってきた。「昨シーズンとのギャップ」を意識して自ら選曲。「テレビドラマ『黒い十人の女 (2016年)』より」(19~20年SP)、「ミュージカル『オペラ座の怪人』より」(19~20年フリー)、「Queenメドレー」(21~22年フリー)、「ハンガリー狂詩曲」(22~23年フリー)……。この4年間もクラシックやオペラ、映画音楽など、さまざまなジャンルに挑戦した。

スケート部では今年度の主将を務め、部員が講師を務めるスケート教室に積極的に関わるなど部活動も盛り上げた。

国体は「今シーズンで一番心地良かった」

競技引退は潔く決断した。「就職先も決まり、仕事をしながらスケートを続けるってなったら生半可な気持ちではできないと。いったんここで決めて、どうしてもやりたかったらやると思うし、たぶん今やめるのが一番ちょうどいいと思いました」

22年12月末、大阪府門真市の東和薬品RACTABドームで行われた全日本はSP 12位、フリー20位の合計161.87点、総合19位で終えた。そのフリー後に引退を表明した。

年明けは名古屋フィギュアスケートフェスティバル、インカレに参加し、なじみの選手たちと楽しく過ごした。1月末の国体を前に気持ちに変化が現れた。ラストシーズンということもあり、試合を楽しむ気持ちが優先され演技に対する悔しさやうれしさを味わうことが少なく、「感情の起伏が少ないシーズン」になっていた。

演技構成も攻めより守り。今シーズンのSPは得点源になる連続3回転ジャンプを、ルッツとトーループの組み合わせではなく、サルコーとトーループにして難易度を落とした。それでも他のジャンプにミスが出てしまった。

「やる気をなくしているような終わり方は嫌」。中京大中京高校を3月に卒業した妹のきな結も少年女子で出場し、自身は成年女子の愛知県代表として参戦する国体。楽しむ気持ちを捨てて自らを奮い立たせて演技に臨んだ。「絶対にやるんだと決めて。もう1回、横井ゆは菜やるじゃん、もっとできるじゃん、というのを伝えたかったんです」

フリーではこれまで失敗が続いていた3回転サルコー3回転トーループの連続ジャンプを成功させた。他のジャンプもなんとかこらえて滑り切った。「ノーミスできなくて、久しぶりに悔しいなぁと思えたんです。引退までにもう一度こういうふうに思うことができた。本当に今シーズンで一番心地良かった試合でした」と語った。

邦和スポーツランドから全国レベルの選手がたくさん育った(本人提供)

世界選手権で大会をリポート

大会翌日、引退への意識が急に色濃くなった。練習でリンクに立つと目が潤んだ。「次が本当に最後なんだっていう。それが信じられなくて。今まで永遠に続くと思っていたもの、途切れるって思わなかったものが途切れるっていう。先生に(演技前に)やってもらうルーティンもあと(SPとフリーで)2回なんだと思ったら急に寂しくなってきちゃいました」

最後の大会となる愛知県選手権大会は2月22~26日に名古屋市のガイシアリーナで行われた。練習や大会、アイスショーで数え切れないくらい滑ってきた思い出が詰まったリンクだ。最後は総合3位になって表彰台に上がり、有終の美を飾った。引退セレモニーでは花束を贈られ、コーチや仲間、観客らの大きな拍手で会場が包まれた。その光景に横井の目から大粒の涙があふれた。「自分が競技の世界から離れるということが本当に信じられなくて。見送られているこの瞬間もなんだか夢のようでした。不思議な感覚です」。そして17年間のスケート人生について、「これ以上ない幸せを味わえた」と振り返った。

ラストの全日本選手権女子SPの演技(撮影・柴田悠貴)

卒業後はメディア関係に就職する。仕事内容はまだわからないが、近い将来、スケートと関われる仕事ができるように頑張りたいという。「愛知にはたくさん選手がいるので取材したいなって思います。撮影現場で『ゆは菜来てるじゃん』って言われたいですね」と笑う。

その“予行練習”とも言える仕事が今月待っている。就職先の話が日本スケート連盟に伝わり、3月22日からさいたまスーパーアリーナで開催される世界選手権で連盟のスタッフとして大会をリポートすることになった。自身も認める目立ちたがり屋で、しゃべることも大好きな横井にとって、またとない機会だ。

大会には愛知にゆかりのある宇野昌磨(トヨタ自動車)や山本草太(中京大学)、同学年で神戸学院大学の坂本花織(シスメックス)らが出場する。「シンプルに世界選手権を見られるのはうれしいです。そして、昔から一緒に練習してきた草太も出場しますから! 草太がついにここまで来たかという気持ちがあるので、その応援を間近でできますし、メディアで働く上で今回の経験は生きると思っています」と、“リポーターデビュー”を心待ちにしている。

中京大学で練習する仲間たちと(本人提供)

今後のスケートとの関わり方を尋ねると、「ずっとスケートの世界にいたい気持ちはあります」とはっきりと答えた。「勝手に終わり感を出していますが、申し訳ないですけど、いますよって(笑)。年数が経てば新しい選手も出てくるし、『横井ゆは菜』の存在は薄れていくと思うんですけど、ちょっとでも色あせる時間を遅らせられるように存在感を示していきたいです。スケート界に必死で居残ろうと思っています(笑)」

リンクでは個性的なキャラクターで輝いていた横井。ステージを変えても存在感を放ちそうだ。

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