陸上・駅伝

箱根駅伝シード奪還へ 帝京大・中野孝行監督「一度ゼロ、ここから積み重ねていく」

集団走の練習をする帝京大の選手ら(撮影・浅野有美)

来年1月の箱根駅伝は100回目の記念大会となる。常連校の帝京大学はシード権奪還を目指し、10月の予選会突破に向けて虎視眈々(こしたんたん)と計画を練っている。新チームが始動したばかりの今年1月、中野孝行監督や選手たちに、この1年間の目標や取り組みについて聞いた。

予選会を意識し、集団走の練習

2018年から5年連続で箱根駅伝のシード権を獲得していたが、今年度の帝京大は予選会からのチャレンジとなる。99回大会は総合5位以内を目指しながらも、よもやの総合13位。中野監督は、しみじみと振り返る。

「シードを落としたのは大きいですね。東洋大のように悪いなりにも10位以内に入る伝統校があるなか、うちにはまだその力がなかった。(連続記録が途切れて)一度ゼロになりましたけど、ここからまた積み重ねていかないと」

就任19年目を迎えた59歳の言葉には実感がこもる。帝京大の監督として、苦労しながら初めて箱根駅伝の予選会を突破し、本戦出場を果たした16年前のことをふと思い返していた。

「2005年、2006年の予選会で2年連続で12位となり、その翌年の2007年にようやく2位で予選会を通過したんです。本戦行きの切符は、簡単につかめると思ったら大間違い。常連校でも予選会を突破できないこともありますからね。いまは箱根の本戦より、予選会のことを考えています」

今季、新チームの立ち上げから取り組んでいるのは集団走。冬の冷たい風が吹く1月、八王子キャンパスのトラックに選手たちを集めると、一定のペースでそろって走ることをしつこく確認していた。

「この練習をこなせないと難しい。できるか、できないかの選択肢はない。やらないといけないんだ。昨年の予選会では転倒した選手もいた。大人数のなかでも走れる練習をしないといけない。たとえ、押されても倒れない体づくりも必要になる。予選会は厳しいぞ!」

練習が始まると、タータントラックを蹴る足音とタイムを読み上げるマネジャーの声だけが響く。集団から遅れる選手が出てくると、中野監督は大きな声を飛ばしつつ苦笑していた。

「まだ緊張感がないですね。毎日、マネジャーが箱根駅伝までの日数をカウントダウンしているので、『その前に予選会があるんだぞ』と話したところです」

今年の箱根駅伝で総合13位でゴールした日高拓夢(撮影・藤井みさ) 

山中博生、筋力アップで目標タイム突破へ

ただ、当たり前のようにシード権を獲得してきた選手たちも危機感は募らせている。今年1月、初めて箱根駅伝に出走した山中博生(2年、草津東)は、現実をしっかり受け入れていた。

「現時点で確実に走れる駅伝は、一つもありません。外さずにしっかり力を出せば、本戦に出られると思いますが、まずは全日本大学駅伝と箱根駅伝の出場権を勝ち取ることを目標にしていきたいです」

個人のレベルアップにも余念がない。2022年10月の出雲駅伝は5区で区間11位に沈み、箱根路は不安を抱えてスタートラインに立ったが、自らも驚く結果を残した。8区で区間6位。夏合宿から故障なく地道に練習を重ねてきた成果が出たという。入学後から故障を繰り返していたのがうそのようだった。体の使い方を一から学んだことで殻を破った。自信を深めた3年目は、トラックシーズンから勝負していくつもりだ。

「スピードを磨いていかないといけません。帝京はロードというイメージが強いですが、いまはトラックで通用しないと駅伝でも厳しいと思っています」

すでにタイムの目標も明確に定めている。課題の筋力アップを図り、10000mでは28分台に乗せ、ハーフマラソンは63分フラットに照準を合わせる。

箱根駅伝8区で区間6位と健闘した山中博生(撮影・井上翔太)

ラストイヤーの日高拓夢「ゲームチェンジャーに」

ほろ苦い箱根デビューを糧にして、練習に打ち込んでいる選手もいる。最終学年を迎える日高拓夢(3年、鶴崎工)は、ラストイヤーにかける思いを口にした。

「僕は実業団に行く予定はないので、陸上競技生活もこの1年が最後になります。主要のレースはすべて走り、チームに貢献したいです。箱根はできることなら、『花の2区』を走り、流れを変えるゲームチェンジャーになりたいと思っています」

箱根路では10区で区間12位。責任あるアンカーを務め、悔しさを噛(か)み締めてフィニッシュテープを切った。苦しい終盤もペースを落とさずに必死に踏ん張り、競っていた東海大を引き離したが、気持ちは晴れなかった。総合13位。守り続けてきたシード権を失った現実をあらためて突きつけられると、お世話になった先輩たちの姿も頭に浮かんだ。肩を落としていると、中野監督から「落ち込んでいても仕方ないぞ」と声をかけられた。そして、すぐに顔を上げ、下を向いている暇はないと自らに言い聞かせた。

「3年時はただ走っただけの箱根になってしまった。今年度はチームを引っ張っていく存在になります。練習から下級生たちに声をかけ、必ず予選会は上位通過して、本戦で悔しさを晴らしたいです。有言実行できるようにします」

主軸としての自覚を持ち、自らにプレッシャーをかけていた。

取材に応じた(左から)島田晃希、日高拓夢、山中博生(撮影・浅野有美)

ルーキーの島田晃希、学生ハーフで飛躍誓う

今年の箱根駅伝に出走できなかった選手たちも期する思いは変わらない。16人のエントリーメンバー入りしていた島田晃希(1年、高田)は、謙虚に自らを見つめ直していた。
「いまのままでは足りない。自分が勝てなかった先輩たちでもシード権を取れなかったんですから、僕はもっともっと頑張らないといけません」

実力不足だけで片付けるつもりはない。思い返せば、反省することばかりだ。大会前はピーキングが思うようにいかず、経験不足を痛感。同期の柴戸遼太(1年、大分東明)が4区で区間12位の力走する姿を見て、悔しさがこみ上げた。

「なんで、自分はあのとき、頑張れなかったのかと思いました。最後の調整のところで、もう少しできたんじゃないのかなって」

食事を含めた体調管理から改善していくことを誓っている。3月12日の学生ハーフマラソンで入賞を目指し、関東インカレではタイムより勝負にこだわりたいという。全日本大学駅伝の関東地区選考会、箱根駅伝の予選会を見据え、その先の本戦にも思いをはせる。三重県出身の島田にとっては、箱根路だけではなく、毎年のように観戦していた伊勢路も特別な舞台。「全日本大学駅伝6区のコースは、実家のすぐ近くを通るんです。準エース区間なので、そこを走るためには、いま以上に安定して走れるようにしないといけません」

地に足をつけた選手たちは駅伝シーズンから逆算し、すでに走り始めている。2023年度、帝京大は駅伝競走部の名にかけて、文字通り『ゼロ』からの巻き返しを図る。

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