陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

帝京大が箱根駅伝往路2位から総合9位へ、中野孝行監督「悔しい」だけで終わらせない

細谷は2年連続で5区区間賞を獲得し、帝京大は過去最高の2位で往路を走りきった(撮影・佐伯航平)

第98回箱根駅伝

1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
帝京大学
総合9位(往路2位、復路17位)

帝京大学は4年生が4人走った往路を過去最高の2位で終え、復路のゴールには9位でフィニッシュ。復路5人全員が区間二桁順位だったことを受け、中野孝行監督は「科学ではないところもあった。いろんなことを総合して考えないといけない」と、10人で217.1kmを走る箱根駅伝の難しさを口にした。

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4年生5人で往路か、“三度目の正直”か

今シーズンの帝京大は出雲駅伝で8位、全日本大学駅伝では13位でシード落ちだった。ただ、選手も中野監督も自分たちが積み重ねてきたは間違っていないという確信があり、「駅伝での結果で前評判こそは高くなかったかもしれない。でもやってきたことを信じて、私も彼らに自信を植え付けることを意識してやってきました」と中野監督は言う。箱根駅伝前の10000mのタイムトライアルでも、例年であれば30分切りはチームエントリー入りした16人中10人ほどだったが、今回は16人全員が30分を切る走りを見せ、過去最高の力がついていると実感できた。

学生たちが定めた目標は「往路優勝、総合3位」。往路で結果を出すために、チーム内で最も勢いがあった中村風馬(4年、草津東)を1区に、出雲駅伝でも全日本大学駅伝でもエース区間を任されてきた橋本尚斗(4年、鳴門)を2区に入れ、4年生だけで往路を走るという戦略もあるにはあった。だが「絶対間違いない」と中野監督が1区に押したのが小野隆一朗(2年、北海道栄)だ。出雲駅伝では1区区間9位、全日本大学駅伝では1区区間18位と苦しい走りとなったが、小野に自信をつけさせるためにも“三度目の正直”にかけた。

小野(右)は出雲と全日本では苦しい走りとなったが、その悔しさも箱根にぶつけ、流れを作った(撮影・北川直樹)

「世界一諦めの悪い」走りで2年連続5区区間賞

迎えた本戦、1区の6kmすぎで中央大学の吉居大和(2年、仙台育英)が飛び出し、小野は2位集団の中でレースを進めた。16kmを過ぎ、関東学生連合チームの中山雄太(日本薬科大3年、花咲徳栄)がペースを上げると2位集団は縦長になり、小野は後れをとる。それでも最後まで食らいつき、1位の中央大とは差が開いたが、2位の駒澤大には32秒差での8位で中村に襷(たすき)をつないだ。

中村は法政大学や山梨学院大学、創価大学などと8位争いをしながら集団でレースを進め、最後は競り勝っての5位で襷リレー。4年連続で3区を任された遠藤は27秒差での2位で走り出した青山学院大学を追い、快走を続ける。だが前を行く東京国際大学の丹所健(3年、湘南工大付)が更にいいペースで走り、青山学院大と東京国際大の背中は捉えられなかったが、区間4位の走りで順位を3位に上げた。4区の寺嶌渓一(4年、前橋育英)は区間14位と苦しみ、3位の國學院大學と1分4秒差での4位で前回大会で5区区間賞の細谷翔馬(4年、東北)に襷をつないだ。

4年連続3区を走った遠藤(左)に中野監督は「プレッシャーもあったと思う。それでも彼にはゲームチェンジャーになってほしかった」と言い、その通りの活躍を見せた(代表撮影)

細谷の意識にあったのは、2年連続の区間賞よりもチーム目標の「往路優勝」。前の走者が見えない中ではあったが、6位から追い上げてきた駒澤大の金子伊吹(2年、藤沢翔陵)とともにペースを刻み、少しずつ前との差を詰めた。8kmほどで東京国際大を追い抜き、金子を振り落とす。11.2kmで國學院大の背中を捉えると一気に前に出て2位に浮上。

青山学院大との差は2分40秒ほど。ここからどうやって差を詰めていくか。13km過ぎからは強い向かい風を感じたが、条件は他の選手も同じだと考え、逆に追い上げるチャンスだと攻める姿勢を崩さない。最後は青山学院大と2分37秒差での2位でフィニッシュ。細谷は1時間10分33秒と東洋大学の宮下隼人(4年、富士河口湖)が持つ区間記録(1時間10分25秒)にはあと一歩届かなかったが、最後まで諦めずに食らいついた細谷を中野監督は「(帝京大のキャッチフレーズ)世界一諦めの悪い人間だな」とたたえた。しかし帝京大最高順位に押し上げた立役者は、「往路優勝が目標だったので悔しい思いもあります」とポツリ。それでも柏原竜二さんに憧れてきた自分がその舞台に2度も挑めたことに、「すごく楽しかったなという思いが一番強い」と笑顔を見せた。

攻める気持ちと走りがかみ合わず

過去最高の往路2位でも、中野監督の復路の戦略は変わらない。「色気を出さず、身の丈に合ったことをやろうよ。他がどうとかではなく、自分のパフォーマンスを出そう」と復路を走る選手たちに伝えた。それでも往路の選手たちが最高のパフォーマンスをしたことで、同じ練習をこなしてきた復路の選手たちは「自分たちもやれるんじゃないか」と感じ、攻める意識で復路を待ち構えた。

青山学院大を追う立場となった6区の北野開平(3年、須磨学園)は駒澤大と順天堂大学に先行されての4位で襷リレー。7区の福島渉太(1年、小林)は順位こそ死守したが、3位の順天堂大との差は1分5秒に広がった。8区を任されたのは橋本主将。「悪い流れを絶ちきる」と心に決めて走り出したが、区間16位と苦しみ、8位の東海大学と3秒差、9位の東洋大とは4秒差での7位で襷リレー。

初の箱根駅伝となった9区の森田瑛介(4年、前橋育英)は11位の法政大学に32秒差まで迫られての10位でアンカーの西脇翔太(2年、名経大高蔵)に襷を託した。西脇は序盤からペースを上げ、法政大の川上有生(3年、東北)に1分以上の差をつける。しかし川上は徐々に差を詰める。目の前には8位から順位を落とした東海大。西脇はラスト3kmで東海大を抜き、9位でゴールテープを切った。

シード権を死守した西脇(中央)を遠藤(左)らが迎え入れた(撮影・藤井みさ)

中野監督も通った道

現在も継続中の連続シード記録は、16年連続の東洋大、12年連続の青山学院大、そして5年連続の帝京大が続く。「“戦国時代”に入った今、簡単にできることではありません」と中野監督は学生たちをたたえる。その一方で守らないといけないものがある厳しさ、攻める難しさを今大会で痛感した。「復路の選手たちも攻めた走りをした。だけどその攻めるというのが難しい。浮き足立ってしまったと言った方が正しいかもしれない。攻める力をうまく引き出してあげられなかった反省が私にはあります」

特に橋本主将は前回大会で9区区間3位と快走しただけに、今大会で責任を強く感じている。レース中に中野監督は「抜かれてばっかりじゃ困るぞ」と声をかけたが、それは中野監督が国士舘大学の選手だった時に当時監督だった西山一行さんに、最後の箱根路でかけられた言葉だ。その第62回大会で国士舘大は9位に入り、10年ぶりとなるシード権獲得に皆が笑顔だったが、中野監督は2位で受け取った襷を7位で渡した悔しさから素直に喜べなかった。「だから今もこうして監督をやってるんですよ。今は橋本も悔しい思いをしているだろうけど、立ち直って、いつか『あの時に迷惑をかけましたけど、ここまで大きくなりました』と言いに来てくれたらそれでいいんです」

橋本(右)は主将としての責任を胸に最後の箱根路を走ったが、苦しい走りとなった(撮影・松永早弥香)

中野監督は地元・徳島の大塚製薬で競技を続ける橋本のことをこれからも身も守り、巣立っていく4年生たちのこれからに期待をしている。その4年生の背中を見てきた下級生たちの奮起にも期待してやまない。

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