陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

帝京大・橋本尚斗主将、箱根駅伝で「3位以内を絶対にとる」 部員57人が心ひとつに

帝京大の箱根駅伝における最高順位は総合4位。今大会ではそれ以上となる総合3位以内をめざす(撮影・松永早弥香)

帝京大学は今シーズンを迎えるにあたり、「学生3大駅伝全てで帝京歴代最高順位」を目標に掲げた。しかし10月の出雲駅伝では8位、11月の全日本大学駅伝では13位でシード落ちとなり、「正直、シードを落とすとは思ってなくてびっくりしました」と橋本尚斗主将(4年、鳴門)は言う。そこから更にチームは結束。箱根駅伝を前にして、橋本は「総合3位以内を絶対にとる」と意気込んだ。

出走する10人だけでなく部員57人全員で“平均値”を上げる

前回の箱根駅伝で、帝京大は1区と2区でエースの小野寺悠(現・トヨタ紡織)と星岳(現・コニカミノルタ)が粘り、3年連続で3区を任された遠藤大地(4年、古川工)が8人抜きで6位に浮上。5区では細谷翔馬(4年、東北)が区間賞の走りで往路首位の創価大学と2分31秒差での4位につけた。6区の三原魁人(4年、洛南)は走り出してすぐに右足の中足骨を疲労骨折するアクシデントに見舞われたが、気力で襷(たすき)をつないだ。9区で橋本が区間3位と快走し、順位を9位から6位に上げ、アンカーの山根昴希(現・戸上電機製作所)は8位でゴール。そのレースを経験した現4年生の6人は、4年連続でのシード権獲得の結果に誰一人満足していなかった。

コロナ禍が続く中ではあるが、練習を中断せざるをえなかった昨年に比べれば、今年はまだ継続して練習ができる環境にはなった。ただ、感染力が強い新型コロナウイルスの変異株が広がってからは、練習や日常生活における感染対策を更に厳しくした。練習前後のマスク・手洗い・消毒の徹底はもちろん、外出・外食の禁止、食事・入浴時の会話禁止など、一人ひとりが気を配り、箱根駅伝に向けて最大限の努力を重ねてきた。

全員の“平均値”を上げることは、大学スポーツにおいて価値があると中野監督は考えている(撮影・松永早弥香)

また練習においては、“平均値を上げる”ことを意識してきた。1度できたことの再現性を上げ、それを何回も何回もしつこく繰り返す。「何か特別なトレーニングをするというよりも、(箱根駅伝を走る)10人だけでなく、(チームエントリー入りした)16人だけでなく、部員57人全員が確実にできることの方が、大学スポーツにおいて価値がある。例えレベルは違っても、心ひとつでやることに意味があると思っています」と中野孝行監督は言う。特に近年の駅伝ではいかに全区間でミスのない走りをするか、が重要になっている。「1区間でも取りこぼしがあればふりだしに戻すのが難しい。駅伝は365日の積み重ねなんです」と中野監督は加え、そのために前回大会からの1年だけではなく、2年、3年と選手たちがコツコツ積み重ねてきたと中野監督は感じている。

橋本と遠藤、箱根でも同期で襷リレーを

橋本は今年の出雲駅伝では3区、全日本大学駅伝では2区と、自ら進んでエース区間を引き受けてきた。最後の箱根駅伝で希望するのもエース区間である2区で、狙うは星が持つ帝京大区間記録(1時間7分29秒)を上回る記録。各校のエースがそろう区間ではあるが、「負けず嫌いな性格なんで、(イェゴン)ヴィンセント選手(東京国際大3年、チェビルベレク)が来たらちょっときついかなと思うけど、日本人選手には食らいついて粘りたいですし、やっぱり負けたくないです」

思い描いているのは粘り強い走り。それは4年連続での3区を希望している遠藤への思いもある。遠藤はこれまでの箱根駅伝で1年生では順位を14位から6位へ(区間3位)、2年生では5位から4位へ(区間2位・区間新記録)、前述の通り3年生の時にも14位から6位へ(区間4位)と順位を上げ、チームに流れをもたらしてきた。しかしこれまで、先頭を走った経験はない。「遠藤は抜いてくるレースが多かったんですけど、最後は先頭を走るレースで終わってほしいんです。『トップと30~40秒差だったら前が誰でも抜ける』と言ってくれたので、そこはしっかり視野に入れてやっていきたいです」

橋本(右)は今年の出雲駅伝でも全日本大学駅伝でも、自ら希望してエース区間を担ってきた(撮影・岩下毅)

特に今年は出雲駅伝では遠藤から襷を受け取り、全日本大学駅伝では遠藤に襷を渡すという展開だった。「今年、自分的には遠藤に始まって遠藤に終わっているので、遠藤には自身の記録を抜いて、(区間記録を持つ)ヴィンセント選手くらいはいってもらわないと」と橋本は遠藤に期待している。

その遠藤は橋本に対し、「エース区間は苦しいと思うけど、その区間に自ら志望するような、頼りがいのあるキャプテンです」と言う。遠藤は昨年までを振り返り、「チームのためというよりも、自分ために走っていた」と言い、実際、練習で自分が前に出て引っ張るという意識は低かった。だが4年生になった今、「はっきりと変わったところは分からないんですけど」と前置きした上で、「今は練習でも生活でも、チームのためにという意識で取り組んでいます」と話す。

遠藤はこの箱根駅伝を最後に、競技生活にピリオドを打つ。それは遠藤が大学に進む選択をした時から決めていたことで、実業団から声をかけられても、その決意は揺るがなかった。「理由はたくさんあるんですけど、1つは実業団に行った時に箱根以上の目標がない自分が、長く続けるのはもったいないなというのはあって、企業にも申し訳ないなと思いました。自分も他にできることがあるんじゃないか、という気持ちもありましたし」。ゴールが決まっていたからこそ、特に今シーズンはトラックシーズンにレースを絞って駅伝に備え、夏合宿では例年よりも距離を踏んできた。「3区はコース的に自分に合っているなと思っているんですけど、景色もいいんですよね」。4度目の3区はきっと、忘れられない景色となるだろう。

遠藤(右)は4度目となる3区で区間賞・区間新を狙う(代表撮影)

細谷、2年連続5区区間賞に向けて「トータルで走ります」

前回大会で5区区間賞を獲得した細谷は今大会でも5区を希望しており、「自分の強みを出せる区間だと思う」と言う。前回大会は特に、区間記録保持者である東洋大学の宮下隼人(4年、富士河口湖)や3度目の山上りとなった東海大学の西田壮志(現・トヨタ自動車)など経験者の前評判が高かった。レース中継でもその2人が注目されていた中、細谷は淡々と走り抜き、初の箱根駅伝で区間賞という快挙を成し遂げ、総合優勝にも手が届く往路4位にチームを押し上げた。

ただ、「区間賞を獲得してすごく自信になったけど、やることは特に変えずに1年間やってきました」と細谷は言う。準備をして練習に臨み、しっかりとやり切り、また翌日の練習に備える。上り対策としてトレッドミルを用いた練習をしてきたが、「5区だと上りの走りが強いだけかと思われるかもだけど、下りもあるので」と、平地での練習もバランスよく取り組んできた。そのため勝負どころをたずねられても、「最初から最後まで。下りも含めて自分の強みが生かせると思うので、トータルで走ります」と答える。そのトータルでの強さで、宮下が持つ区間記録(1時間10分25秒)超えの1時間9分台を狙う。

5区だからと上りの練習だけではなく、平地で走力を鍛えることにも取り組んできた(撮影・佐伯航平)

ちなみに5区は順天堂大学の四釜峻佑(3年、山形中央)が希望している区間でもある。同じ山形県出身で、全中3000m決勝の舞台を経験している細谷のことを四釜は「すごく速い選手だなと思っていたんですが、僕はそこまでではなかったので僕が勝手に知っていただけだと思う」と話していた。だが細谷は「話をしたことはなかったんですけど、名前だけは知っていました」と振り返る。もし細谷も四釜も5区になれば“山形対決”になる。「余計に負けられないですね」と細谷は笑顔で言い、対戦できることを楽しみにしている。細谷は卒業後、実業団に進まず地元の市役所に勤める。だが今後は“公務員ランナー”として走り続け予定だ。

今大会ではチームエントリー(16人)の内、4年生が7人、3年生が3人、2年生が4人、1年生が2人と4年生が中心となっている。4年生にとっては最後の舞台となる箱根駅伝。出雲駅伝と全日本大学駅伝での悔しさを胸に、「総合3位以内」だけはゆずれない。

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