陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

帝京大の新主将・橋本尚斗、初の箱根駅伝で9区区間3位「強い学年となれるように」

橋本(右)は今大会で初めて箱根路を駆けた(撮影・佐伯航平)

第97回箱根駅伝

1月2~3日@大手町~箱根の10区間217.1km
帝京大学 総合8位 11時間04分08秒
9区区間3位 橋本尚斗 1時間09分25秒 

 駒澤大学が最終10区で前を走るトップ創価大学をとらえ、大逆転となる13年ぶり7度目の総合優勝を果たした第97回箱根駅伝。今年は新型コロナウイルスの影響により、例年と異なる新春の箱根路を21本の襷(たすき)が駆け抜けた。

その中で帝京大学は、往路4位、復路11位、総合8位(11時間04分08秒)で4年連続となるシード権を獲得した。「総合3位以内」というチーム目標は果たせなかったが、往路4位でレースを折り返し、前回大会から着実に力をつけていることを示した。6区で復路のスタートを切った三原魁人(3年、洛南)がレース中に足を疲労骨折するという思わぬアクシデントにも襲われたが、復路メンバーが気持ちで襷をつなぎ、シード権獲得を果たした。

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今大会は3年連続3区を走った遠藤大地(3年、古川工業)が8人抜きの好走を見せ、5区では初出場の細谷翔馬(3年、東北)が帝京大初となる5区区間賞を獲得するなど、とくに3年生の走りがチームを支えた。そんな活躍が目立った3年生の中でも、4年連続シード権獲得のキーマンとなったのは、初の箱根駅伝で復路9区を任された橋本尚斗(3年、鳴門)だ。

想定外の展開も、自分で勝負をつける

3区遠藤、5区細谷の活躍もあり往路4位で折り返した帝京大。往路を終えた段階ではトップを走る創価大と2分31秒差と目標の総合3位以内はもちろん、総合優勝も狙える位置につけていた。しかし6区三原がまさかのアクシデントに襲われ順位を5つ落とし9位で襷をつなぐ。

帝京大は一転、熾烈なシード権争いをすることになった。想定外の展開でシード権獲得に黄色信号がともる中、7区・8区となかなか流れを変えられずに、10位を走る早稲田大学にも追いつかれてしまう。このとき11位を走る神奈川大学とも1分ほどに迫られていた。

シード権獲得に向けてあとがない場面で襷を受けたのが9区を任された橋本だった。「正直自分が襷を受けたときには、(正確な)順位は分かっていませんでした」と言う橋本だが、自らの置かれた状況を「TVカメラ」に気づかされたと振り返った。

走り始めてからずっとTVカメラが自分を映しているということはシード権争いをしているのだろうと察した橋本は、「ラスト10区の勝負でもし負けてしまったら」とシード権獲得に不安がよぎった。そこで「自分の走りで(シード権争いに)勝負をつけよう」と覚悟を決めた。

早稲田大の小指(左前)とほぼ同時に橋本(右)はスタートした(撮影・松永早弥香)

箱根駅伝前の取材で「長距離に不安がある」と話していた橋本だが、今回任されたのは2区と同じく最長距離の9区。距離への不安を感じつつも、練習ではジョグから長い距離を踏むことで長距離への苦手意識をなくしていったという。こうした練習での成果に加えて、ほぼ同時に襷を受け取った早稲田大の小指卓也(2年、学法石川)と並走できたことが橋本にとって追い風となる。

「前にいい選手がいたので、うまく引っ張ってもらえました。前半抑えて走れたことで後半までしっかり走りきることができました」という言葉の通り、最後まで並走を続けていた早稲田大の小指も交わして4人抜きの区間3位の走りで鶴見中継所に飛び込んだ。橋本自身の目標は「区間3位以内」と「帝京大記録更新」であった。結果としてどちらの目標も達成し、11位の明治大学に2分ほど差をつける走りでシード権争いに勝負をつけて見せた。

主将として仲のよい学年で終わらず、強い学年にしていく

幼いころから夢だった箱根駅伝出場を果たした橋本だが、このコロナ禍の1年は思うような練習もストレスを発散することもできない日々が続いた。それでも橋本を支えてくれたのは両親や親戚から届く仕送りだった。

仕送りには「甘党の自分のためにたくさん甘いものを入れてくれていました」と笑顔で言う。悶々とした日々が続くなかでも仕送りが送られてくるたびに「応援してくれていることを自覚し結果で恩返ししなければいけない」と橋本は自分を奮い立たせた。

橋本を支えているのは家族だけではない。ともに練習に励み、ともに寮生活をするチームメートも橋本を支える存在だ。とくに今大会で活躍が目立った3年生は「仲がよく何でも言い合える存在であり全員がライバル」と橋本は語る。

橋本は家族の支えの中、同期と切磋琢磨しながら力をつけてきた

来季から主将を務める橋本にとって同学年のチームメートの存在は大きい。チームを強くするには「上級生が主力となってチーム内の競争が活発になることが必要。自分たちの学年全員で箱根を走るくらいの勢いがなければいけない」と目指すチームの理想形は明確だ。そのうえで、「仲のよい学年で終わらないで強い学年となれるようにしたい」という印象的な言葉を残した。

来季、橋本が率いる帝京大は「往路優勝、総合3位以内」の目標を勝ち取るため邁進(まいしん)していく。4年間かけて練習を積み上げてきた最終学年の集大成を、来年の箱根路で見届けたい。

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