陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

過去最高を狙う帝京大、星岳と小野寺悠の勝負は最後の箱根駅伝でも

前回の箱根駅伝では、1区小野寺(左)から2区星へ襷をつないだ(撮影・安本夏望)

2021年1月2、3日の箱根駅伝で帝京大学は過去最高の「総合3位」を目指している。チームを支える主将の星岳(4年、明成)は、このコロナ禍の中で常にモチベーションを高く保てたわけではないと振り返る。それでも箱根駅伝が開催されることを信じて、仲間と高め合ってきた。1年生の時から星と競り合ってきた小野寺悠(4年、加藤学園)もまた、様々な思いを胸に、最後の箱根駅伝に挑もうとしている。

帝京大が“全員駅伝”で目指す箱根駅伝総合3位、攻めの姿勢で往路3位も狙う

モチベーションを保てず、主将として悩み

「なんで自分が主将の時に……」。星はそうつぶやいた。

今年の箱根駅伝であこがれてきた2区を走り、8位から5位に順位を上げて襷(たすき)をつないだ。自分の役割は果たせたんじゃないかと思いながら、 総合3位に入った國學院大學と3秒差での総合4位という結果に、もっとできることがあったんじゃないかという悔しさが残った。

だからこそ、最後の箱根駅伝では悔いのない走りをして、チームに貢献したい。そう思い描いてラストイヤーを迎えたが、新型コロナウイルスの影響で練習もままならない状況に陥った。春先の大会が軒並み中止・延期。本当に箱根駅伝はあるんだろうかという不安が脳裏をよぎる。主将という立場上、どんな状況でもチームを導かないといけない。これまで帝京大で見てきた主将たちの姿を思い出しながら、それでも先が見えない現状に「自分はどうしたらいいだろう」と悩むこともあったと振り返る。

モチベーションが保てなかった時、星は主将としての使命感から自分を奮い立たせていた(撮影・松永早弥香)

例年に比べて今年は全体ミーティングの回数と時間を増やし、目標は本当に総合3位でいいのか、そのために何をするべきかを、改めて選手一人ひとりに考えさせた。全体ミーティングの前には4年生での学年ミーティングを行い、鳥飼悠生(市立船橋)や山根昂希(和歌山北)、主務の山崎隼輝(相洋)らも積極的に発言。4年生全員がチームを支える意識で取り組んでいる。

最後のトラックレースでともに大学新記録

今年のトラックレースを振り返ると、チームで挑んだ10月4日の多摩川5大学対校長距離競技会は熱のために出走できず、11月23日にあった10000m記録挑戦会の1本のみになった。このコロナ禍で改めてレース一つひとつを大切にすることに意識が向けられるようになり、入念な準備を経て、レースに臨んだ。結果は28分20秒63と大学新記録を樹立し、日本人1位。「例年だったら開催されていたはずの大会がなくなり、『この時期だからこういった形でいこうかなと考えることができなくなりました。それがすごく大きかったです。だから少ないチャンスをものにする覚悟ができ、それが結果につながったのかなと思っています」

今シーズン唯一のトラックレースで、星は10000mの大学記録を塗り替えた(撮影・藤井みさ)

星と同じ組には小野寺も出走しており、28分30秒17で同じく大学新記録だった。小野寺自身、ラストイヤーで大学記録を全て更新したいと考えていた。多摩川5大学対校長距離競技会では5000mに出走し、13分50秒65と自己ベスト。しかし大学記録に0.2秒届かなかった。10000mでこそは、と思い描いて臨んだレースが10000m記録挑戦会だった。狙ったレースでともに自己ベストを出せたことは自信になったが、それでもただただ悔しい。

星と小野寺は1年生の時から抜きつ抜かれつしてきた仲だ。互いの好記録を仲間としてたたえる一方で、負けたくないという思いはある。星に対し、ある意味では最後の箱根駅伝は自分の力を見せつける場でもありますか、と小野寺に尋ねると「それもありますね」と答えた。

全日本で残した悔い、箱根駅伝こそは

11月1日の全日本大学駅伝を振り返ると、小野寺は2区を、星は2年連続で7区を任された。小野寺は仮に1区の小野隆一朗(1年、北海道栄)が出遅れてしまっても、自分が巻き返せれば流れを変えられると考えていた。18位で襷(たすき)を受け取った時も特に焦りはなく、前に見えている選手をひとりずつ抜いていこうと切り替えられた。最終的には7人抜いて11位に浮上。「最低限の仕事はできたかな。でも4年生という立場上、最低限の仕事だけではダメだなと思っています」と小野寺。ひとつ前の集団で襷をつなげなかったところに悔いが残った。

一方の星はシード権争いのボーダーラインとなる8位で襷を受け取った。後ろには國學院大學が迫っている。少しでもアンカーを楽にさせられるよう、星は前半から飛ばした。昨年のタイムより50秒早い52分14秒での区間5位だったが、順位を上げられなかったことに走り込み不足を感じていた。

小野寺(中央)自身、箱根で8区を走りたいという気持ちはあるが、今は往路を走る覚悟をしている(撮影・松永早弥香)

箱根駅伝で帝京大は往路から攻め、往路3位を目標に掲げている。前回1区を走った小野寺と2区を走った星は、今大会でも往路に起用される可能性は高い。「8区が自分に一番合っていると思いますし、記録も出ると思うんです」と小野寺は話すが、チームのために往路を走る覚悟を決めている。また星は、「一番はチームが結果を出すこと。そのために僕はどの区間でもかまわないです」と言い切る。それでももしまた2区を走るのであれば1時間6分台(前回は1時間7分29秒/区間9位)を狙い、躊躇(ちゅうちょ)することなく序盤から積極的なレースをしたいと考えている。

力を合わせて過去最高を目指す仲間で、負けたくないライバル。星と小野寺、帝京大を牽引(けんいん)するふたりの4年生が箱根路で全てを出し切る。

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