陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

帝京大が“全員駅伝”で目指す箱根駅伝総合3位、攻めの姿勢で往路3位も狙う

星(中央)は主将としてチームを引っ張り、同期の4年生たちも星を支えてきた(撮影・松永早弥香)

前回の箱根駅伝で帝京大学は過去最高タイの総合4位だった。しかしチームにあったのは、3位の國學院大學と3秒差だったことへの悔しさ。主将の星岳(4年、明成)はまっすぐ前を向いて言った。「國學院がゴールするシーンに帝京もいたんです。その悔しさを常に心の内に秘めてやってきました」。今大会で帝京大は「総合3位」、更に往路から攻めるという思いを込めた「往路3位」という目標を掲げている。

帝京大・中野孝行監督 我慢の3カ月から前進、箱根駅伝に向かう学生たちの覚悟
帝京大の新主将・星岳、箱根駅伝で目指す2区“最高体験”と過去最高順位

コロナ禍の中、選手自身が考え、ミーティングで意識統一

帝京大は3月下旬より練習環境が制限され、緊急事態宣言を受けてから一部の選手は家族や本人の強い希望で帰省したが、ほとんどの選手は寮に留まり、日常でも練習でもソーシャルディスタンスを徹底。今シーズンを戦い抜くために、「外食禁止」「公共機関の利用禁止」を選手自身が定めた。様々なことを我慢しながら箱根駅伝に向けて自分を律する学生の姿に触れ、中野孝行監督は学生たちの本気を受け取った。

集団での練習を再開できたのは6月19日になってから。それまでの約3カ月、中野監督は「目標とするレースがない中でメニューを出しても、私の自己満足でしかない」と考え、練習メニューを出さず、選手たちの自主性に任せていた。中には3日連続で走っていない選手も見受けられ、選手一人ひとりのモチベーションに差を感じることもあったという。それでも「成長するためには自分で感じとらないといけない」という思いから、あえて何も言わなかったという。

コロナ禍の中でネガティブなことばかりに目を向けるのではなく、どんな形であれ、成長するきっかけにつなげたいと中野監督は考えてきた(撮影・松永早弥香)

練習を再開し、これから夏合宿で走り込むという7月、主将の星はチームがバラバラだと感じた。「選手によって力の差はもちろんあるんですけど、パフォーマンスがバラバラでした。意識の面でも、僕自身もそうですけど、もし大会がなかったらと考えると、やっぱり苦しい練習を追いこむのは厳しいです」。改めて意識統一をする必要性を感じ、全体ミーティングを重ねた。

例年であれば、全体ミーティングは月に1回、もしくは大きな大会の前に長くて30分程度のものをしていただけだったが、とくにこの時期は週に1回、長い時には2時間にも及ぶミーティングを行った。目標は本当に総合3位でいいのか、そのために何をするべきか。全体ミーティングの前には4年生で学年ミーティングを行い、星だけに任せるのではなく、4年生全員がチームを支える意識で臨んできた。

多摩川5大学対校で危機感、全日本で大学新記録

今年は全体合宿で選手たちの力を判断し、その上で選抜合宿に臨んだ。そのため選抜合宿入りをめぐる競争がチーム内に起き、一人ひとりが高い意識をもって走り込めたという。今シーズンは多くの大会が中止・延期になり、挑めるトラックレースが限られてしまった。その一方で練習に集中でき、中野監督は最終の3次合宿が終わった段階である程度の手応えを感じられたという。

しかし10月4日に行われた多摩川5大学対校長距離競技会(帝京大、國學院大、駒澤大学、創価大学、明治大学)で、他校の強さを見せつけられた。「あ、こんなに弱いんだって自分たちの立ち位置が分かりました。選手たちも危機感をもって、なんとかしようと考えるきっかけになったと思うんです」と中野監督は振り返る。

迎えた11月1日の全日本大学駅伝、帝京大は1区18位と出遅れたが徐々に順位を上げ、最後は7位でゴール。優勝した駒澤大は5時間11分08秒での大会新記録だったが、帝京大も5時間14分40秒と大学新記録をたたき出している。例年であれば優勝争いに加わっていてもおかしくないタイムだったこともあり、確実に力をつけていることを実感。加えて、最後まで諦めることなく追い上げ、展開を変えられる選手が出てきたことも歓迎すべき点だった。ただそれでも、選手も中野監督もこの結果に満足していない。

今年の全日本大学駅伝で大学新記録を樹立したが、その結果に満足している選手はいなかった(撮影・朝日新聞社)

往路3位なら目標は総合3位以上へ

11月23日に行われた10000m記録挑戦会では星が28分20秒63と大学新記録を樹立し、日本人1位になったほか、多くの選手が自己ベストを更新。選手たちは改めてチームが掲げる目標と向き合い、「箱根駅伝総合3位」に加えて「往路3位」という目標を定めた。

例年、帝京大は復路で追い上げて順位を上げているが、「往路から攻めて3位を目指します。往路で3位になったら、もっと攻めたいです」という言葉が星から中野監督に伝えられた。「たくましくなったなと思いました。彼らがそういう風になっているなら、そのためのスケジュールをつくっていくしかないと思っています」と中野監督も腹をくくった。往路を3位で入った場合、復路では「また新たな目標を設定したい」と明言こそ避けたが、更に上の順位を見すえている。

前回の箱根駅伝、帝京大は3秒差で総合3位を逃した(撮影・藤井みさ)

近年の箱根駅伝では山区間の5、6区がキーポイントになっている。だからこそ中野監督は、往路で3位に入るために、5区に負担をかけさせないような走りが必要になると考えている。「“全員駅伝”でいきたいと思っています。アベレージの高い走り。それぞれが力を発揮してくれたら、おのずと結果がついてくると思っています」

日本一、世界一、諦めの悪いチームが、全区間でその走りを見せつける。

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