陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

チーム力充実の順天堂大、長門俊介監督「前半から流れに乗って、5強を崩し上位に」

長門監督、石戸主務と16人のエントリーメンバー。12月に入り選手たちの足並みが揃ってきた(写真提供:すべて順天堂大学)

12月14日に順天堂大学の箱根駅伝前のオンライン取材が開催された。箱根駅伝予選会をトップで通過したチームの目標は、5位以上、最低でもシード権獲得。長門俊介監督と選手たちの本戦にかける意気込みや思いを聞いた。

新しいことに取り組めた今年、チーム力が上昇

長門監督はまず、10月の箱根駅伝予選会、11月の全日本大学駅伝と2つの大きな大会を戦い、11月は疲労などもあったが、12月に入り選手たちの足並みが揃ってきたと口にした。前回の箱根では14位。1区18位と出遅れてから「まったくレースに参加できなかった」と振り返り、今大会では速い展開に対応できるように準備を進めてきたという。「少しでも長い時間、5強(青山学院、東海、駒澤、明治、早稲田)に食い下がれるように。前半から流れに乗って、後半はしぶとく、5強を崩す、5強の次に入るのが目標です」

前半から流れに乗って、後半はしぶとく。ひとつでも上の順位を狙う

4月の緊急事態宣言発令後はトラックも使えなくなり、チームが解散した期間もあった。しかしそれをマイナスと捉えないようにしたと長門監督。長距離種目はオフシーズンがほぼないので、オフを作るという意味合いもあった。その中で監督自身も考え、学生たちにも自分で考える力がついたと感じられたという。「今まで通りやってきてうまくいかなかった分、新しいことをやれるチャンスだと思って、まっさらな気持ちで取り組めました」と前向きだ。

チームの強みは若い下級生に勢いがあること、そして上級生に安定した力があること。今回は特に3年生が7人と最多のエントリーとなった。3年生たちは特徴は少ないが総合力を持っているとし「一人が走れると全員が走れるようになる。良質な金太郎飴」と表現する。

主将・清水「笑顔で終わりたい」

主将の清水颯大(4年、洛南)は今のチームの雰囲気の良さが好調にもつながっているという。積極的にコミュニケーションを取るようにした結果、学年間の壁がいい意味でなくなり、関係がとてもよくなった。強い1年生が入学し、2年生が実力をつけ、それに上級生が負けられないと切磋琢磨するようになった。

清水自身は2月の丸亀ハーフマラソンのあと、左膝を故障してしまい4カ月近く走れなかった。「練習でもキャプテンとして引っ張ることができなくて、しんどかったです」。そんな時支えてくれたのは同学年の選手たちだった。「自分以外の4年生がいてくれて今があるので、今こうやって走れてる分チームに貢献していかないとなという思いがあります」。全日本大学駅伝で8位となり、シード権を獲得したものの「上位の大学の強さを再認識させられた」といい、チーム全体がこのままでは満足していられない、という雰囲気に自ずとなっていったという。それが今のチームの強さを表してもいる。

キャプテンとして、いち選手として、清水の最後の箱根への思いは強い

清水は過去3回箱根駅伝を走ったが、7区18位、6区15位、6区12位といずれも思うような走りができていない。だからこそ最後の箱根駅伝にかける思いは強い。「どの区間を走るにしても、区間5位以内で走りたいです。主将として笑顔で終えられるように頑張っていきたいです」

「最も伸びた」野村、自信を持って走れるように

長門監督がこの1年で最も伸びた選手として名前をあげたのが、野村優作(2年、田辺工)だ。1年次は16人のメンバーにも入れなかったが、今年は予選会でチーム2位(全体12位)の1時間1分51秒、全日本大学駅伝では4区3位(区間新)と好走。昨年は長い距離への対応ができず悩んでいたが、今年8月の夏合宿でフォーム改善に取り組み、距離を伸ばしても疲れない走り方ができるようになった。

今年最も伸びた選手として監督も評価する野村。結果が出ることで自信もつく好循環だ

それまでは結果が出なかった分、自分に自信が持てなかったという野村。しかし予選会、全日本と走れたことで自信を持つことができ、いまにつながっている。強い1年生からの刺激ももちろんあるが、「僕もチームの中で一番だという自覚を持って練習しているので、負けてはいないと思います」と穏やかな口調の中にも闘志を感じさせた。

箱根駅伝の2区に憧れていたが、今までは「現実と少し離れているかな」という気持ちもあった。しかし今年のレース結果を受けての自信から、自分が2区を走ることを今は現実のものとして意識できるようになった。「アップダウンがあって切り替えも必要になると思いますが、最後は気持ちだと思うので。絶対に諦めない気持ちで挑みたいです」

1区濃厚の三浦、集団から抜け出すレースを

スーパールーキーの三浦龍司(1年、洛南)は全日本大学駅伝のときのように1区での起用が濃厚だが、11月末に障害の練習中に右腿のつけ根をぶつけて打撲をし、日本選手権を回避した。今は回復途上にあるといい「もう痛みはなく、けがをする前の状態ぐらいまで戻ってきています」と順調な様子を見せる。

箱根駅伝予選会直後の取材では「6区を走りたい」と希望を語っていた三浦だが、予選会、全日本大学駅伝を経て集団で走り、そこから抜け出すレースが自分にあっていると気づき、希望が変わり1区を走りたいと考えるようになったという。

スーパールーキー三浦の箱根駅伝デビューを、ファンは待ちわびている

大学に入ってから距離に対しての苦手意識を克服するべく、自粛期間中はじっくりと足づくりに取り組んだ。夏合宿を経て、距離に対してのキレや後半になってからのペースの安定性など、苦手としていたことが徐々に克服できていると感じるという。先輩たちからも「しっかり練習を消化できているから自信を持っていい」と声をかけてもらった。「先輩方のサポートはとても大きいです」と順天堂のチームの良さを語る。入学してからトラックでも駅伝でもいい結果を出せたことで、自身に勢いがついた。ロードに関しても自信をつけることができた、と振り返る。

ちなみに、他大学で意識している選手は? と問われると「どの大学にも気になる選手はいて、全員が気になるというのはある」と言いながらも、「同学年には負けたくないです。青学や中央にも注目されている選手がいるので、頑張りたい」と青学・佐藤一世(1年、八千代松陰)、中大・吉居大和(1年、仙台育英)を特に意識していることがうかがえた。

ルーキー石井、ライバルに負けぬ勢いを

その三浦と同級生の石井一希(1年、八千代松陰)も「1年生だからといって他の選手に負けないように、チームに貢献していきたい」と初の箱根駅伝への意気込みを語る。箱根駅伝予選会では1時間2分09秒、全日本大学駅伝では5区5位と順調に見える結果。しかし「予選会では(三浦と吉居の1年生)上2人が61分台、自分は62分台なのが悔しかったです。全日本も区間5番はいいんですが、3位でもらって6位に(順位を)落としてしまったので、そこが弱かったところだなと思います」とあくまで目線を高く持っている。

長門監督は石井の駅伝の経験、レースを作れる力を高く評価している

高校時代の石井は、トラックでしか結果を残せていないと感じていた。緊急事態宣言が発令されてからは、競技場の周りやクロカンコースをしっかり走り込み、ロードへの苦手意識を克服してきた。同級生の三浦の存在は頼りがいがあるとしながらも「練習でもレースでも負けたくない存在」といい、一緒に走ることで自分も成長できていると話す。また、八千代松陰高校の同級生だった青山学院大の佐藤一世についても「全日本で同じ区間を走って負けてしまったので、次はライバルに負けたくない」と改めて雪辱を誓った。

石井の持ち味は自分でレースを作れることだといい、集団走よりも単独走で走るほうが自分に向いていると感じている。希望区間は3区だ。

長門監督は1区三浦、2区野村、3区石井というオーダーとなったらどうか? と問われ、「そういう風に組めたら最高だなと思います」と半ば手の内を明かした。フレッシュな力と安定した上級生の融合で、上位をおびやかす存在となれるか。

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