野球

慶應義塾大・佐々木勇哉 神宮大会制した名門、創部初「アナリスト」の4years.

神宮大会の優勝決定後、仲間から胴上げされる佐々木(すべて撮影・内田光)

11月20日、慶應義塾大学が4年ぶりに明治神宮大会を制した後、佐々木勇哉(4年、立川)は堀井哲也監督や廣瀬隆太主将(4年、慶應)が胴上げされる様子を撮影していた。するとみんなから「ゆうやー!」と名前を呼ばれ、本人は驚いた。

「侍ジャパン」のドキュメンタリーで知った存在

佐々木は伝統と実績を誇る名門野球部で、創部史上初めてとなるデータ分析専門の「アナリスト」として入部した。

高校時代は水泳部で、目立った成績は残せなかった。幼い頃から読売ジャイアンツのファンで、野球を見ることが好きだった。野球日本代表「侍ジャパン」のドキュメンタリーを見て、選手と同じ目線で戦うアナリストの存在を知った。

「大学で、何かに向かって本気になりたい」

そう思って入学前、勇気を出して野球部に入部希望のメールを送った。面接では堀井監督から「好きなようにやりなさい」と言われ、背筋が伸びた。

佐々木に特別な知識はない。同期も先輩もいない。データ分析を始める前、まずは毎日グラウンドに立った。選手とあいさつを交わし、練習をひたすら見つめた。「人同士の信頼関係が大事」とは、当時の竹内大助・助監督から教わったことだ。

特別な知識はない分、毎日グラウンドに立ち信頼関係を築いてきた

慶應義塾大野球部が本気で日本一をめざす集団であることは、もちろん知っていた。実際に入部すると、改めて実感させられる日々が始まった。当たり前のように全体練習後も居残り、室内練習所で打ち込む選手たちがいた。

「この人たちの力になりたい。認められたい」。そんな思いが原動力になった。

役目は「感覚を数値で客観的に明らかにする」

相棒はコーヒーとノートパソコン。朝からカフェにこもり、過去のスコアや投球、打球を「ラプソード」で測定した数値とにらめっこしていた。2学年上の代で主将を務めた捕手・福井章吾さん(現・トヨタ自動車)は「配球のデータ教えて」と、自分のことを頼ってくれた。競技経験がないからこそ、「普段どんなことを考えてプレーしているのか」を選手たちに聞いた。空いた時間を見つけては社会人野球チームで活躍するアナリストにも話を聞きにいき、徐々にノウハウを積み上げた。

アナリストの役目は多岐にわたる。簡単に言えば、「なんとなく感覚としてあるチームの課題を、数値で客観的に明らかにすること」。裏付けがあることによって選手の納得感が増し、チームで掲げる目標にも納得しやすくなる。課題を明らかにするだけではなく、スイングスピードや打球速度の向上など、選手の成長も明示し、モチベーションにつなげる。

アナリストの役目は、感覚としてあるチームの課題を数値で客観的に明らかにすること

目標設定につながった秋季リーグ前のプレゼン

最終学年として迎えた今春の東京六大学リーグでは3位。秋のリベンジに向けて、2020年以降のリーグ戦データを洗い出した。パワーポイントにまとめ、秋季リーグ開幕前のミーティングでプレゼンした。

スライドの14ページ、題して「リーグ戦を勝ち抜くには」。

内容は主に、得点数と失点数の具体的な目標を示すものだ。

「4失点すると勝率は4割だが、3失点に抑えれば6割に上がる」「2失点以上のイニングを作らなければ、試合を通じて5点奪われる可能性は2%以下」。過去のデータをもとに、そんな分析結果を例示した。チームは「5得点以上、3失点以内」を目標に掲げ、特に守備練習に多くの時間を割いた。

効果は表れ、失策数は春の17から、6に減少。明治神宮大会の決勝・青山学院大学戦は投手戦になったが、プレッシャーの中、2-0で守り勝った。「データは課題を明らかにするものだから、選手にとっては嫌な部分もあったと思う。それでも受け入れてくれた。向上心の高い仲間とめぐりあえて本当によかった」

4年間を振り返り、「向上心の高い仲間とめぐりあえて本当によかった」と語る

佐々木は仲間の手で、神宮球場の秋空を舞った。選手も控え部員も応援団も、みんな笑顔。今までの苦労が吹っ飛んだ。「見たことない景色。最後にご褒美があった。野球経験はなくても日本一をめざすチームに貢献できることを示せたかな」

4年前、1人だったアナリスト部門は、今や3学年で9人にまで増えた。卒業後はコンサルタント会社に就職する予定だ。「あなたと仕事がしたい」と思われる人になりたい。

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