フィギュアスケート

明大・江川マリア、福岡から上京し成長 シニア2年目、全日本の悔しさを胸に飛躍誓う

憧れの全日本選手権の舞台で伸びやかに演技する江川マリア(撮影・明大スポーツ新聞部)

12月21日に長野市で開幕する全日本フィギュアスケート選手権に、明治大学2年の江川マリア(香椎)が出場する。高校まで福岡を拠点とし、大学進学を機に上京。昨シーズンは東日本選手権を初制覇して全日本選手権に出場、インカレでは大学の連覇に貢献するなど、新たな環境で成長を続けている。

浅田真央さんに憧れて

浅田真央さんに憧れた少女は、5歳で初めてパピオアイスアリーナのリンクに立った。「スケートをしたいというよりも、浅田真央ちゃんになりたかった」。転機となったのは、ノービスA2年目の2016~17年シーズン。野辺山合宿選考の時期に、それまで1種類しか跳べなかったジャンプの種類が4種類まで増えたのだ。「そこで初めて上位の選手と戦えると思えて自信がついた」。ノービスBの頃にも全日本ノービス選手権に出場していたが、特段目立った選手ではなかった。それまで感じていた上位選手との差がぐっと縮まり、だんだんと頭角を現すようになる。

憧れの大舞台・全日本選手権のシードを初めて本気で目指すことになったきっかけは、高校2年次に出場した全日本ジュニア選手権だ。当時はまだ自分に自信が持てずにいたが、西日本ジュニア選手権で3位になり、初めて全日本への出場を視野に入れるようになった。しかし、その状況がプレッシャーとなり、力を出し切ることができず、全日本への切符を逃した。「気持ちが追いつかず、その時は完全にメンタル面だと思った」。この経験を糧に、高校3年次は気持ちの面で準備を万全に整えたが、そこで苦難が待ち受けていた。

リンクの閉鎖、突然スランプに

高校3年次の夏、ホームリンクであるパピオアイスアリーナが老朽化などを理由に閉鎖され、スケートを始めてからずっと通ってきた練習拠点を失った。リンクを転々として練習をすることになり、家から遠く離れたリンクまで毎日親に送迎してもらう日々が続いた。環境が大きく変わり、それにともない様々な制約の中での練習を強いられることとなった。

そして突然のスランプに陥った。ジャンプが全く跳べなくなってしまったのだ。インターハイでは1年次に続いて2年次でも準優勝を果たし、順調に全国大会で結果を出していた中でのことだった。「調子が悪い時は今までに経験があったが、全く跳べないというのは経験したことがなかった」。成長にともなう体形の変化で跳べなくなることはよくあるが、そういったわけでもなかった。原因が分からないからこそ苦しい日々は続き、時には「このまま跳べなくなって終わるのかな」という考えが浮かぶほど気持ちは落ち込んでいた。

そんな状態にあっても、リンクの氷を踏まない日はなかった。ジャンプが跳べないもどかしさから泣きそうになりながらも毎日練習に励んだ。「今まで跳べていたのだからまた跳べるようになるだろうと思って、前の跳べていた時の映像を見てイメージトレーニングをした」

なんとか前向きに練習を重ねていくうちに、少しずつジャンプが戻っていった。苦しい時に支えとなったのは、調子がいい時も悪い時も同じように接してくれたコーチや、毎日遠くのリンクまで送迎をしてくれた家族などの存在。「特にメンタル面で波があったシーズンだったが、その中でも根気強く支えてくれて感謝しかない」。目指していた全日本への切符がかかった全日本ジュニアまでには間に合わなかったものの、その後調子を戻し、インターハイで3年連続の表彰台を成し遂げた。しかし、全日本に出ることが一番の目標だった中で「『なんでできなかったのだろう』という後悔はいつまでもある」とシニアの舞台でのリベンジを誓った。

高校時代の江川(本人提供)

福岡から東京へ 練習環境を一新

高校卒業を機に大きな決断を下した。生まれてから18年を過ごし、スケートの拠点としていた福岡を離れ、東京の明治大学に進学することにしたのだ。練習環境の良さやもっと切磋琢磨(せっさたくま)できるような環境を求め、上京を決意した。

「もしパピオアイスアリーナが休業していなかったら東京に移るかどうか分からなかった」。元々は東京に来ることなど考えてもいなかったが、ホームリンクの閉鎖が決断の大きな要因となった。そして新たな練習拠点に選んだのは、三井不動産アイスパーク船橋を拠点リンクとするMFアカデミー。福岡時代に3年間師事していた中庭健介ヘッドコーチの存在が大きかった。

「大学でもまた教わりたいと思ったのが大きいのと、新しくきれいなリンクで、練習時間がしっかりと取れる面も含めて魅力的に感じた」。MFアカデミーでの練習はとても刺激的で、一緒に練習しているだけでもうまくなってしまうぐらいの感覚があるという。「渡辺倫果ちゃん(法政大学)など高難度のジャンプを跳んでいる選手を毎日見て、自分も自然と向上心が芽生えた」。環境を一新したことが功を奏し、大躍進を見せることとなる。

シニア1年目 新天地で快進撃

シニア1年目の2022~23年は、シーズン開幕戦で鮮烈なシニアデビューを飾った。強者がひしめく東京選手権で優勝を果たしたのだ。「まだまだ優勝できるレベルではなく、たまたまだと思っていた」と、自分の実力がどこまで通用するかまだ実感が湧いていなかった。しかし、フリーでジャンプの抜けるミスがありながらも123.22点という得点をたたき出し、「完璧な演技をしたら120点ぐらい出るというのは自分の中でも分かっていたが、ミスがあってもこのぐらいの点数が出せるんだというのは自信になった」。

これを機に、明確に高い目標を持てるようになった。「全日本に行くのはもう絶対の目標。そこでいい演技をして強化選手に選ばれて、国際大会に派遣されるというのが最終的な目標」

快進撃は続く。東日本選手権でも首位となり、これまで幾度となく逃してきた全日本への切符を初めてつかんだ。ショートプログラム(SP)もフリーも完璧な演技とはいえず悔しさが残ったものの、スケーティングと表現力が評価された。

「スピンできっちりレベルは取るというのは意識していて、練習の曲かけの時もスピンを抜いたりして練習するのではなく、全部そろえて練習するというのを必ずしていた」。練習から本番と同じように演技をする習慣をつけていたからこそ、ジャンプ以外の要素での得点が伸びた。

また、表現の面での成長は日頃から一緒に練習をしている仲間の存在が大きかった。「MFアカデミーにはジャンプが得意でなくても表現がすごく上手な選手もいて、練習している中で間近で見て学ぶものが多い」。拠点を移して半年、新たな環境でたくさんのことを吸収し急成長を遂げた。この試合で憧れの全日本への出場を決めた。

拠点を移し挑んだ東日本選手権で優勝を果たした江川(中央、明大スポーツ新聞部)

初めての全日本で味わった悔しさ

ずっと目指してきた憧れの全日本。目標は12位以内に入って強化選手に指定されること。東京に拠点を移し、慣れない環境の中で必死に頑張ったシーズンの集大成となる試合でもある。

「今までの予選とは全く違う舞台。久々の有観客の試合で、全てが自分には新鮮に映る中でいつもどおりの演技ができるか、一番実力が試される」。それを分かっていても、思うように事は運ばない。

迎えたSP。演技冒頭の3回転ルッツで転倒、最後のダブルアクセルも跳び切れず、本来の実力とはかけ離れた演技に。「このような演技になってしまい悔しいの一言。緊張から体が動かないというわけではなかった。メンタル面でいけないところがあったのかもしれない」。しかし、スピンやステップでは全て最高のレベル4を獲得。23位でSPを終え、なんとかフリーへ進むことができた。

「SPのことは忘れるくらい、やってやる! という強い気持ちで切り替えて頑張りたい」。そう意気込んで挑んだフリー。冒頭のジャンプで転倒が続くも、得意のダブルアクセル(2回転半)―3回転トーループの連続ジャンプを決めた。満足いく演技とは程遠いものではあったが、その要因を冷静に分析した。「ショートもフリーもメンタル面が課題だった。もう少し落ち着いてやりたかった中で焦ってしまった部分や冷静になれない部分がありジャンプが崩れてしまった」。初めての全日本を22位で終えた。

シニアデビューを果たし、新たな地で新たなことに挑み続けた1年間。力を出し切れなかった演技の中でも、その成果は確実に評価されていた。そして全日本の舞台を経験したからこそ得た気付きがあった。

これまで「たくさんの人の前で一人で滑るなんてすごいね」とよく言われてきたが、自分の中ではピンと来ていなかったという。「全日本に出て初めて、こんなに大勢の前で一人で滑っていて、その時はみんな自分だけを見てくれているんだなと実感した。それは全日本でしか味わえないような雰囲気だと思うので、やはりリベンジしたい」。この舞台に再び戻ってくることを誓った。

全日本という初めての大舞台で演技した江川(撮影・明大スポーツ新聞部)

シニア2年目 再び挑む全日本

大躍進の1年からさらに練習を重ね、迎えたシニア2年目。SPもフリーもプログラムを一新した。シーズン開幕初戦は昨年度優勝した東京選手権。「昨年は自分の中ではたまたまという感じがしていて、今年は自分の本当の実力が試される」。スピンは全てレベル4を獲得し、大学の同期、住吉りをん(オリエンタルバイオ/明治大学、駒場学園)に次ぐ2位につけ、揺るがない実力があることを証明した。

続く東日本では、全日本に進出できるのは上位5枠という厳しい戦いの中でも2位につけ、リベンジを誓った舞台への切符をつかみ取った。

シニア2年目、プログラムを一新し全日本でのリベンジを誓った(撮影・明大スポーツ新聞部)

「一番いい舞台で、いちばんいい演技を」。いくら予選が良かったとしても、必ずしも全日本でいい演技ができるとは限らないということを身をもって学んだ。

今年こそは納得のいく演技を。そしてさらなる高みへ。大学の同期、佐藤駿(エームサービス/明治大学、埼玉栄)と住吉はすでに世界の舞台で堂々と戦っている。「まだライバルというところまで自分がいけているのかは分からないが、昨年よりは近づいていると思う」

強い仲間と切磋琢磨し、モチベーションも上がった。4回転の練習も取り入れるなど、常に新たなことに挑戦し続けている。積み重ねた努力と全日本という舞台にかける強い思いが実るように。世界へ羽ばたく日もそう遠くない。

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