アメフト

京都大QB浦田紘佑 偉大な先輩から受け継いだエースの座、経験1年でも「やりきる」

京都大学の浦田紘佑(18番)は昨夏から本格的にQBの練習を始めた(阪大戦はすべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は9月28、29日に第4節の4試合がある。再建の年となっている京都大学ギャングスターズは22日に大阪大学を21-7で下し、今シーズン初勝利を挙げた。昨年までの3年間ずっと大黒柱だった泉岳斗(現コーチ)のあとを受け、エースQBの座に就いた浦田紘佑(こうすけ、3年、岡崎)はその重責を受け止め、「チームのためにやりきる」と奮闘している。

「今日こそは相手に合わせない」と阪大戦へ

京大は初戦の近畿大学戦を12-13で落とし、続く神戸大学戦は3-7で敗れた。3戦目の阪大戦にも負ければ、入れ替え戦出場(7、8位)へ事実上の黄色信号がともる。神戸・王子スタジアムでの国立大決戦は雨。雷鳴のために試合開始が約40分遅れた。

まだ雨の残る序盤、京大の選手たちがこの一戦にかける思いをフィールドで体現する。まずはディフェンス陣が阪大に攻撃権更新を許さず、相手のパントも飛ばずで自陣36ydから最初のオフェンスを迎えられた。QBの浦田は「今日こそは相手に合わせないで、自分たちのやってきたことをやりきる」とフィールドへ。

雨の中、浦田は今シーズン初のTDパスを決めた

OL(オフェンスライン)の5人がしつこくブロックしてRBの平原大輔(4年、西京)や小林将也(4年、麻布)を走らせ、浦田もスクランブルからナイスゲイン。4度攻撃権を更新し、ゴール前7ydでこの日初の第3ダウン(残り4yd)を迎えると、右のナンバーツーに入ったWR杉浦洸(4年、大阪桐蔭)がフックの動きから緩急巧みにタテへ走って相手のマークを外し、浦田がエンドゾーン奥へ浮かせたパスを合わせてタッチダウン(TD)。今シーズン浦田が決めた初のTDパスで7-0と先制した。

浦田からのTDパスを好捕し、喜ぶWR杉浦(左)

第2クオーター(Q)に入っての3シリーズ目もランを中心にドライブし、第3ダウン残り15ydも浦田のQBドローで突破。得意の鋭いカットバックが効いた。「雨でボールが濡れてて、いいパスが投げられるコンディションじゃなかったんで、『自分のやれることはこれぐらいやな』と。結果的にフレッシュが取れた感じです」と浦田。最後はワイルドキャットフォーメーションでQBの位置に入ったRB平原が左のカウンタープレーで軽々とエンドゾーンに入った。14-0だ。次の阪大オフェンスではパスを2連続で決められたが、その次も投げてきたところをDB阿部俊介(3年、東海)がインターセプト。そのまま試合を折り返した。

RBのパートリーダーである小林は3試合で139ydを走っている

流れを持っていかせなかった後半

後半開始のキックオフで阪大が仕掛けてきた。副キャプテンでDBとキッカーを兼ねる澤田悠太(4年、American International School of Johannesburg)が、試合後に「ほぼぶっつけ本番でした」と明かした「ちょん蹴り」。コロコロと転がるボールを自ら抑えて攻撃権を手にした。京大の藤田智ヘッドコーチ(HC)によると、オンサイドキックを十分にケアしていたはずが、決められたそうだ。阪大はラン、ラン、ランでたたみかけ、3プレー目からはキャプテンでOLの元木怜達(4年、関西大倉)が今シーズン初めて出場。けがで2戦目まで出られなかった鬱憤(うっぷん)を晴らすかのようにハドルブレイクで叫び、全身全霊のヒットをかました。最後はQB立石航大(2年、高槻)が副キャプテンでエースWRの朝木陽生(4年、豊中)へTDパスを決め、7点差に追い上げた。この立石、ネット中継用のひとことコメントに「依さんに褒められたい」と書いている。依さんとは高校時代のアメフト部の監督で、現在京大でフレッシュマンコーチを務める依藤容直さん。依藤さんは心の中で、いまや敵の立石を褒めたのだろうか? この日はその取材に手が回らなかった。次の機会に聞くとしよう。

練習と試合ではコンタクトレンズ着用の藤田HCだが、阪大戦は「何か変えてみよう」と眼鏡姿だった

一気にムードを持っていかれてもおかしくなかったが、この日の京大は動じない。パンターも兼ねるQB浦田のナイスパントで阪大に自陣3ydからのオフェンスを強いる。1ydも進ませず、阪大のパントを受けた先制TDパスキャッチのWR杉浦が15yd返して、敵陣27ydと願ってもない位置からのオフェンスに。3プレー目にRB柳川雄豊(2年、北野)が9ydを駆け抜けてTD。キッキングチームとディフェンスとオフェンスがかみ合い、21-7とした。

その後、京大ディフェンスはLB石田凜(3年、佼成学園)がスクリーンパスを読み切ってタックルを決めたり、LB友井幹太(4年、都立西)がインターセプトしたりで追加点を許さず、実に38年ぶりの国立大決戦に快勝した。なおLB石田は高校フットボールの名門中の名門である佼成学園の出身だが、野球部だったそうだ。高校時代に常勝アメフト部の仲間たちをどんな風に見ていたのか、いつか聞いてみたい。

浦田はサッカーをやっていたころからカットを切る走り方が得意だったという

小学校から高校までサッカー

この日の京大QB浦田は12回投げて6回のパス成功で33yd、1TD。走っては7回で62ydのゲインだった。巧みなパントも合わせ、数字以上の存在感を示した試合だった。「夏からずっとやってきたベースのプレーをやりきるだけでした。そうすれば勝てる自信はあった。やってきたことを信じ続けた結果かなと思います」。浦田は語り口は穏やかだが、選ぶ言葉にワードにパワーがあるタイプだ。

小学校から高校までずっとサッカー。高校時代はボランチだった。「スペインの足元うまい系の選手」に憧れていたそうだ。そんなサッカー少年に、もうちょっと激しいフットボールからの風が吹いた。浦田が振り返る。「中学時代の友だちのお父さんがアメフトをしてて、『アメフト見ようぜ』って誘われて。高2のときに初めてスーパーボウルをテレビで見たんです。そのときから『いいな』って思い始めて、京大に入れたんで見に行ってみたら、何か入ってました(笑)」

初戦の近大戦でパスに出る浦田。いま遠投は50~55yd(撮影・篠原大輔)

入部してすぐDBに。徐々にディフェンスの面白さに目覚めていった。2年になると同時に、かつてギャングスターズのQBで、Xリーグで指導者として輝かしい実績を積み上げた藤田さんがHCに就任した。藤田さんはコーナーバックとして練習する浦田の姿を見て、ピンときた。「動きがすごくよかったし、投げさせてみたら結構投げる。DBをやらせてるとフットボールセンスのいい悪いが結構分かりますんで。足も速いし、これはQBやらせとこうと」。昨夏から本格的にQBの練習を始めた。浦田の1学年上と同期にQBが誰もいないというチーム事情もあった。

絶対的な存在だった泉のプレーぶりをサイドラインから見つめる日々。昨年のリーグ戦では5回投げて3回成功、31ydゲインの記録が残る。泉が引退し、一気に「自分がやるしかない」との自覚が湧いてきたという。京大の大学院に進んだ泉は、時間のある限り農学部グラウンドへ足を運んでくれる。「毎回の練習で、泉さんが本当に細かいところまで考えてやってたんだというのを実感してます。もちろん能力的にもすごいんですけど、細かいところまで詰めてやってるからこその強さなんだなと感じます。そんな泉さんからQBとしての考え方の部分を教えてもらえるのが、僕にとっていい刺激になってます」。泉さんってどんな人かなと尋ねると、浦田は笑って言った。「めちゃくちゃ優しいです。それと決めたことはしっかりやるというか。ほんとにすごい人だなと。非の打ちどころがないです」

泉岳斗コーチ「一番よかったのは判断の早さ」

泉コーチは阪大戦の浦田をこうたたえた。「一番よかったのは判断の早さでした。『ダメだ、ちょっと不安だ』と思った瞬間にもうスクランブルしたり投げ捨てたりできてました。そこに迷いがないので、テンポよくオフェンスが進んだと思います。とくにファーストドライブはそうでした」。4戦目以降の浦田に期待することを尋ねられると、「今日みたいに早い判断を、どんなに強い相手が何をやってきてもできるかどうか。あとは自信のあるプレーの幅を広げていくことです。ただ何をするにも、最初は自信のある一つのプレーからなんで、それが今日はいい経験として得られたのかなと思います」。阪大戦で踏み出した浦田のQBとしての一歩がどれだけ貴重なものか、泉コーチが教えてくれた。

サイドラインから試合を見守る泉コーチ。「浦田はすごいアスリート。何でもできる」

今後の対戦相手を考えたとき、次の桃山学院大学戦は絶対に落とせない。浦田は言う。「レシーバーに経験のある人が多くて、しっかり自分たちのプレーをやりきれば、どんなチームとも対等にやれる自信はあるし、(京大の)ディフェンスはすごくレベルが上がってると感じてます。止めてくれたところでしっかりと(点を)取りきる。今日もまだまだだったので、しっかり詰めて、1試合1試合に力を出しきれるようにしたいです。4回生に後悔なく終わってもらえるようにボールを投げて、やりきるだけかなと思います」。ギャングスターズの18番は、技術も心も少しずつエースQBらしくなってきている。

まだQBになって1年ちょっと。伸びしろだらけの浦田がギャングスターズの行方を決める

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