京都大学・五十嵐亮太 スタッフから選手へ異例の転身、生きざまを示したハードヒット
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部で、京都大学ギャングスターズが10年ぶりの開幕3連勝を飾った。10月1日の甲南大学戦(38-14)では、キッキングゲームでのハードヒットがスタジアムを沸かせた。ビッグプレーを起こしたのは、ギャングスターズにあこがれて2年の浪人生活を送り、入学後の2年間は裏方として過ごしてきた選手だった。
突き刺すようなタックルに、相手は思わずファンブル
彦根城を望む、滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムでの一戦。甲南大の最初のシリーズで、京大DB柿原凜(3年、久留米大附設)がミドルパスをインターセプト。敵陣38ydからのオフェンスとなった。最初のプレーで左へブーツレッグで出たQB泉岳斗(4年、都立西)がロングパス、右からのポストパターンで相手を抜き去ったWR上田大希(3年、須磨学園)がエンドゾーン中央付近でキャッチし、先制タッチダウン(TD)。トライフォーポイントのキックも決まって7-0とした。
その直後の京大のキックオフ。甲南大のリターナーが鋭いタックルを受けてボールが吹っ飛び、京大の選手がリカバーした。会場で流れたリプレーで確認すると、左端から2人目の位置からラッシュした京大RB五十嵐亮太(4年、都立西)がブロッカーを内にかわし、すぐに外へコースを修正。スピードを落とすことなく、突き刺さるようなタックルを見舞っていた。五十嵐は叫び、右腕を突き上げて喜んだ。このビッグプレーもTDにつながり、京大は優位に試合を進められた。
身長170cm、体重76kg。背番号34の五十嵐は試合後、「ファンブルさせたのは初めてです。思いきったプレーができました。今日はST(スペシャルチーム)で勝ちたいと言ってたので、よかったです」と、落ち着いた口調で言った。
「チームの頭脳」から5年ぶりに選手へ復帰
五十嵐は今年12月で24歳になる。都立西高のアメフト部でRBとしてプレーし、3年生のときにはオフェンスリーダーを務めた。ギャングスターズへのあこがれから京大を受験したが、不合格。1浪で合格した慶應義塾大学に進んだ。しかし京大への思いは消えない。「仮面浪人」の1年を過ごし、京大工学部工業化学科に入学した。
高校時代のけがや2年間のブランクを考えて、五十嵐は対戦相手の分析を担当するAS(アナライジングスタッフ)として入部した。対戦相手の研究だけでなく、NFLやカレッジの試合も見て、チームに採り入れられるものはないかと目をこらした。高校の2学年後輩だった泉と、京大では同期になった。泉がエースQBとなった2年生の秋は、チーム史上2度目の入れ替え戦に回った。神戸学院大に勝って1部に残ったが、五十嵐はやるせない思いを抱えていた。「チームの頭脳として貢献できたらと思ってASになったんですけど、2年の秋が終わって悔しくて、自分自身がこのチームを勝利に導きたいと思うようになりました」
3年生から選手としてやっていく決心をすると、仲間たちは「うれしい」と言ってくれた。五十嵐には、また泉と同じ立場でやれる喜びもあった。5年ぶりに選手として練習を始めたが、関西の1部でRBとして試合に出るレベルになるのは難しいと分かってきた。一方でキックオフカバーでの思いきりのいいラッシュには、チーム内で定評があった。五十嵐は残りの大学フットボールの日々を、これにかけることにした。
相手のリターンチームについて自分なりに研究し、全体練習が終わったあとの農学部グラウンドで、リターナーへのタックルをイメージしてマシンに当たった。今年はキックオフカバーのリーダーとなり、練習や試合の映像を見ては、選手一人ひとりに修正点や課題、よかった点などについてのコメントをLINEで送ってきた。そうやって突き詰めていった結果、甲南大戦のビッグプレーが生まれた。
「アメフト界に五十嵐亮太の名前をとどろかせたい」
主将でもあるQBの泉は、五十嵐についてこう言った。「最初はまさかと思いましたけど、また一緒にやれてうれしいです。今日の彼のプレーは、僕もうれしかった。STでビッグプレーがあると、オフェンスもディフェンスも『よし、俺たちも』という気持ちになれます」
五十嵐亮太といえば、メジャーリーグでも投げた元ヤクルトの剛腕ピッチャーをイメージする人が多いはずだ。五十嵐自身もこれまで、数えきれないほど言われてきたそうだ。その話になったとき、彼は「アメフト界に五十嵐亮太の名前をとどろかせたいです」と威勢よく話した。
キックオフカバーで突っ込んでいく選手たちは50ydほど走っていって、ぶち当たる。スピードと判断力、なにより勇気が必要だ。五十嵐にとってラストシーズンのリーグ戦は3試合が終わった。残されたキックオフカバーのチャンスは多くはない。五十嵐は勇気の塊となり、突っ込んでいくだろう。ギャングスターズを勝たせるため、自らの生きざまを示すために。