帝京大PR森山飛翔 「ワールドクラスの右PR」をめざす20歳、5連覇への翼となる
成人の日の1月13日、東京・秩父宮ラグビー場で61回目の全国大学ラグビー選手権大会の決勝が行われた。4連覇と13度目の優勝を狙う帝京大学(関東対抗戦2位)が、5大会ぶり17度目の優勝を目指す早稲田大学(対抗戦1位)と激突。帝京大がスクラム、接点で上回って、33-15で快勝して優勝した。早稲田大に連敗した夏の練習試合、秋の関東対抗戦のリベンジを果たす会心のゲームを見せた「紅(あか)い旋風」の中で、先制トライを挙げるなどMVP級の活躍を見せたのが、スクラムの要でもある20歳の右PR森山飛翔(つばさ、2年、京都成章)だった。
決勝 FW8人がまとまってスクラムで主導権
昨季の決勝は6分ほどの出場だったが、身長180cm、体重109kgの体格を生かし、今季は秋から3番を背負い続けた。決勝でもほぼ80分出場して、主力として優勝に寄与。森山は「昨季の勝たせてもらった優勝もうれしかったが、今季は自分がチームに貢献できたっていうのが感じられる、そんな試合だった」と目を細めた。
その決勝戦。夏や秋は苦戦を強いられた早稲田大のスクラムに対応するため、1番、2番には控え選手が先発する中で、森山は引き続き先発。スクラムでプレッシャーをかけられたことが、勝利の大きな要因となった。
準決勝から決勝までの10日間、毎日スクラムを組んでいたという森山は、「夏、秋とスクラムで早稲田大に圧力をかけられて帝京大が負ける展開だったので、大事な場面でスクラムで勝ち切ろう、というマインドが良かった。カイサ(・ダウナカマカマ、2年、大分東明)やFLの押しがあり、8枚のまとまりのところで勝負があったかな。自分のスクラムはまだまだですが、スクラムは1人では勝てないし、1人が負けても8人がまとまれば勝てる。自分たちのスクラムができた」と胸を張った。
スクラムもキャリーも PRらしくないPRを追求
森山は、リーグワンでプレーする2人の兄など6人兄弟の末っ子で、10歳から京都・おおぞら少年少女ラグビークラブで競技を始めて、京都市立藤森中学を経て京都成章高校に進学。1年から3番として「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場し準優勝を経験。同学年の桐蔭学園・矢崎由高(現・早稲田大2年)とともに、1年生にして大会の優秀選手賞に選出される逸材だった。
3年時はNO8にコンバートして、現在も帝京大でチームメートであるSO/FB本橋尭也(2年、京都成章)とともに共同キャプテンを務めて花園で準決勝に進出し、高校日本代表にも選出。帝京大に入学した後は再び3番に戻り、昨季は主に控えとして出場し、日本一を経験した。
2年生となった森山は、U20日本代表活動こそ参加しなかったが、5月下旬には菅平で行われた日本代表候補合宿に招集された。日本代表のエディー・ジョーンズHCに「素晴らしいボールキャリアーで、成長の加速を促したい」と評価され、6月に矢崎とともに最年少で日本代表に選出され、「JAPAN XV」としてマオリ・オールブラックス戦にも出場を果たした。
「矢崎はすごいですし、僕は『矢崎世代』なので、世代の中で『僕もいるんやぞ!』というのを見せていきたいですね!」
日本代表ではPR竹内柊平(浦安D-Rocks)、PR為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)らと一緒に練習を重ねた。また元ニュージーランド代表で世界的右PRだったオーウェン・フランクスコーチの指導も受けて、スクラムに対するメンタルが大きく変化したという。
「昨季はもともとNO8だったからフィールドを重視していましたが、3番はスクラムが大事と考えるようになった。オーウェンにはスクラムの基礎を教えてもらったし、どんな相手でも自分のスクラムをどう組むか考えるようになった」
森山は選手としての目標を、ジョーンズHCにも言われたこともあり、「ワールドクラスの3番」と定めた。「3番はスクラムが強いのが一番で、自分の強みはフィールドでも走れるし、タックルもキャリーもいくPRらしくないPRを掲げているので、それらを突き詰めていきたい」(森山)
連敗した早稲田スクラムへの恐怖感を克服
ただ、日本代表活動から戻った夏合宿では、早稲田大に14-38と敗れた。9月に関東対抗戦が始まってもチームの調子はあまり上がらず、11月3日には早稲田大に17-48で完敗した。
森山は「昨季は試合に出ている4年生が多くて、チームが新しくなって引き継ぎのところがうまくいってなかった。対抗戦の早稲田大戦では、夏の敗戦があって気持ちが上がってしまって、落ち着かせようとゆっくりプレーしてしまった。タックル、ボールキャリーで前に出ていないのも課題だった」と振り返る。
しかし、その2週間後の明治大戦からは、チームは生まれ変わったかのように調子を上げて、大学選手権の決勝まで駆け上がった。PR森山もスクラム、ボールキャリー、タックルで存在感を示し続けた。「優勝するために帝京大に来た。また早稲田大に勝って優勝というイメージを大事にして改善した」
ただ森山は、早稲田大に対してスクラムが劣勢になった上での夏と秋の敗戦は「すごく苦い経験でしたし、決勝までの最初の3日間は恐怖感があり、ビデオで振り返るにも勇気が必要だった」と正直に吐露した。しかし、つらい練習を重ねる中で、「自分たちのスクラムにフォーカスして、何本組んでも勝てるスクラムが練習でできた」と自信をつけて、「心から早稲田大さんに勝ちたいと思えるようになった」と前を向いた。
決勝戦では最初のスクラムでペナルティーを奪ったことで主導権を握ったが、日本代表、そして帝京大の練習を通して得た自信が、表れたというわけだ。そして、武器であるボールキャリーもしっかり見せて、前半5分にはキャプテンFL青木恵斗(4年、桐蔭学園)をフォローして大学選手権初トライも決めた。「キャプテンの突破で前が空いたので、絶対トライしたいと思いましたが、キャプテンにもらったトライかな」
大学日本一「この景色をみんなでまた見たい」
森山は、今季、同部屋だった青木キャプテンのリーダーシップについて、「言葉もすごい人ですが、プレーで見せてくれる人だった。やっぱり強いキャプテンじゃないと人は動かされないと思った」とたたえた。
主力として大学選手権連覇を達成したPR森山は、「スタッフと合わせて160人いて、この景色をグラウンドで見られたのは23人ですが、もっとみんながそこを目指せるようなチームとなり、この景色をみんなでまた見たい。来季は1つ上の代と僕たちの代が歴史を作る番なので、しっかり覚悟を持ってやっていきたい」とすでに来季を見据えていた。
20歳の今シーズン、大きく飛躍の1年を過ごした森山飛翔。5連覇を目指す来季も、紅いジャージーの「3」番が帝京大のFW陣の中軸となることは間違いない。