中央大学が箱根駅伝5位で2年ぶりシード権 藤原正和監督、往路は「100点満点」
第101回箱根駅伝
1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
総合優勝 青山学院大学 10時間41分19秒(大会新)
2位 駒澤大学 10時間44分07秒
3位 國學院大學 10時間50分47秒
4位 早稲田大学 10時間50分57秒
5位 中央大学 10時間52分49秒
6位 城西大学 10時間53分09秒
7位 創価大学 10時間53分35秒
8位 東京国際大学 10時間54分55秒
9位 東洋大学 10時間54分56秒
10位 帝京大学 10時間54分58秒
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11位 順天堂大学 10時間55分05秒
1月2日、3日に開催された第101回箱根駅伝で、歴代最多14度の優勝回数を誇る名門・中央大学が5位に入り、2年ぶりにシード権を獲得した。前回は上位進出が有力視されながら、大会直前に体調不良者が続出。総合13位と不本意な結果に終わった昨年の悔しさを糧に、今回は持ち前のスピードを発揮した。1996年の第72回大会以来となる総合優勝を目指す来年に向けて、収穫の多い大会となった。
独走の吉居駿恭「スローのまま行くのは嫌」
「今日は100点満点です」。往路を終えた後、藤原正和監督の口調は滑らかだった。「主導権を握ると、こんなにも駅伝は楽なのかと感じました」。チームは5区の途中までトップをひた走り、2位で芦ノ湖のフィニッシュテープを切った。
圧巻の走りで流れを作ったのが、吉居駿恭(3年、仙台育英)だ。前回は復路の7区で区間賞を獲得し、今回は兄の吉居大和(現・トヨタ自動車)が1時間00分40秒の区間記録を持つ1区を任された。
全体的にスローペースの出だしとなった中、吉居は早々に飛び出した。最初の1kmを2分46秒で通過。5kmを13分56秒で走り抜けると、8km付近ですでに2位集団と1分以上の差をつけた。その後も吉居のペースは変わらず、勝負どころとされる六郷橋の手前1kmあたりでややペースが落ちたものの、2位とは1分32秒差の独走で鶴見中継所に到着した。タイムは1時間01分07秒と兄の区間記録には及ばなかったものの、自身2度目の区間賞となった。
走り終えた後、吉居はこう振り返った。
「スローペースのまま行くのは嫌だったんです。前に出たら、誰も反応しなかったので、そのまま行ってしまおうと。レースプランとは違いましたが、兄の動画を見ていたのでイメージはできてました」
区間賞の裏には人間的な成長があった。ターニングポイントになったのが昨年11月の全日本大学駅伝だ。各校のエースが集まる7区を担ったが、区間14位と本来の力を出し切れなかった。そこで考えの甘さに気付いたという。「その後の2カ月はいい取り組みができました。『とにかく勝ちたい』と結果にこだわるようにしたところ、おのずと練習量も増え、意識も変わりました」
本番前は正当な理由以外での外出禁止を徹底
2区以降を走った選手たちは、吉居が作った流れをつなげていった。自身初の「花の2区」を担った溜池一太(3年、洛南)が順位をキープし、3区の本間颯(2年、埼玉栄)は「1区からのいい流れに乗って行けました」と1時間00分16秒の好タイムで区間賞を獲得。藤原監督は「本間で引き離せたのは大きかった」とねぎらった。
本間によると、自身もチームも、箱根駅伝直前の体調管理に最大限の気を使ってきたという。昨年は本番まで約1週間となった時点から、エントリーメンバー16人中14人が、次々に体調を崩した。
「寝る前はいつも、翌日にのどが痛くなったり、発熱したりしないか不安でした。朝起きて無症状だとホッとする。その繰り返しでしたね。そうやってコンディションに配慮し続けたことが、区間賞につながったかなと。チームとしても、正当な理由以外での外出禁止を徹底し、クリスマスの時期もメンバーだけでなく、全員が外食を我慢してました。我慢が結果に結びついたのは今後にも生かされると思います」
藤原監督は昨年の経験があったから、今回の結果をつかめたと考えている。
「昨年は本当に苦しかったです。でも、選手たちは苦い経験を糧に立ち上がってくれました。私自身も苦しかった中で指導者として成長できました」
”5年生”園木大斗「覚悟を決めて5区を志願」
昨年の4年生は無念な気持ちを抱えながら卒業していった。その姿をよく知っているのが、園木大斗(4年、開新)だ。箱根駅伝を走るために1年卒業を延ばし「同期」の思いも胸に5区を走った。
5区は園木にとって、残された最後の道だった。「昨年の9月に左ひざを故障して、下りと平地の練習が難しくなったんです。でも、上りならできる。ここで箱根を諦めたら、金銭的な負担もかけている親に申し訳なく、自分も一生後悔すると思い、覚悟を決めて5区を志願したんです」
山梨・西湖合宿では毎日、富士山を登り、合宿以降も2週間に1回は、富士山の標高1000mから2300m付近でトレーニングを積んだという。そこは最高地点が約874mの5区より酸素が薄い。園木は「初めての箱根が5区でしたが、きつさは感じませんでした」と振り返る。
ただ、最初の3kmをハイペースで入ってしまった。「後ろに青山学院大学の若林君(宏樹、4年、洛南)がいたので、逃げなきゃと突っ込んでしまったんです」。そこでエネルギーを使い過ぎてしまい、その後の5kmは記憶がないと言う。何とか持ちこたえ、目標としていた1時間10分台はできなかったものの、区間6位でまとめた。
「大ブレーキにならず、最低限の仕事はできたと思います」。安堵(あんど)の表情を浮かべた園木について、藤原監督は「順位は一つ落としたが、若林君と区間2位の工藤君(慎作、早稲田大学2年、八千代松陰)の間に挟まれながら、粘り強く走ってくれた」とたたえた。
藤原監督は園木が襷(たすき)をかけて走っている姿を見て、涙腺が緩んだという。
「感慨深かったですね。もともと1年生の時から箱根予選会を走っていた選手。能力は高かったんですが、本戦では出番がなかった。5区で起用したのは、卒業を延期したことへの温情ではなく、タイムを伸ばしたからです。〝5年生〟でありながら、1年生ともコミュニケーションを取る人間性も評価してます」
園木の疾走は昨年までの同期だけでなく、新チームの中心となる3年生以下の選手たちの目にも、焼き付いたに違いない。
スピード重視の取り組み、間違いではない
復路では下りに強い6区の浦田優斗(4年、國學院久我山)が2位をキープ。7区を任された1年生の岡田開成(洛南)も、区間新記録を樹立した駒澤大学の佐藤圭汰(3年、洛南)がいた中、順位を一つ落としたが及第点の走りを見せた。ところが、8区で6位に後退。厳しい展開になったところで9区の吉中祐太(3年、豊浦)が区間8位で踏ん張ると、アンカーの藤田大智(2年、西脇工業)が順位を一つ上げ、総合5位でフィニッシュした。
総合7位だった当初の目標を上回り、往路では優勝争いも演じた。藤原監督は手応えを感じている。「往路をハイペースにする高速駅伝に持ち込めたのは、スピードも重視するウチの取り組みが間違いではない証しだと思っています」
中大のスピードと強さを見せつけた今大会。吉居と溜池のダブルエースが残る来年は、頂点を目指す。達成するには、春から最上級生となる彼らの執念も不可欠だ。藤原監督は「監督のチームではない。最上級生が『自分たちのチーム』という意識で引っ張っていけるようになれば、総合優勝も見えてくると思います」と新チームに期待を込めた。