陸上・駅伝

中大・吉居駿恭 パリをめざしたトラックから駅伝へ、箱根シード権奪還のカギを握る

駅伝シーズンでカギを握る存在の中大・吉居駿恭(すべて撮影・井上翔太)

9月28日に新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで開催された「Yogibo Athletics Challenge Cup 2024」の男子5000mで、前年にこのレースを13分22秒01の自己ベストで制した中央大学の吉居駿恭(3年、仙台育英)は8位だった。パリオリンピック出場をめざしていた今季のトラックシーズンもこれで一区切り。これからは駅伝でチームに貢献する。

レースに挑む上で心の余裕は以前よりあった

レースにはディフェンディングチャンピオンの吉居の他、中大時代の先輩にあたる中野翔太(現・Honda)や大東文化大学のルーキーで、吉居にとっては高校の後輩となる大濱逞真(1年、仙台育英)ら19選手が出場。中でも注目されたのは、駒澤大学の大八木弘明総監督が世界をめざすランナーを育てる「Ggoat」プロジェクトのメンバー、田澤廉と鈴木芽吹(ともにトヨタ自動車)、篠原倖太朗(駒澤大4年、富里)の走りだった。

吉居はスタート直後から2番手につけ、先頭は最初の400mを61秒で通過。2周目に入ると、集団はほぼ縦1列に並んだ。1000mの通過は2分36秒、次の1000mも2分38秒のハイペース。2000mの手前で鈴木がスッと前に出て、ペースを作った九電工のベナード・コエチについていく。残り7周から鈴木らが後続の集団を引き離すかと思われたところ、ついていったのは篠原。吉居は集団の後方に下がった。

吉居の他、中野、鈴木、田澤、篠原と豪華なメンバーが集まった

「ペースは設定通りなんですけど、ちょっと早く感じた部分がありました。『もう1回ついていけるところまで、ついていくぞ』という気持ちだったんですけど、前に出られたことで集中力がちょっと途切れてしまった」と吉居。先頭はその後も1000mを2分30秒台で刻み、日本選手のトップは全体2位の鈴木で13分13秒80。篠原が屋外での日本選手学生記録となる13分15秒70で続き、吉居は13分45秒63だった。

来年に東京で開催される世界選手権の参加標準記録は13分01秒00。吉居は、この記録を突破するためのステップと位置づけて、今回のレースに臨んだ。「悔しい結果になってしまったけど、レースに挑む上で心の余裕は以前に比べたらあったので、しっかり反省点も分析できるかなと思います」と前向きに振り返った。

「しっかり反省点を分析できる」とレース後は前向きな言葉が並んだ

パリには届かず「今回の経験をつなげていきたい」

吉居はオリンピックシーズンの今季、男子5000mでパリ大会出場をめざしていた。年始の箱根駅伝で7区の区間賞を獲得した後は、イランのテヘランで開催されたアジア室内選手権の3000mに出場して5位入賞。だが、4月13日に熊本であった金栗記念は13分58秒58と苦しい走りになってしまった。

オリンピックのためには、タイムを縮めてワールドランキングの順位を上げることとグランプリシリーズで上位に入ってポイントを稼ぐことの両方が必要になってきた。吉居は雨の中、4月29日の織田記念で13分24秒06をマークして優勝を果たしたが、5月19日のセイコーゴールデングランプリで13分49秒60。日本選手権も13分50秒01で22位に終わり、オリンピックは4年後に持ち越しとなった。「結果的には大きく届かなかったんですけど、『4年後に向けて』という点でも本気で狙っていくことを意識していたので、今回の経験をしっかりとつなげていきたいと思っています」

目標だったオリンピック出場は4年後に持ち越し、個人としては来年の世界選手権を狙う

パリでのレースは、悔しい気持ちを抱えながら見ていたという。「自分の実力でそういうことを言うのは恥ずかしい部分もありますけど、『出たかったな』という気持ちはすごく強くて……」。日本選手権後、7月は精神的にも苦しい時期が続いた。それでも「できることをやらなければ、たどり着けない」と奮い立ち、世界最高峰のレースを心に刻んだ。

駅伝シーズンは「昨年のキャプテンを超えて区間賞を」

夏合宿は、基本的に実業団の練習に参加させてもらった。中大との違いについて尋ねると、「質や量的には中大の方があるかもしれないのですが、自分の状態的に『じっくりと作らなければいけない期間』でもあったので、前季の不調を乗り越えるためには良かった合宿だったと思います」と教えてくれた。吉居にとってはある程度きつい練習をこなすことで、本人の表現を借りれば「耐えられる」力は戻ってきた。「8月後半には納得いく練習ができて、調子も上がってきました。ここからはもう少し自分に厳しく、精神的な部分でもう一歩前に進めるようにしていきたい」

ここからは、前年度に悔しい結果となった駅伝シーズンが始まる。吉居自身も昨年は「トラックから駅伝へ、気持ちの切り替えが付かずに足を引っ張ってしまった」部分があるという。兄の吉居大和や前年度主将の湯浅仁(ともにトヨタ自動車)、中野といった強力な世代が卒業し、吉居駿恭には名実ともに「エース」としての役割が求められてくる。

夏合宿を経て復調傾向、駅伝シーズンでチームへの貢献を誓う

「昨年のキャプテンを超えて区間賞を狙えるように、しっかりとモチベーションを上げてチームに貢献したい」。全日本大学駅伝での上位進出と箱根駅伝でのシード権奪還に向けて、カギを握る存在であることは間違いない。

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