中央大・吉居大和 良い悪いの差が減ったトラックシーズン、武器の「爆発力」は駅伝で
今年度の駅伝シーズンを語る上で、中央大学・吉居大和(4年、仙台育英)の存在は欠かせない。昨年10月の出雲駅伝は、1区で追い風に乗って早々に集団を抜け出し区間賞。翌11月の全日本大学駅伝は体調が万全ではなかったが、当日変更で急きょ出走が決まって6区を走り、区間新記録。年始の箱根駅伝は「花の2区」で青山学院大学の近藤幸太郎(現・SGホールディングス)や駒澤大学の田澤廉(現・トヨタ自動車)との激しい区間賞争いを制した。最終学年となった今季は、ここまでどんなトラックシーズンを送り、駅伝シーズンへどうつなげていこうとしているのか。
世界選手権男子5000mの参加標準記録にチャレンジ
この上半期、中央大はチームとして特に5000mへ力を注ぎ、スピードを磨いてきた。箱根駅伝の後、アメリカのプロチーム「バウワーマン・トラッククラブ」でトレーニングを積み、走り込んできた吉居は、このトラックシーズンで世界選手権の参加標準記録(13分07秒00)突破をめざしていた。日本記録は2015年に大迫傑(Nike)がマークした13分08秒40。参加標準記録が日本記録より速く、高い壁のようにも思われたが、藤原正和監督は「13分20秒前後や10秒台で、うまくポイントで世界選手権に出ても予選落ちしてしまいます。ならば参加標準を切るチャレンジをしなければ、世界にはたどり着けない」。大きな挑戦だった。
春先の主な国内レース結果は、4月の金栗記念5000mが13分46秒55。翌5月のゴールデンゲームズ in のべおかは13分39秒07。日本選手権は13分27秒22で8位に終わった。
吉居は「できる限りのタイムを狙っていく中、結構速いペースで挑戦することが増えて、それで逆になかなかタイムが出ないこともあったと思います」。攻めた結果でもあるのだろう。藤原監督も「どのレースに出ても納得感を持って終われるように。とにかく『悔いのないようにやろう』という中で、チャレンジして手応えがあった部分と、こうしないといけなかったという部分があります。そこで悲観するのではなく『こうしたら(13分)1桁も狙える』というところも出てきたので、これらを来年のパリオリンピックに向けてつなげていきたい」と前を向いた。
「走るためのノウハウ」を作れている
日本選手権の後は、オーストリアで開催された「トラック・ナイト・ウィーン」にチームメートの中野翔太(4年、世羅)とともに出場した。早い段階でもっといいタイムを並べられていれば、本来は練習を積む予定だったが「情勢上はあそこでやるしかなかった」(藤原監督)。厳しい戦いになることを伝えられていた吉居も「海外レースに一つ出られたらいいなという気持ちがありました」。夜に行われたレースは、ホームストレートとバックストレートの直線だけ照明が照らされ、カーブはペースライトの明かりしかない。国内ではなかなか経験できない環境の中、タイムは13分43秒83だった。
「良かったところも、悪かったところもあった。その差というのが2、3年生のときよりも減ってきたかなと思っています」。吉居はトラックシーズンをこう総括する。
「2、3年生の頃は故障もありましたけど、今年に関してはシーズンを通して、しっかり合わせたいところに合わせられました。もちろんタイムとしては物足りなさもありましたけど、最低限のところで押さえることはできたので、そこは2、3年生のときから成長しているかなと思います。一方で爆発力というか、タイムを狙いにいくところで出なかったのは自分の中で課題です。目標を達成したかった気持ちは持っています」
学年が上がるにつれて、競技に対する取り組み方を模索してきた。その中で「自分が走るためのノウハウ」を作れている感覚があるという。「今やるべきことが分かってきて、それが少しずつ結果として出始めたというか。自分の中では少しステップを踏めているのかなと思っています」
エースとして主要区間で勝負
学生3大駅伝の幕開けとなる10月9日の出雲駅伝の前には、ラトビアで開催される「リガ2023世界ロードランニング選手権大会」の日本代表として5kmを走る。「長い距離ではないですし、夏合宿もガツガツと距離を踏むというよりは、まずはリガと出雲の2本、どちらも自分としてはしっかり走りたい気持ちがあるので、今はそこに集中しています」
夏合宿は他の選手と比べて、走行距離は8割ほどだった。吉居のタイプとして「しっかり走り込む」というよりは「リズミカルな動きを作る方が大切」だということをチームも理解してくれている。
駅伝シーズンでチームは、昨年度に駒澤大学が達成した3大駅伝「三冠」をめざす。ただ藤原監督は「駅伝ありきで何でも考えるのではなく、駅伝はあくまで強化に向けた一つの施策。世界をめざすべき選手は世界に出るための準備をして、駅伝も自分の成長にもつなげてほしい」というのが持論だ。
もちろん吉居は「世界をめざすべき選手」に入る。「いろんな人が見てくださるのが3大駅伝だと思います。自分としては一つひとつ、区間賞とチームの優勝をめざしてやっていきたい。エースとして、主要区間で他校のエースとしっかり勝負をして、チームに勢いをつけたいです」。トラックシーズンで物足りなかった「爆発力」を見せるときが近づいてきている。