中央大の吉居大和・駿恭兄弟、切磋琢磨して強くなる 3大駅伝すべてで「3位以上」に
「仲が良くて、自分もいろいろ話しやすい。練習でも試合でもすごく強さが目立つ選手で、競技に対してすごく真面目に取り組んでいる」と兄・吉居大和(中央大3年、仙台育英)が言えば、「すごくポテンシャルが高くて、自分はもっと努力しないと、という気持ちになる」と弟・吉居駿恭(中央大1年、仙台育英)が言う。
二つ違いの2人は小中高と同じ道を歩み、今、中央大学の同じユニホームを着ている。「照れくささは全然ないですね」と言うのは、兄弟という意識よりも、互いを1人の選手として、1人のライバルとして見ているからだろう。駿恭にとって初の学生駅伝となる今シーズン、中央大は学生3大駅伝すべての出場権を獲得している。狙うは「3位以上」。上級生となった大和にとっては、エースとしての覚悟を胸に挑む舞台となる。
大和、故障で挑戦もできなかった世界陸上
トラックシーズンを振り返ると、大和は5000mで7月の世界陸上(アメリカ・オレゴン)に出場するため、5月4日のゴールデンゲームズinのべおかでの参加標準記録(13分13秒50)突破を目指していた。同じレースで遠藤日向(住友電工)が13分10秒69の大会新記録をマークした一方で、大和は13分29秒35。6月9日の日本選手権に照準を定めていた5月下旬、右足の腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)を痛めてしまい、日本選手権を逃した。7月に入ってから走れるようになり、7月16日のホクレン・ディスタンス千歳大会に5000mで出走。その後、同じ箇所に痛みが出てしまい、練習に復帰できたのは8月下旬になってからだった。
昨シーズンの中央大は全日本大学駅伝8位、箱根駅伝6位でともにシード権を獲得し、今シーズンは2013年の第25回大会以来となる出雲駅伝への出場も決まった。昨シーズンの両駅伝で大和は1区を走り、全日本大学駅伝では区間賞と同タイムの2位、箱根駅伝では区間記録を15年ぶりに更新する1時間00分40秒の区間新記録で、襷(たすき)をつないでいる。「夏合宿で何度か30kmの距離走ができ、それが駅伝にしっかりつながったと思う」と言うように、大和自身、夏合宿の走り込みの大切さを実感しているが、故障が続いた今シーズンは仲間から出遅れての夏合宿となっている。
昨年までは箱根駅伝予選会(今年は10月15日)もあった。大和は過去2回とも出走し、1年生の時は10位(日本人6位)、2年生の時は13位(日本人5位)でともにチームトップの結果を出している。「個人的にはあそこでハーフを走ることは、ダメージにもつながるかもだけど、10km以上のレースを経験できるという意味で、箱根に向けてはいいんじゃないかなと思っていました」と大和は言う。だが故障明けの今シーズンは、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝と、段階を追って距離が伸びていく駅伝を経験できることをメリットと考え、焦ることなく少しずつ準備をしていくつもりだ。
駿恭“1年目に27分台”を
一方、駿恭は4月15日の学生個人選手権10000mで大学初戦を飾り、28分56秒95での8位だった。6月9日のU20日本選手権5000mでは14分05秒75で4位。7月には6日のホクレン深川大会5000mを経た上で13日のホクレン網走大会10000mで27分台を目指し、28分27秒06のセカンドベストだった。仙台育英高校(宮城)3年生だった昨年11月、28分11秒96と高校歴代3位の記録をマークしているだけに、“1年目に27分台”への思いは揺るがない。
駿恭は高校生だった時から中央大の夏合宿に参加しており、距離を踏む練習にも「しっかりできていると思います」と言い切る。8月には目標にしていた走行距離900kmをクリア。自信を深めて初の学生駅伝を迎えられそうだ。
この夏には仙台育英の後輩たちから勇気をもらった。夏合宿中だったこともあり、甲子園をテレビで見ることはできなかったが、特に決勝はリアルタイムで結果を追っていた。東北勢初となる甲子園優勝。「すごいなというのと、育英OBとしてそこに続きたいなという思いがあります」とはにかみながら明かした。
また吉居兄弟にとっては、仙台育英で指導を受けていた真名子圭監督が3月に大東文化大学の監督に就任したことも大きな出来事だった。大東文化大は6月19日にあった全日本大学駅伝関東地区選考会で5位になり、5大会ぶり43回目となる本戦出場をつかんでいる。大和は、「真名子さんが監督になってから大東はすごく勢いがあって結果を出していますし、自分たちも高校の時にいい指導を受けることができたと当時から感じていました。絶対に大東は強くなると思っているので、うれしいという気持ちと負けられないという気持ちがあります」と明かす。まずは全日本大学駅伝、恩師との勝負も楽しみの一つだ。
大和「区間賞をとるだけではなくて」、駿恭「箱根で1区を」
前述の通り、大和は昨シーズン、駅伝で1区を任されてきたが、今シーズンは故障明けということもあり、今はまだ状態を上げていくことだけを考えている。1区は自分の強みであるラストスパートを生かせることもあり、得意とする区間ではあるが、「ただ区間賞をとるだけではなくて、何かチームにプラスになる走りがしたい」と考えている。
全日本大学駅伝であれば、例えば自分が2区を走ることで3~6区にうまく流れをつなぎ、エース格の選手が距離の長い7区(17.6km)と8区(19.7km)を走りきるというプランも考えられる。また箱根駅伝でも同様に、再び1区を走って他の大学に警戒されるよりも、2区や3区を走って流れを作れたら、中央大は往路優勝も目指せる位置で勝負ができるかもしれない。チームには中野翔太(3年、世羅)や湯浅仁(3年、宮崎日大)、阿部陽樹(2年、西京)、そして駿恭など、駅伝シーズンを前にして調子を上げている選手が他にもいるからこそ、様々な可能性を大和自身も考えている。
一方、長い距離を得意とする駿恭は、出雲駅伝では3区(8.5km)や6区(10.2km)、全日本大学駅伝では7区や8区を思い描いているが、「メンバー的に自分じゃないかなとは思っています。これから力をつけていかないといけないというのはあるけど、適材適所もありますし」と言う。夏合宿を経て長い距離への抵抗こそないが、レースでの経験がまだない分、不安はある。その不安をぬぐい去った上で、初の箱根駅伝では大和が区間記録を持つ1区を狙う。
中央大は駅伝での目標とは別に、年間を通して「チーム全員で120回、自己ベストを出す」という目標を掲げている。トラックシーズンが終わった段階で自己ベストは60回ほど。大和は「これからまだまだレースはありますし、(120回は)狙える目標だと思っています」と言う。ただ1人のエースの力でなく、全員の力で突き進んでいるのが今の中央大だ。古豪復活を見せつけた昨シーズンを経て、中央大が9年ぶりとなる学生3大駅伝でどんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。