陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

中大が箱根6位で10年ぶりのシード権、藤原正和監督「こんなに楽しい駅伝は初めて」

中央大は皆、アンカーの井上主将を思って箱根路を駆け抜けた(撮影・藤井みさ)

第98回箱根駅伝

1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
中央大学
総合6位(往路6位、復路8位)

箱根駅伝で中央大学が総合6位に入り、10年ぶりにシード権を獲得した。「こんなに楽しい駅伝は初めてです」。藤原正和監督は学生たちの躍動、4年生が見せた意地を笑顔でたたえた。

目標は箱根駅伝総合5位 「速さ」を「強さ」に変えた中央大が自信を携えて臨む
中大が伊勢路で10大会ぶりシード権、藤原正和監督「ようやく1つ選手にいい思いを」

1月1日にアンカーを井上主将に決めた理由

中央大は今シーズン、2位で箱根駅伝予選会を突破し、その2週間後にあった9大会ぶりの全日本大学駅伝では、8位で10大会ぶりにシード権を獲得した。アンカーの手島駿副将(4年、國學院久我山)を学生たちは笑顔で迎え入れ、藤原監督も涙を目に浮かべながらともに喜びをかみしめた。勢いに乗ったチームは11月にあったMARCH対抗戦で多くの選手が10000mの自己ベストを更新。選手たちは自信を深め、箱根駅伝に向けて調整を進めた。

藤原監督は自信をもってチームエントリー入りした16人全員を箱根路に送り出せると感じ、特に復路の選手は最後まで悩んだ。前回大会で6区と7区でともに区間5位だった若林陽大(3年、倉敷)と中澤雄大(3年、学法石川)の起用はすでに決まっていた。2大会連続で6区を走っている若林はそのまま6区へ。中澤は箱根駅伝未経験者をカバーすることも考えて8区へ。

10区には候補選手が4人いたが、1月1日に刺激を入れた結果、学生駅伝未経験の井上大輝主将(4年、須磨学園)に決まった。藤原監督は「みんな状態も良かったし、誰を置いても間違いなくいけるなと思った」という中、最後に井上を選んだのは「このチームは大輝が作ったのだから」、そして「大輝のためにみんなが頑張れると感じたから」。レース前、藤原監督は「1人10秒稼いだら大輝が90秒楽になるから、1人10秒稼いでこい!」と言って選手たちを送り出した。

吉居の1区区間新に勇気づけられて

1区は全日本大学駅伝に続いて吉居大和(2年、仙台育英)に任された。藤原監督としては六郷橋(18km地点)から勝負に出るレースをイメージしていたが、覚悟を決めた吉居の目を見て、もっと早くから勝負をしようとしていると感じ取った。

実際、吉居は6kmすぎで飛び出し、独走態勢へ。これには藤原監督も驚いたが、最後まで崩れない走りを見て、夏から走り込んできた吉居が想像以上に力をつけていたことを実感。そのまま快走を続け、2007年に佐藤悠基(当時東海大2年)がマークした区間記録(1時間1分6秒)を26秒も更新する区間新記録を樹立。2位の駒澤大学に39秒差をつけて襷(たすき)を手島につないだ。

吉居(左)の走りが続く選手を勇気づけた(撮影・北川直樹)

各校のエースがそろう“花の2区”。藤原監督は手島に「1時間8分台でいいよ」と伝え、耐える走りを期待した。手島は駒澤大のエース田澤廉(3年、青森山田)が迫っていることを感じながらもペースを刻む。7.2km付近で田澤に一気に抜き去られ、首位を明け渡す。各校のエースを相手に苦しい走りとなったが、手島は気力で最後まで走りきり、11位で襷リレー。

3区の三浦拓朗(4年、西脇工業)はエース区間を走ってくれた手島への思いも胸に前を追い、7位と再びシード圏内へ。4区の中野翔太(2年、世羅)は追い上げてきた法政大学や創価大学、順天堂大学と競り合いながらレースを進め、最後は順天堂大に1秒差での8位ではあったが、区間5位の走りで流れを阿部陽樹(1年、西京)につなげた。

三浦(左)の追い上げる力が往路の躍進につながった(代表撮影)

阿部は夏合宿で行われた上りのタイムトライアルで結果を出し、5区候補に名乗りを上げた選手だった。ただ阿部自身はそこまで上りに自信があったわけではなく、「僕ですか?」という反応を示していたという。まずは平地で地力をつけることを意識して距離を踏み、昨年10月の箱根駅伝予選会では吉居に次ぐチーム2位の記録をマーク。その2週間後の全日本大学駅伝では2区区間12位と苦しんだが、各校のエースとの差を理解したことで、箱根駅伝に向けてより気持ちを入れることができたという。

阿部は目の前に順天堂大が見える中で走り出し、序盤は差をつけられる展開となったが、積極的な走りで徐々に差を詰めていく。大平台(7km地点)で順天堂大と創価大学を抜いて6位に浮上。11km過ぎには東京国際大学も抜き去り、5位につけた。しかし14km手前で追い上げてきた順天堂大につかまり、最後は6位でゴール。

ルーキーの阿部(中央)が8位から6位に順位を上げて往路を終えた(撮影・佐伯航平)

ハイペースで入った分、後半の上りに苦しめられたが、1時間11分58秒での区間6位に「最終的には目標タイム・順位通りの走りはできた」と阿部。ただ同じ1年生の吉田響(東海大、東海大静岡翔洋)が区間2位、若林宏樹(青山学院大、洛南)が区間3位と上位にいたことに悔しさをにじませた。

8区で3位に浮上

6区は3大会連続となる若林。続く後輩のためにもグングン加速し、國學院大學を抜いて5位に順位を上げ、居田優太(2年、草津東)に襷をつないだ。しかし居田は16km過ぎに足が痙攣(けいれん)し始め、藤原監督も「無理をするな」と声をかけた。最後は7位で8区の中澤に襷リレーをつないだ。

中澤は「9、10区を楽にさせるのが自分の仕事」だと捉え、遊行寺坂(15.6km地点)で前の走者に追いついて引き離すようなレースプランを考えていた。そのイメージ通り、遊行寺坂の前で帝京大を追い抜き、東京国際大と創価大と併走。苦しそうな顔をしているのを確認し、中澤は一気に2校を抜き去る。最後は2位争いをしていた駒澤大も抜いて3位に浮上。9区の湯浅仁(2年、宮崎日大)も中澤と同じく区間3位と好走し、4位の駒澤大に38秒差をつけて順位をキープした。

中澤(左)は7位から3位に順位を上げ、湯浅の背中を押した(撮影・松永早弥香)

藤原監督はシード権獲得(10位以内)を目指し、アンカーの井上には守る走りを期待していた。17.0kmあたりで駒澤大の青柿響(2年、聖望学園)が追い上げ、井上の前に出る。すると井上は意地を見せ、青柿を抜き返す。「そこはまだ頑張るところではない。無理しないでくれ」というのが藤原監督の本音だった。しかし今シーズン、中央大は攻める走りをして結果を出してきたチームであり、そのチームを主将としてまとめてきたのが井上だ。どのような結果になったとしても井上を信じると藤原監督は心に決めた。

青柿が再び前に出ると井上は次第に後退。ラスト3kmでペースが落ち、東洋大学と東京国際大に抜かされながらも持てる力を全て出し切る。苦しさにときおり顔をゆがめながら、井上は6位でフィニッシュ。ゴールで待ち構えていた仲間に倒れ込みながら、笑顔で最初で最後の箱根路を終えた。

「10年我慢すればいいことがある」

藤原監督はレース後、「涙よりホッとしました。これで(4年生を)いい形で送り出せる」と笑顔を見せた。「いや~本当によくやりました! 手島は汚れ仕事と言ってもいいのかな、一番きついところで耐えてくれて、拓朗がしっかりジャンプアップしてくれました。大輝は何も言うことがない。意地を見せてくれました。我々スタッフも表彰台という意識がなかったのに、あの意地を見せてくれましたから。100%ほめてやってください」

特に井上が駒澤大相手に見せた意地は、これからのチームにつながると藤原監督も確信している。「年間を通して表彰台とか優勝という思いではなくシード権を狙ってきたので、欲をもててなかったのは事実。上のチームは優勝を争ってきたチームなので、優勝の意識をもってやっていかなければいけない」と藤原監督は言い、ワクワクする気持ちで学生3大駅伝全てに挑める来シーズンを見据えている。

井上(中央)は最後まで攻める走りを貫いた(撮影・藤井みさ)

藤原監督自身、初めてマラソンを走ってから2時間10分切りを達成するのに10年かかったことも踏まえ、「10年我慢すればいいことがある」と話す。全日本大学駅伝でも箱根駅伝でも、10年ぶりにシード権を獲得した。「これまで頑張りの裏付けがある中だと思っているので、これからの10年が楽しみですし、そうなるようにしなければいけない。これから常勝チームになれるよう、明日からいいスタートを切りたいです」

箱根駅伝で14回と最多優勝回数を誇る名門・中央大学。10年ぶりの喜びをかみしめながら、「常勝チーム」へと新たな一歩を踏み出した。

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