目標は箱根駅伝総合5位 「速さ」を「強さ」に変えた中央大が自信を携えて臨む
5年連続95回目の箱根駅伝に挑む中央大学は、近年にないほどの確かな自信を胸に、決戦の日を迎えようとしている。自信の拠りどころとなっているのは、11月の全日本大学駅伝でシード権を獲得した成功体験だ。12月15日に東京・八王子市の多摩キャンパスで行われた公式会見で、藤原正和駅伝監督は「選手たちの目標は総合5位。上位校は力のある大学が多いので、最低限、シード権の確保を目指し、力を発揮して流れに乗れば5位は十分に可能」と語り、エントリーされた16人の選手もそれぞれが箱根に懸ける思いを力強く表明した。
「速さ」を「強さ」に変えるために
昨年度は、箱根駅伝エントリー選手上位10人の10000mの平均タイムは28分38秒64で、全出場チーム中、4番手だった。コロナ禍で前半シーズンは実戦の場がほとんどなかったため、9月以降に記録会に積極的にエントリーした結果が各選手のタイム向上につながったわけだ。しかし、総合3位という目標を掲げて臨んだ箱根本番では、往路で19位と大きく出遅れ、総合12位とシード権を手にすることもできなかった。藤原監督は「速さはありましたが、強さを醸成できなかった」と感じ、その反省から今年度は今まで以上に強さを意識して試合に臨むようにしてきたと話す。
「記録会に出る際も記録を狙うというよりは、しっかりと重さをつけた中で走らせました。どうしても今は時代的に厚底シューズなどの影響もあって、記録が出やすい状況下ではあります。でも、その前の段階でハーフマラソンの後半の状態を再現すると言いますか、10km以降の体の重さを作っておく。本人たちは記録が出ないもどかしさもあったと思いますが、試合の意図を明確にして、いわゆる冠大会、今年は関東インカレ、全日本の予選会、箱根の予選会、全日本の本戦といった主要大会に重きを置いて、1年間やってきました。そこである程度の結果が出てきたところでは、昨年培った速さを少しずつ強さに変えられていると思っています」
とりわけ9年ぶりに出場を果たした本戦で8位に食い込み、10年ぶりにシード権を獲得した全日本での力走が光る。その2週間前には箱根予選会があったが、「コンディショニングを重要視し、夏の強化期間を少し長めに取って、できるだけ全日本の本戦に合うように、予選会は全体的に体が少し重いような状態で迎える形になった」(藤原監督)にもかかわらず、危なげなく2位通過。「ハーフを走った体で2週間後に10km前後の駅伝を戦うのは対応が難しいところもあり、スピード練習を多めに入れた」という調整法の微調整も功を奏し、全日本当日は出走以外のメンバーも含め、「全員の体調が良かった」という。
迎えた本番では、1区・吉居大和(2年、仙台育英)の2位発進後、2~4区までで11位に順位を落としたものの、5区の三浦拓朗(4年、西脇工)がシード圏内の8位に押し上げ、藤原監督が「一番早く区間配置を決めた2人が良い形でゴールまで襷を運んでくれた」と話すように、7区の中澤雄大(3年、学法石川)とアンカーの手島駿(4年、國學院久我山)の粘り強い走りが歓喜のフィニッシュをもたらした。
ちなみに、昨年度までの10シーズンをひも解くと、全日本でシード権を獲った延べ66校中、2カ月後の箱根でもシード校になったチームが57校ある。シード獲得率86%という値からも全日本と箱根の高い相関関係が見て取れる。
チームのレベルを引き上げた最上級生
チームの絶対的エースは、5000m13分25秒87、10000m28分08秒61、ハーフマラソン1時間1分47秒と、3種目でチームトップの記録を持つ吉居である。今年度は5000mで東京オリンピック出場という目標こそ叶(かな)わなかったが、夏以降の取り組みに確かな手応えを感じている。
「(駅伝シーズンに向けて)昨年は一番長くて25kmで、16kmのペース走が多かったですが、今回はしっかり30km走も増やしたので、月間走行距離も100~150km変わって、夏にしっかり走り込めたという自信があります」
ただ、言うまでもなく駅伝はチーム戦だ。エース1人の力だけでは戦えない。その意味で中大は、脇を固める上級生が充実しており、藤原監督も「学年もバランス良く、上級生を中心に組むことができました。その分、1年生のエントリーは2人ですが、逆ピラミッド型になって、やっと強いチームらしい学年の構成になってきました」と話す。なかでも5人がエントリーされた4年生の存在が際立つ。全日本のゴール直後、藤原監督が目に涙を浮かべたのは、最上級生のここまでの頑張りに思わずこみ上げるものがあったからだったと明かした。
「今の4年生は私の監督初年度、中大が箱根駅伝を走れないことを知って入学してきた世代で、入ってきた時は、『この代、どうなるかな』と心配していた学年でした。当時は10000mで30分を切ればレギュラークラスというか、駅伝を走れるレベルでしたが、今はもう29分を切らないと駅伝を走れるかどうかわからない。そういうレベルに上げてくれたのは、彼らの努力があったからこそですし、4年間でしっかりと力をつけてくれて、今回も5人がエントリーに入ってきてくれました。頼もしいチームになったと感じています」
当の4年生も自分たちの成長を実感し、とくに全日本の結果は箱根に向けて大きな弾みになったようだ。手島が「初めてチーム目標を達成でき、シード権を獲得した後の良い雰囲気なども経験できて、チームで結果を出すことの楽しさを知れました」と話せば、三浦も「全日本でシード権を獲った時、今までの先輩方からたくさんのメッセージをいただいた。先輩方の取り組みが今の自分たちの結果につながっていると感じています」と、これまで苦労を共にしてきた先輩たちに感謝する。森凪也(4年、福岡大大濠)は「全日本でシードを獲ったことによって、チーム全体が自分たちはやれる、強いんだと自信が出てきました」と胸を張った。
その後の練習でも、藤原監督は4年生について、「『自分が走るんだ』と、ずっと先頭で気迫を見せて走ってくれました。改めて学生スポーツは4年生なんだと思わされるような勢いを作ってくれています」と語り、最上級生への賛辞を惜しまない。
10年ぶりのシード権獲得、そして総合5位へ
充実の戦力、そして、近年にはなかった自信を携えて総合5位を目指す中大。箱根本戦では、具体的にどんなレースプランを描いているのか。前々回16位、前回17位と1区で出遅れた反省から、藤原監督は「しっかりスタートさせたい」とエース・吉居の1区起用を明言。吉居本人も「昨年以上に練習もできているので、自信を持ってスタートラインに立って、区間賞を目指して頑張ります」と意気込んでいる。
「2区は、他大学では留学生や駒澤大学の田澤廉選手(3年、青森山田)など非常に力のある選手がいますので、そういった中でどれだけしのげるか。その分、本学にとっては3、4、5、6区の4区間でどれだけジャンプアップできるかが試金石になると思います。そこで力のある選手を使い、できれば往路は6位から8位あたりで終えたい。復路はそこからさらに上げていきたいと考えています」(藤原監督)
6区で区間5位タイだった若林陽大(3年、倉敷)をはじめ、中澤、三浦、手島と、前回6~9区を担い、中大にとっては2006年往路3位以来の「トップスリー」となった復路3位メンバーが準備万端なのは心強い。全日本でもシード獲得の原動力になった中澤、三浦、手島の3人は往路に回る可能性もあるが、藤原監督は「全選手がコンディション良くやってくれているので、復路に関してはまだ決め切れていません。今後も区間の入れ替えや配置の変更などは十分にあると思っていますので、これからの選手のコンディショニングや競り合いに期待しています」と、良い意味で選手選考に頭を悩ませている。
そうした中、これまで3大駅伝の出場がない駅伝主将の井上大輝(4年、須磨学園)と倉田健太(4年、三条)は、今大会に懸ける思いがチームの誰よりも強いかもしれない。
「出走になれば、最初で最後の箱根駅伝になるので、何としても出走し、チームに貢献する走りをしたいです」(井上)、「4年間、ここまでしっかりやってきたを本戦で発揮することが第一。悔いのない箱根駅伝にしたいと思っています」(倉田)
強豪チームにおいては、激しいチーム内競争が欠かせない。4年生を中心にそれが激化しつつある中大は、8位だった2012年大会以来、10年ぶりのシード権獲得がいよいよというところまで迫ってきた。