中央大・藤原正和監督「古豪復活へのスタート元年」、9大会ぶりの全日本で台風の目に
中央大学は今年、9大会ぶりに全日本大学駅伝への出場権をつかんだ。過去を振り返っても最高は2位。藤原正和監督は中央大の学生時代に4年連続で伊勢路を走っているが、当時は4位が最高だった。「中大としては苦戦している大会。今はもう、区間距離も変わっていますし、僕たちが持っていたような印象は捨て、『新しい中大が来たな』と思っていただけるような走りを見せられたらと思っています」。藤原監督は新たな挑戦を学生たちと楽しむ気持ちを持ちながら、「台風の目」となる躍動を目指す。
悪い流れを変えるため、照準を選考会に絞る
2年前の全日本大学駅伝関東地区選考会は総合5位までが本戦出場となる中、中央大は5位の中央学院大学と約17秒差での6位だった。昨年は新型コロナウイルス感染症拡大を受けて選考会が中止となり、2019年の持ち記録に基づいて7校が選出された。中央大は7位だった城西大学と7秒差での8位。あと一歩で本戦を逃すという状況が続き、学生たちの中には「呪われているんじゃないか……」という気持ちまであったという。
流れを変えるため、藤原監督は学生一人ひとりと面談をした上で、前半シーズンは6月19日の選考会に照準を定め、5月20~23日の関東インカレにはレース経験が浅い下級生を中心に選手を送り出した。
「例年であれば関東インカレも選考会も、という考え方でしたが、照準を絞ったことで選手たちも戦い方が明確になったと思います。4年生には思うところもあったかもしれませんが、うちは少数精鋭のチームであり、一人ひとりの負担を考えないといけません。東京国際大学と國學院大學は頭一つ抜けているでしょうから、3位以内での本戦突破を最大目標に据えました」
6月1~9日に選考会を走るメンバーだけで菅平合宿を実施。大学の授業があるため、例年であればこの時期に合宿を張ることはできないが、今年はコロナ対策で授業がオンラインとなったことで実現できた。最後の追い込みとして、クロスカントリーを使った走り込みや高負荷のインターバルを取り入れ、選手たちは自信を深めて選考会に臨んだ。
9大会ぶりの突破に安堵と危機意識
本来であれば、5000mのU20日本記録保持者(13分25秒87)である吉居大和(2年、仙台育英)や主力の森凪也(4年、福大大濠)もこのメンバーに加えたかった。しかし吉居は東京オリンピックをかけた日本選手権5000mが6月24日にあったため、2月にはアメリカのプロクラブの練習に参加するなど、チームとは別行動をとっていた。「吉居が東京オリンピックを目指してやってきた姿を皆が見ていたので、『(選考会は)俺たちがやってやるんだ』という気持ちでいたと思います」と藤原監督。森は調子が上がっておらず、その森の分もエースとして戦ってほしいという思いを込め、三浦拓朗(4年、西脇工)に「飛車角ではなく、お前が王将のつもりで走れ」と発破をかけた。
全4組各校2人が10000mを走る選考会で、1組目に助川拓海(3年、水城)が6着、副将の手島駿(4年、國學院久我山)が7着に入り、中央大は暫定3位につけた。2組目を任されたルーキーの阿部陽樹(西京)が2着で力を示し、若林陽大(3年、倉敷)も4着で暫定1位に浮上。しかし3組目でルーキーの東海林宏一(山形南)が35着と想定よりも遅れ、もう1人の中野翔太(2年、世羅)は11着で暫定3位に。最終組には各校のエースがそろう中、三浦はチーム内トップの28分58秒51で13着、園木大斗(2年、開新)は17着と粘り、総合5位をつかんだ。
9大会ぶり28回目の本戦出場に学生たちも藤原監督も胸をなで下ろしたが、3位以内を狙った上での5位に課題も感じた。「1人でも欠けると後手後手になってしまうのがこの選考会。3組目が苦しんだのは私のマネジメントミスです。そんな中、1年生もよくやってくれました」と藤原監督は選手たちをたたえ、改めて隙のないチームを作るという意識を強くした。
吉居「今できることをやり切る」
全日本大学駅伝の対策は、その2週間前にある箱根駅伝予選会の対策と同軸で考えなければならない。特に7区は17.6km、8区は19.7kmと距離が長いため、箱根駅伝予選会を回避した選手を置くのも戦略のひとつだろう。「まずは箱根予選会をしっかり通って、そこから2週間でどう挑むか。昨年、順天堂大学が予選会トップ通過をした上で全日本では8位に入られているので、そこをしっかり勉強しなければいけないなと思っています」と藤原監督は言う。
例年よりも早い7月中旬から走り込みを始め、規制はあるものの、今年は昨年できなかった夏合宿ができている。「スタミナだけでなくスピードもつけないと駅伝では勝てないですから、この夏は全ての要素をまんべんなくパワーアップしていこうと考えています」。高いレベルで走れる選手を1人でも多く育成することを課題としながら、藤原監督は「大学生ですから、4年間の中で段階を踏んでレベルアップしていかないといけない」と考え、学生自身がその意識をもって変化していくことを期待している。
東京オリンピックを目指していた吉居は、日本選手権5000mで13分53秒31での16位となり、夢の舞台への挑戦を終えた。レース後、藤原監督は吉居と時間をかけて話し合い、「今の自分にはまだ、日の丸を背負うだけの力がなかった」と吉居は悔しさを込めた。目指すは3年後のパリオリンピック。駅伝も含めて「今できることをやり切る」と覚悟を決め、昨年から引き続き実業団の練習にも参加している。藤原監督も「もうこれ以上はない」と思うほどの走り込みができており、万全の状態で駅伝シーズンを迎えられそうだ。
勢いのある下級生を井上主将ら4年生が支える
1年目はけがに苦しんだ中野翔太(2年、世羅)も、ブレイクの予兆を感じさせる走りを見せており、「吉居と2枚看板になり得る力をつけている」と藤原監督は言う。また全日本大学駅伝関東地区選考会で好走したルーキーの阿部も、日々の練習で先輩たちに食らいつき、頭一つ抜けた存在になっているという。
今年のチームに対し、藤原監督は「主将の井上(大輝、4年、須磨学園)を中心に、コミュニケーションがすごくとれている」と話す。井上は昨年12月に10000mで28分47秒62の自己ベストをマーク。今年の箱根駅伝では当日変更でメンバーから外れ、まだ学生3大駅伝を走れていないが、ラストイヤーにかける思いは誰よりも強い。「井上自身が苦労してきたからこそ、同じような課題を感じている選手の気持ちが分かるだろうし、アドバイスもできる。上からではなく一緒に前に進もうという気持ちが伝わる選手です」と藤原監督は言う。
チームは今シーズンを迎えるにあたり、「箱根駅伝5位」を目標に掲げた。箱根駅伝では14回と最多優勝記録を持つ中央大だが、1996年の72回大会を最後に優勝から遠ざかっている。9大会ぶりに全日本大学駅伝に挑む今シーズンを、藤原監督は「古豪復活へのスタート元年」と位置づけている。学生たちもその思いは同じだ。