陸上・駅伝

中央大では指導者と選手 東京国際大・大志田秀次監督×創価大・榎木和貴監督対談1

創価大学の榎木監督(左)と東京国際大学の大志田監督(右)。選手と指導者から同じ立場となった2人にさまざまに語り合ってもらった(撮影・藤井みさ)

箱根駅伝2位の創価大学・榎木和貴監督と10位の東京国際大学・大志田秀次監督は、1996年に中央大学が総合優勝したときの選手と指導者(肩書きはコーチ)という関係だった。 2校は近年の成績に共通点が多い。

初出場は創価大が2015年で、東京国際大が16年。前回は東京国際大5位、創価大9位と両校とも初めてシード権を得ると、今年は前述のように創価大2位、東京国際大10位と連続でシード入り。区間賞も前回1区で米満怜(創価大4年、現コニカミノルタ)、3区でイエゴン・ヴィンセント(東京国際大1年、現2年)、10区で嶋津雄大(創価大2年、現3年)が初めて獲得。今年は2区でヴィンセント、7区で佐伯涼(東京国際大4年)、9区で石津佳晃(創価大4年)が区間賞を取っている。 新興大学として定着した両校監督の指導や考え方に、当時の優勝経験がどう生かされていたのだろうか。

ヴィンセントに食い下がったムルワ

往路では2度、両チームが並ぶシーンがあった。最初は2区。トップと45秒差の14位で襷(たすき)を受けた東京国際大のヴィンセントが、6.8km付近で2位集団の7校を抜き去ったが、創価大のフィリップ・ムルワ(2年)だけがヴィンセントに食い下がった。2人は9.2km付近で東海大・名取燎太(4年)を抜いてトップに上がった。ムルワはいったん離された後に一度は追いついたが、14km付近で引き離された。ヴィンセントは1時間05分49秒と、前回、相澤晃(東洋大4年、現旭化成)が出した区間記録を8秒更新した。

ヴィンセント(右)は無類の強さを見せ、13人抜きで区間新記録を樹立(撮影・北川直樹)

大志田秀次監督(以下、大志田): 実は2区の途中でLINEが榎木から……榎木監督から来たんだよね。

榎木和貴監督(以下、榎木): いつもと同じ「榎木」でお願いします(笑)。

大志田: 2区に入ってしばらくして、「一緒に行きましょう」と。そのLINEには気づかなかったけど、僕も前の方がどうなっているのか聞きたかった。 

榎木: ヴィンセント選手に追いつかれるのがわかったので、ムルワを連れて行ってほしかったんです。2区では絶対に東京国際大が上位候補の大学をリードする。そこにどうやって便乗できるかを考えていました。

大志田: 便乗?

榎木: 連れて行ってください(笑)と。ムルワは7人の集団の、後ろの方で走っていて、5km通過も遅かったんです。車が横を走るときがあったので、前に出るように手で合図をして。ムルワが集団の先頭に出て500mくらいしたらヴィンセント選手が来たので、つかせてもらいました。ちょうど良いタイミングでしたね。

大志田: 一緒に行けばペースも落ちないから、ウチとしてもよかった。去年は相澤君と達彦(伊藤達彦・東京国際大4年、現Honda)が一緒に行って2人とも良い記録を出すことができた。1区でウチが13秒先着したんだけど、その微妙な差がよかった。相澤君に抜かれてから、また抜き返して、あの競り合いができた。1区の順位が違ったら、あの展開にはならなかったと思う。ヴィンセントは去年の相澤君の記録(5km14分11秒、10km28分22秒)を参考にさせてもらって、5km通過が13分58秒。10km通過が27分48秒なので13分50秒に上げられた。

ムルワ(中央)はヴィンセントに最後は振り切られたが、2位で襷リレー(撮影・藤井みさ)

榎木: ムルワは5kmから10kmが13分58秒でした。15kmまでは予定通りの走りをしてくれましたね。給水を担当したのは5000mが14分20秒の学生ですが、ヴィンセント選手とムルワに並走して、衝撃を感じたと言っていました。しかし20kmまでの5km、最後の3kmとペースが落ちたんです。上りが得意な選手なのに、権太坂と最後の戸塚の壁で逆に離されてしまいました。もっと粘れるんじゃないかと思っていましたが、完全に力負けです。

大志田: ヴィンセントも1時間05分15~30秒の設定だったので、最後が少し課題が残ったかな。本人は来年4区を走りたいと言っているようだけど。僕は、エースの顔を変えないのが駅伝だと思っている。昨年は達彦がずっとウチで頑張ってきたエースだったので、当初から2区で行くつもりだった。

3区・葛西は自身の判断で2位に進出

創価大と東京国際大の2度目の並走は、ごく短い時間だったが3区で見られた。石原翔太郎(東海大1年)が区間賞の走りでトップに立ち、創価大の葛西潤(2年)が区間3位の走りを見せた区間だ。石原が前半から飛ばして11.5km付近でトップを走る東京国際大・内田光(4年)を抜き去ったが、葛西も16km過ぎに東京国際大を抜き、中継時と同じ2位で4区の嶋津雄大(創価大3年)に襷を渡した。葛西が創価大の、4区でのトップ進出につながる走りをした。

大志田: うちは2区でトップに立つのは想定通りで、そこで1分リードできるのか、30秒になるかはわからなかったけど、3区では強豪チームが来るだろうな、と思っていた。そうしたら東海大のあと、16km過ぎに来たのは創価大の葛西君だった。正直、まさかと思った。

榎木: 皆さん、3区が意外だったという感覚を持たれているようです。

葛西(右)は区間3位の好走で、往路優勝を引き寄せた(代表撮影)

大志田: 一気に行かれてしまって、付くことすらできなかった。

榎木: 3区で4~5番に落ちるかな、と思っていました。(3区は実力者がたくさんエントリーされていたので)4区の嶋津が3番くらいにもどして5区につなぐイメージでしたね。それが2位で、葛西が持ってきてくれました。うれしい誤算でした。

大志田: 今の箱根駅伝は監察車が付くけど、選手には長距離ランナーとして、自分で判断できないといけないよ、と話している。葛西君は自分の判断であの走りができたの?

榎木: 選手に任せることが多いですね。最初、石原君がガンと来て3kmまで付いて行きました。声かけができる3kmで「石原君に合わせられるなら合わせよう」と言ったのですが、葛西が自分で「このペースで行ったら潰れる」と判断して、一度下がって自分のペースでリズムを作り直しました。東洋大に追いつかれたときには、東洋大に合わせようとしましたが、思ったより東洋大の選手が停滞する感じだったので、自分のペースで前に行きました。そういう状況判断を各選手がしてくれましたね。東京国際大の内田君が見えたときも、指示は出さず、そのままの勢いで走らせました。

4区の嶋津が攻めの走りでトップに

創価大がトップに立ったのは4区の5.6km付近。前回10区区間賞でシード権獲得に貢献した嶋津が、今年は4区で区間2位(日本選手1位)の快走を見せ、東海大を抜き去った。残り3kmは脚が痙攣(けいれん)したが最後まで走り切り、2位の駒大に1分42秒差をつけて5区の三上雄太(3年)に襷を渡した。

大志田: 4区は榎木が学生時代に2回走った区間。1、2年時は8区、3、4年時は4区で4年連続区間賞だったけど、3年以降は4区しか考えていなかった。

榎木: 4年生のときは出られるかどうか、ぎりぎりでしたけどね。座骨の痛みと貧血で。

大志田: チームとしてもきつかった。榎木が3年のときに優勝して、連覇しないといけないプレッシャーもあった。選手はいたんだけど、2連覇というところに追いついていなかったというか、勢いに欠けていた。でも3年までの榎木は完璧だった。2区の松田(榎木監督と同学年の松田和宏、現学法石川高監督)は闘争心を前面に出すタイプで、速いペースで入る。後半に苦しくなっても燃えてくる選手だった。榎木は前半を冷静に入って、後半で力を発揮するタイプ。4区の嶋津君にはどんなアドバイスをしたの?

榎木: 小田原の街を過ぎた残り3kmがだらだら上るコースで、徐々にキツくなります。風が吹くと向かい風も受けることになる。前回の福田(悠一・3年、現4年)にも今回の嶋津にも、残り3kmの粘り次第でタイムも稼げるし区間順位も違ってくる、と話しました。私が3年生のときの通過タイムを福田に渡して、10kmまではそれと同じタイムで走り、後半で私のタイムを20秒上回ってくれました。私も残り3kmでペースが落ちたので、福田がそれをクリアしてくれたのはうれしかったです。嶋津には昨年の福田のペースを目標に走ろうと試合前のミーティングでは話しをしていました。(向かい風の条件は考慮せずに)今年の嶋津は15kmくらいまで、区間賞のポール・オニエゴ(山梨学院大3年)選手と同じくらいの通過タイムでした。最後の3kmで急激にペースダウンしましたが、それがなければ区間賞も狙えました。

嶋津はラスト3km、足がつりながらも区間2位の激走を見せた(代表撮影)

大志田: 創価大の選手を見ていて感じたのは、最初の5kmを速く入れること。ウチは最初の5kmで30秒くらい平気で詰められてしまう。ウチは15分00秒~14分50秒くらいでしか入れないのに、14分40秒の設定にしているチームも多かった。1~2kmで差を詰められて、すぐに追いつかれたり前に行かれたり。創価大もそのくらいの設定だったのでは?

榎木: 往路の5選手に関しては、大志田さんの言われた攻めの走りができる選手たちです。14分30秒を切るペースで入っても対応できる練習をしてきました。実際にみんな、それなりに突っ込んでいましたね。4区の嶋津も中継時にはトップの東海大と34秒差があったので、相手の力が読めなかったこともあり、「じっくり行ってもいいぞ」と伝えたんです。しかし嶋津は「そのタイム差なら攻めていきます」と言って、5km過ぎに東海大をつかまえてくれました。その後も本人のペースで行かせましたが、今年は風が強かったことが前回との違いです。

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箱根駅伝復路について、チームにとっての4年生の存在について語った2回目は明日公開です!

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