箱根駅伝5位の東海大・両角速監督「ゼロから作り直す」 粘り強く勝ちきれるチームへ
第97回箱根駅伝
1月2~3日@大手町~箱根の10区間217.1km
東海大学
総合5位 11時間2分44秒
往路5位 5時間31分35秒
復路10位 5時間31分09秒
前回の箱根駅伝で総合2位だった東海大学は、今大会で総合優勝を目指していたが、総合5位でレースを終えた。「この1~2年はスター選手が多かったので、本来なら地道にやらないといけない選手が影響され、私も浮ついた感じがあったのかもしれない」と両角速監督。昨シーズンの“黄金世代”に続いて今シーズンの“3本柱”が卒業していく今こそ、「ゼロから作り直すチーム」と位置づけて再起を誓う。
主将と副将の走りで流れをつくる
往路から主導権を握りたいと考えていた両角監督は、3本柱としてチームを支えてきた4年生で主将の塩澤稀夕(伊賀白鳳)、副将の名取燎太(佐久長聖)、西田壮志(九州学院)を往路に配置することを明言していた。競い合いながら力をつけてきた3人は同じチームで襷をつなぐ最後のレースを前にして、「悔いのないようにいい走りをして終わろう」と誓い合った。
当初の予定では市村朋樹(3年、埼玉栄)を1区にして流れをつくり、攻略が難しい4区に塩澤を起用する予定だった。しかし市村は故障でトレーニングができず、1区は塩澤に決まった。塩澤は「優勝を目指すチームの主将として、区間賞をとるのが最低限の役割」と考え、レースに臨んだ。
スピードレースになると塩澤も予想していた中、1区の最初の1kmは3分30秒程度と超スローペースだった。ストレスをためて走るより、自分のペースでもっていった方が思い切って走れると踏み、塩澤が前に出て集団を引っ張る。ペースの上げ下げが続いた中盤には集団の中ほどに位置をとり、ラスト3km、六郷橋の下りで法政大学の鎌田航生(3年、法政二)がスパートをかけると塩澤も反応。鎌田に続く区間2位の結果に「最後の苦しい場面でもうひとがんばりできなかったのは自分の弱さ」と悔しさをのぞかせた。
塩澤から襷を託された名取は積極的な走りですぐに法政大を抜き去り、自分のペースを刻む。9km過ぎに東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント(2年、チェビルべレク)と創価大学のフィリップ・ムルワ(2年、キテタボーイズ)に抜かされて首位を明け渡す。後続集団から抜け出してきた日本体育大学の池田耀平(4年、島田)が追い上げてくると、うまく流れを借りてペースをつくった。続く選手のためにも前との差を詰めたい。その思いで池田と併走しながら2位のムルワに迫り、最後は池田を振り切って襷をつないだ。
3区で首位に立つも、4区でブレーキ
3区を任されたのはルーキーの石原翔太郎(倉敷)。今シーズンは様々は大会が中止となり、一度もハーフマラソンを走ることなく、箱根駅伝に臨むことになった。事前取材でも「距離の不安はすごくある」と口にしていたが、得意の下りで攻め、粘り強い走りをイメージしてスタートに立った。何より、日々の練習からチームを支えてきてくれた2人の4年生が、先行走者と2秒差での3位という好位置で襷をつないでくれたことで心の余裕がもてた。
トップの東京国際大とは1分1秒差。険しい表情を浮かべながらも上半身を使った独特なフォームで快走を続け、11km過ぎに東京国際大の内田光(4年、佐久長聖)に追いつくと一気に前へ。後続走者を引き離し、首位で襷リレー。全日本大学駅伝に続き、初の箱根駅伝でも区間賞を獲得した。
しかし4区の佐伯陽生(1年、伊賀白鳳)は区間19位と苦しみ、順位は6位に転落。佐伯から襷を託された西田は自身3度目となる山登りに挑んだ。西田は前回大会、故障と体調不良で調整が間に合わないままレースに臨み、2連覇を逃しての総合2位に人目もはばからず涙を流した。優勝の喜びも、勝ちきれなかった悔しさも味わった。「4年間、箱根の山だけを考えてきて、箱根の山に強くしてもらったので、感謝の気持ちを込めて挑みたいです」。その思いを胸に、最後の箱根の山を駆け上った。
西田は東京国際大と早稲田大学を抜いて4位に浮上し、11.7km地点の小涌園前を8位から追い上げてきた帝京大学の細谷翔馬(3年、東北)と併走しながら通過。最後は細谷に差を広げられる展開となり、区間7位での往路5位でゴールした。首位の創価大とは3分27秒差。両角監督には、往路に選手をそろえた布陣も鑑み、総合優勝は厳しいのかもしれないという思いがあったという。しかし往路レース後のミーティングで塩澤から「まだ優勝の望みはある」という言葉を聞き、選手たちの思いの強さを感じとった。
後半の粘りに課題
復路を任された5人は全員が初めての箱根路だった。「楽しんでこい」と両角監督に送り出された6区の川上勇士(2年、市船橋)は58分30秒を目標に掲げ前を追った。17km地点の函嶺洞門の前で東洋大学を抜き去り、3位に浮上。ラスト3kmでペースを落としてしまい、58分45秒で目標には届かなかったが、「大舞台でも飄々(ひょうひょう)として過度な緊張はなく、自分の力を出せるタイプ」と両角監督は評価している。
7区の本間敬大(3年、佐久長聖)は3位を守り、8区の濱地進之介(2年、大牟田)に襷をつなぐ。しかし濱地は区間15位に沈み、東洋大に抜かされて4位に。9区の長田駿佑(3年、東海大札幌)は7km手前で青山学院大学の飯田貴之(3年、八千代松陰)に追い抜かれた後も12kmほど併走を続けたが、最後は引き離された。
アンカーの竹村拓真(2年、秋田工)は終始単独走となり、そのまま5位でフィニッシュ。両角監督は「どこの大学も後半になると粘り合い、しのぎ合いになってくると思うので、特に青山さんに抜かれ、東洋さんに粘られ、歯が立たなかったのは悔しい」と無念さをにじませた。
「苦しいことが楽しいと思えるようなチームを」
復路の選手も最後まで諦めない走りを見せてくれたが、「いい入りはしていたけど、後半15km以上がもたなかった。これはトレーニング的な問題が背景にあるのかなと思っている」と両角監督は課題を指摘した。今シーズンを振り返ると新型コロナウイルスの影響で練習ができなくなり、夏合宿には全員で臨むことができなかった。例年と異なる環境下で苦しんだところはあったが、両角監督が危機感を抱いたのは練習内容よりも、競技に臨む選手たちの意識だった。
「持って生まれたものは非常に重要なんですけど、そういうもので勝負できる者と、努力しないと勝負できない者もいる。努力型の選手を自分も見失っていたかなという気がします。スピード化していることに対して焦りを感じている部員もいますけど、実際はそうではないと思っています。自分の持ち味で勝負できるようなトレーニングをしていかないといけない」
1本のレースでタイムを狙うのではなく、セカンド記録やサード記録にも目を向ける。苦しいトレーニングを手を抜くことなく継続する。泥臭くも着実に積み重ねていくことが、箱根駅伝で優勝を狙うチームには欠かせないことだと両角監督は考え、「明るさを失わずに、苦しいことが楽しいと思えるようなチームをつくっていかないといけない」と口にした。
来シーズンを迎えるにあたり、新チームの核となる選手をたずねられ、「走りからすれば石原がそういう期待を背負うことになると思うんですけど、でも学生スポーツは4年生かなと思うので」と両角監督は言い切る。この悔しさから東海大は新たな一歩を踏み出す。