創価大学は箱根駅伝総合3位を目指す 榎木和貴監督と選手の信頼関係でチームが成長
創価大学が箱根駅伝に初出場したのは2015年の第91回大会。その後2017年(第93回)を経て3年ぶり3回目に出場した前回大会で総合9位となり、初のシード権を獲得した。今回の目標はさらに高く、総合3位。榎木和貴監督と鈴木渓太主将(4年、東海大山形)に今シーズンの取り組みと本戦への意気込みについて聞いた。
新チーム始動時点で「総合3位」を掲げる
前回大会、9位となりシード権を獲得し、1月に新チームが始動。榎木監督は新チームの目標として「箱根駅伝総合3位」を掲げた。「9位でシード権を確保しましたが、その時点でのパーフェクトで9位だったら上を望めません。しかしレースを振り返ってみて、取りこぼしやもう少し縮められそうだなという区間がありました。前回の3~6位は接戦で、取りこぼしをしっかり改善していけば3位争いに加われるんじゃないかと考え、目標を3位と置きました」
快挙にも冷静な視点でチームを見ていた榎木監督。選手たちはモチベーション高く、新しいシーズンに入った。しかし2月中旬から新型コロナウイルスの影響で徐々に大会が中止となり、3月からは活動が制限されるのではないかと予測しながら動いていたという。結果的に4月の緊急事態宣言発出後は、家庭内に高齢の親族や医療従事者がいる選手は寮に残り、それ以外の選手は帰省する形となった。
大学も休校となったため、許可を得て敷地内のコースを作り、寮に残った選手たちは練習を積んだ。「人に会うこともないし、ある意味集中した環境だったと言えるとも思います」と榎木監督。帰省した選手からは週に1度練習報告を受けたり、Zoomで学年間のミーティング、週2回全員での体幹トレーニングなどを行い、できるだけ一体感を保つように心がけた。
徐々にレース勘を戻し、結果が現れた秋
選手たちからは当初「いつ試合が再開されるのですか」といった不安がる声もあった。それに対し「こればかりは国の判断になるし、みんな同じ条件だから今やれることをやっていこう」と声がけをしたという。6月、緊急事態宣言があけて全員が再集合したが、「思っていた以上に帰省した選手もしっかり練習ができていて、出遅れることなく全体の練習を始められました」と選手たちの意識の高さを改めて確認できた。
出雲駅伝が中止となり、書類選考となった全日本大学駅伝の選考では9位、出場権を得た7位の城西大学とはわずか8秒差で大会には出場できなかった。その分、10月の多摩川5大学対校戦、トラックゲームズinTOKOROZAWAといったトラックレースに出場し、レース勘を少しずつ戻していった。榎木監督は「5大学の時は久しぶりの試合で、相手がシードの上位校(國學院大學、帝京大学、明治大学、駒澤大学)ということもあり自信のなさがあったかなと思います。10月、11月と日が経つにつれて、自己ベストを更新する選手もあらわれ、夏からの取り組みが成果として現れたと思います」と語る。
往路は3位以内で「流れが重要」
あと2週間足らずと迫った本戦。榎木監督は「流れが重要」と口にする。前回大会では1区の米満怜(現・コニカミノルタ)がラスト勝負に勝ち区間賞を獲得し、2区、3区にいい流れをつないだ。「今回も1、2区でしっかり主導権を握っていきたいです」という。前回は力のある選手から並べたと言っていましたが、今回はどうですか? と聞くと「基本的には変わりません」。「出し惜しみしてもうちのような中堅校は勝負できませんから、調子のいい選手から順に揃えていきたいです」と往路から勢いをつけることを狙う。「往路は3位以上でゴールし、復路に関しては往路の順位を落とさずに、7区から9区でもう1回勝負できるように準備したいですね」
一方で山の区間には手応えを見せる。前回はエントリーメンバーに入ったものの走らなかった三上雄太(3年、遊学館)は11月21日に行われた箱根ターンパイクを駆け上るレース「激坂最速王決定戦2020」で優勝。この1年でもっとも伸びてきている選手だともいい、「前回(前4年の築舘陽介が走り、1時間13分12秒で区間12位)より2分ぐらい短縮、区間1桁を狙えると思う」と手応えを見せる。下りの6区は現キャプテンの鈴木が出走を希望しており、こちらも手応えは上々だ。
「今年は記録会に出ていない選手もいるので、表向きは10000m30分台でも、28分台の選手が3名ほどいます」と榎木監督。「上位10人の平均タイムと言われますが、その数字だけ見てどこが強い、とかはまったくないと思います。自分たちが出している記録、練習を信じて、と常々選手たちには言っています」
キャプテン鈴木、「まさか」の任命だった
キャプテンの鈴木渓太は、1月になって榎木監督から指名された。全く予想していなかったといい、「言われたときは驚きが大きかったです」と振り返る。榎木監督は選手一人ひとりと面談する中で、鈴木の人に気を使いながらも厳しいことを言える姿勢を評価し、役割を与えることで競技面でも人間面でも成長できることを期待して選んだという。
「本当に自分がキャプテンをやれるかな」という不安があった鈴木だが、榎木監督から「競技力の向上は俺の仕事だから、チームをまとめてくれるだけでいいから」と言われ腹をくくった。鈴木が考えたのは「4年生をできるだけチームの中心におきたい」ということ。前キャプテンの築館が考えた、4年生から1年生を「縦割り班」として分けることを継承。班のリーダーを4年生が務め、1年生がやっていた仕事をそれぞれの縦割り班で分担するようにした。その結果学年間の交流が深まり、チームの風通しがよくなっていったという。「自分が1年生のときは4年生に気さくにしゃべったりはできなかったので、だいぶ変わりました」と笑顔で話す。
監督への信頼感がさらなるモチベーションに
春の試合がない期間は、なかなかチームの士気が上がりづらかったという。個人としても何のために走っているのか? と見失いそうになったり、4年生として全てが最後というタイミングでこの状態になってしまったことを悔しく思ったりもした。だが榎木監督が学内タイムトライアルなど実践的な練習を組んでくれ、近くの練習にまずは集中しよう、と次第に切り替えていけた。
箱根駅伝総合3位の目標は榎木監督が決めたが、高い目標もすんなりと受け入れられた。「榎木監督が就任されてから1年で、箱根に出るのを目標にしていたチームがシード権を取るまでになりました。監督の力は本当に大きかったと思います。なので、監督が3位と言ったらいけるんだろう、と。監督への信頼度はとても高いです」
昨年はそれまでより平均の走行距離を増やすなどの取り組みがあったが、今年は「走行距離の目安は去年と変わりませんが、ポイント練習の設定タイムが上がっています」という鈴木。いまは箱根前の質の高い練習に取り組んでいるが、昨年の同じ時期よりも速いペースの練習が組まれ、「それをこなせるだけのチームになった」と実感している。「監督がことあるごとに3位、と意識付けをしてくださるので、この練習をやれば3位に近づける、と常に意識しながらやるようになっていきました」。実際、記録会でタイムが悪かった際にも「こんな結果じゃ3位になれないよ」などと選手同士が自然に発するようにこの1年間でなってきているという。
得意の下りなら他のメンバーにも勝てる
鈴木は個人としても今年レベルアップできた。前回の箱根はエントリーメンバーに入ったものの走れず、6区の築館の付き添いだった。「走れないことは悔しかったですが、それでも米満さんだったり、嶋津(雄大、3年、若葉総合)だったりが自分たちが想像もしていないような結果を出して、自分のチームに対してのワクワク感もありました」。今度は自分も走りでそのワクワクに貢献したい。希望するのは6区だ。「下りがすごく得意なんです。平坦(なコース)の実力で言ったら、正直エントリーから漏れた選手にも勝てないと思うんですが、下りだったら勝てます。練習もできてるんで、58分台を狙いたいです」と力強い。
1、2年生のときは全く走れず、「マネージャーになるんだろうな」と思っていたという鈴木。榎木監督が来て変われて、競技の面でも結果を出せるようになった。「キャプテンとして任命してくれて、考え方も変わり、本当に成長できました」と充実した顔で話す。榎木監督も「他のメンバーもこのキャプテンについていきたい、と思えるキャプテンになってくれて、本当に彼をキャプテンに据えてよかったなと思います」と鈴木を評価する。
3位への手応え、監督も選手も
改めて、総合3位に入るには青山学院大学、東海大学、駒澤大学などのチームを倒していかないといけませんが……と問いかけると、榎木監督は「18日までも合宿をしていて、手応えのある練習ができました。しっかりと実力を発揮できれば目標は達成できると思います」。鈴木も「強いメンバーで走れているので、昨年の練習で9位にいけたんだったら、3位も見えないチーム状況ではないと思います」と自信を見せる。
エントリーメンバー16人中、前回箱根を走ったメンバーは5人。4年生の石津佳晃(浜松日体)、原富慶季(福岡大大濠)、福田悠一(米子東)のほか、嶋津、葛西潤(2年、関西創価)の調子も上々だ。そして初めて箱根を走るメンバーたちも着々と実力を高めている。信頼感で結ばれた榎木監督と選手たちは、箱根の舞台でどんな戦いを見せてくれるだろうか。