陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

國學院大は箱根駅伝総合3位を目標に臨む 前田康弘監督「伸びしろを秘めたチーム」

全日本大学駅伝、9位でゴールテープを切るアンカーの殿地(撮影・朝日新聞社)

昨シーズンは出雲駅伝初優勝、箱根駅伝総合3位と一躍大学駅伝界にその名を知らしめた國學院大學。11月の全日本大学駅伝では9位とシード権を落としたが、箱根駅伝の目標は総合3位とぶれず、チーム一丸となり高みを目指す。16日のオンライン取材で、前田康弘監督はじめ選手たちの思いを聞いた。

全日本シード落ちの悔しさをバネにチームが結束

全日本大学駅伝はチームとして状況が上がっている中で臨んだが、結果としてシード権を落としたことを重く受け止めると前田監督。「チームとしての課題も明確にわかったので、一度駅伝を経験できたというところを箱根にぶつけていきたい」と前を向く。重ねて、全日本で良かった点、悪かった点を問われ、良かった点としては全員が区間10位以内で走ったことをあげ、悪かった点には「ツメの甘さ、要所要所でのポイント」をあげた。「(7区の)藤木(宏太、3年、北海道栄)も攻めたけど攻めきれず失速してしまいした」

全日本大学駅伝で7区を走った藤木は「何もできず終わってしまった」と課題を口にした(撮影・朝日新聞社)

それぞれが課題を見つけた全日本大学駅伝。シード落ちの悔しさをバネに、箱根に向けてチームは結束したという。結果的に、エントリーメンバーの16人は4年生が8人、3年生が5人、2年生2人、1年生1人という上級生主体となった。今年は箱根駅伝の選考の参考としている上尾ハーフマラソン、甲佐10マイルなどのロードレースが軒並み中止となり、チーム内でのトライアルなどを繰り返して選んだ。「4年生が最後に意地を見せて作ってきてくれました。3年生が主軸ではありますが、まとめてくれる走りに期待したいです。うちのチームらしいエントリーだと思います」と前田監督。

常々、前田監督は「4年間で成長する、学生スポーツの面白さ」について話す。今回も4年生について期待するところは大きい。「箱根を目指して入学して、4年間熟成してきたものがあります。じっくりと距離を踏んで1人で走る力を磨いてきたと思います。どんな状況でも自分を出す、強い力は復路に活かせると思っています」

前回は主将の土方英和(現・ホンダ)、青木祐人(現・トヨタ自動車)、浦野雄平(現・富士通)が2区、3区、5区を担い、チームをけん引した。現在のチームの核となっているのは、藤木と中西大翔(たいが、2年、金沢龍谷)。昨年の強い4年生が抜けたことによって「土方、浦野を超えるんだという思い、自覚が出てきました」と評する。この2人に加え、前回経験者の主将の木付琳(3年、大分東明)、島崎慎愛(よしのり、3年、藤岡中央)、河東寛大(4年、樟南)、殿地琢朗(3年、益田清風)の6人を核として考えているという。

往路にエース、山もすでに万全

区間オーダーについては、前回6区を経験した島崎は今回も6区でいくことを明言。前回は59分01秒で区間8位だったが、「58分30秒は切りたい」と本人も意気込んでいるといい、区間賞争いができる力があると思う、と高く評価している。また前々回区間賞、前回区間3位だった浦野が抜けた5区は「『浦野さんのあとは自分が行きます』という選手がいて、彼が上りではチームトップ」とすでに明確にプランを描けている。そして主力の藤木、中西大は「往路でいくことになると思う」と認める。「あとは9、10番目の選手。そのときにコンディションがいい選手を起用する形になると思います。体調管理、メンタルの強さ……本番が近づけば近づくほどいろいろ見えてくると思います」

派手さはないが、着実にチーム全体がレベルアップしているという前田監督(写真は7月、撮影・藤井みさ)

チームの強みは? とあえてたずねると「難しい質問ですね」と前田監督は少し悩んだあと、「昨年度のチームと比べてエース格は劣るけど、4~7番目の中間層はレベルアップしました。上位10人の平均タイムも28分台に乗ったし、全体的なレベルや層の厚さは増しています」と言いながら、それはこの高速化している陸上界においては当然、とも言う。「でも着実に階段を登っている、伸びしろを秘めたチームです。無名だけど期待している選手もいますし、記録会にはあえて出さず箱根に集中させている選手もいます。そういう選手がしっかりと機能してくれれば、タイムよりも上の力が出せるのではないかと思います」と選手たちの可能性を信じて育てる前田監督らしい言葉が返ってきた。

キャプテン木付「攻めた走り」でチームに貢献を

この1年、チームの先頭に立ってきた主将の木付は、「メンバー、メンバー外も含めて故障者がとても少ないです。全員が練習を順調に積めてきていて、すごく調子が上がってきています」と今のチーム状況を教えてくれた。今年は3年生ながらキャプテンに指名され、チームをまとめる重責を担うとともに、個人としては競技力の向上を目的に研鑽を積んできた。

全日本大学駅伝では5区区間6位だった木付。8位で襷(たすき)を受け取った時点では7位との差は12秒だったが、走り終わった時点で順位はキープしたが、前との差は36秒と広がった。「ゲームチェンジャーになれなくて悔しかったです。そういう思いをチーム全員にぶつけて、シードを落とした、負けたことを無駄にしないためにも、気を引き締めてやってきました」

木付(右)は前回初めての箱根駅伝で7区区間11位。河東との襷リレーになった(代表撮影)

全日本大学駅伝の前もチームの雰囲気も良かったが、シード落ちによって他大学もしっかり力をつけてきている、このままではだめだ、と確認することができ気を引き締められた。全員で前向きに話し合い、それぞれが弱点を強化するため取り組んできた。木付も11月の日体大記録会で副キャプテンの河東とともに10000mの自己ベストを更新。箱根では3区を希望している。「往路でしっかり戦いたい、このチームのために走りたいという気持ちがあります。3区は前半下り基調のコースで、僕は攻めた走りが持ち味なので、それを活かせると思います」

他大学で意識する選手はいますか? と聞くと「駒澤大学は1、2年生の力が強くて、3区には田澤選手(廉、2年、青森山田)や鈴木芽吹選手(1年、佐久長聖)だったり力のある選手が来ると思っています。國學院のキャプテンでもあるので、意地で負けないようにしたいです」と2度目の箱根路への意欲を力強く語った。

副キャプテン河東「弱くなった代と言われたくない」

木付を支えてきた副キャプテンが、4年生の河東だ。2人でしっかりコミュニケーションを取り、3年生の木付が上級生に対して言いづらいことを伝える役割をしてきた。「今振り返ってみると、木付を通して全体的に3年生とコミュニケーションを取る機会が多くなったと思います。夏合宿の全体合宿を終えたぐらいから、チームの雰囲気がすごく良くなってきたのを感じます」。木付に負担をかけてしまっているとも感じ、練習では4年生が積極的にきつい場面を引っ張ろう、という気持ちでやってきた。

前回8区を走った河東だが、自分の走りには満足していない(撮影・藤井みさ)

前回の箱根では8区7位だった河東。初の箱根は「応援が20kmずっと途切れなかったのに感激しました」と言いつつも、走りの面では決して喜べない結果だったと振り返る。「後半失速してしまいました。それまで20kmを一人で走った経験がなかったので、課題は明白でした」。春の間は全体練習ができなかったことをプラスに変えて、個人でしっかりと走れるようにと取り組んできた。

1つ上の代の存在感が大きかった分、それを大きな穴だとも感じてしまった。「でも、(前の)4年生が抜けて弱くなった代、と言われたくないので、それを一番に思ってやってきました。8~10番手を支えるのは4年生だと思っているので、しっかりそこを支えていきたいです」

木付も「今の4年生の代は苦しんでやってきた世代だと思うのですが、最後にかける思いがすごく伝わってきます。4年生の存在が後半になってきてから大きくなってきています」と先輩たちの頼もしさを感じている。前田監督も「学生スポーツは結局は4年生の力」という通り、4年生たちがどれほど力を発揮できるかが國學院大學の鍵となるのは間違いない。

in Additionあわせて読みたい