陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

箱根駅伝3位以上を目指す東洋大 酒井俊幸監督「鉄紺らしい走りを見せる」

オンライン記者会見に出席した左から宮下、吉川、西山、松山、酒井監督(写真提供:東洋大学)

12月11日、東洋大学の箱根駅伝前の会見がオンラインで行われた。酒井俊幸監督のほか4選手が登壇し、報道陣の質問に答えた。3週間後に迫った本戦に向けて、それぞれ前向きで力強い言葉を語った。

「強い東洋」復活の先頭に立つ4年生 西山和弥、吉川洋次が語る最後の箱根への思い

チームを作り直し、層の厚さ増す

まず意気込みとして、酒井監督は前回大会10位となり11年連続総合3位以内が途切れたことに触れ「だからこそ思い切ったことをやろうとして、チームを作り直してきました。若い力を信じて今回の箱根駅伝に挑みたいと思います」。そして改めて「この状況下でご尽力されたすべての方にお礼を申し上げたい」と感謝の気持ちを述べた。

前回の箱根駅伝では2区で相澤晃(現・旭化成)、5区で宮下隼人(3年、富士河口湖)が区間新で区間賞、6区の今西駿介(現・トヨタ自動車九州)が区間新(区間2位)と好走した一方、4区区間20位、10区区間19位とデコボコになってしまったと振り返り「本来東洋大学が目指す安定した走りができなかった。選手層が大変薄く、個人の問題ではなくチーム全体としてとらえなければいけないと思った」と振り返る。

「他人事にならない」をテーマに全員でチームを作ってきたという酒井監督(写真提供:東洋大学)

チームを作り直すと始動した矢先のコロナ禍。東洋大陸上部は全員が帰省し、各々での取り組みとなった。その中でもネットワークをしっかり作り、ミーティングを密に開催。「他人事にならない」をテーマに、全員がキーマンなんだという意識で取り組んだ。その結果が全日本大学駅伝にも現れ「区間賞はなかったが区間一桁で走る選手が多く、安定した走りができつつあると思っている」と酒井監督。箱根駅伝では途切れた3位以内にふたたび返り咲くために、チーム一丸となって練習に取り組んでいる。

10日にチームエントリーが発表されたが、16人のメンバーの中に前々回8区を走った鈴木宗孝(3年、氷取沢)、前回10区を走った及川瑠音(2年、一関学院)、そして2018年、2019年の大会で5区を担当し2年連続往路優勝のゴールテープを切った田中龍誠(4年、遊学館)は入らなかった。そのことについて問われると、「個人的な情で言えば、田中はゴールテープを2回切ってるし4年次もと思います。他に4年生で頑張っている選手もいる。でも平等な選考基準のもとメンバーを考えました」。経験者であっても鈴木、及川、田中についてはエントリーできなかったとし、現在のチームの層の厚さも感じさせた。

下級生の成長にも手応え

近年高速化しているレースには、どう挑んでいくのか。酒井監督も「往路で遅れてしまうと、復路で巻き返すのは難しい」と考えている。1区から速い展開になるのではといい、往路は出遅れず流れに乗りながら、昨年選手層が薄かった復路にも自信を持って取り組んでいきたい、と話した。

この1年伸びた選手について聞いてみると、「それぞれが非常に力をつけてきています」という。昨年3区区間13位と苦しい走りになった吉川洋次(4年、那須拓陽)については、昨年に比べると練習も充実。「最後の箱根で区間賞を取れるようなパフォーマンスを期待したいし、そのためにサポートしていきたい」と4年生への思いを口にした。

前回3区を走った吉川。「彼が最高のパフォーマンスを出せるようサポートしたい」と酒井監督(写真提供:東洋大学)

またルーキーの松山和希(1年、学法石川)については、今回の箱根駅伝エントリーメンバー中、学法石川高校出身者が最多であることに触れ「他大学にも(学法石川出身者が)いる中でも、ぜひ松山が箱根駅伝で存在感を示せるような走りを期待したい」という。

学法石川出身で東洋大学といえば、今年卒業、12月4日の日本選手権10000mで優勝し東京オリンピック内定を決めた相澤晃がすぐに思い浮かぶ。「相澤は1年次、箱根駅伝を走っていません。松山が走ることで、相澤のあとを追って将来エースになれるような走りを経験してほしいと思います」と期待をかける。この2人をチームのキーマンとして考えているが、1年、2年からそれぞれ4人エントリーしたことにも触れ「下級生も厚みを増してきています。ここから(実際に走る)10人に入る力があると思っています」と手応えをにじませた。

前回5区区間新の宮下「感謝と恩返しの走りを」

昨年5区区間新・区間賞、主力の1人として成長した宮下は、大変な状況の中で大会が開催されることに感謝を示し、「4年生に感謝の気持ちを持って恩返ししたい」という。

帰省期間が終わって帰寮してからも、4年生は就活などで上の代が少人数となることもあった。そのため、「来年上級生になるから今年のうちからチーム運営に関わっていこう」と3年生どうしで話し合い、4年生の代わりとなれるような気持ちで取り組んできた。そうすることで、上級生としての責任感が徐々に芽生えてきたという。

宮下の発言からは上級生としての責任感も感じさせた(写真提供:東洋大学)

今年も5区を走ることが濃厚な宮下。酒井監督も「5区の2年連続区間賞は柏原(竜二)以来いない。5区を走ることになれば(区間賞を)狙ってほしいし、狙って取る区間賞は価値があるので、目指していってほしい」と期待を寄せる。

帰省期間中は、山梨の自宅の周りでトレイルランニングの要素も入れて走った。アップダウンが多く「5区をイメージした部分もある」という。「それ以外でも筋力アップにつながるので、積極的に取り組んできました」

宮下は柏原が5区を走る姿に憧れ、東洋大学に入学した。もし今年も5区を任されたとしたら、前回の結果を意識せず自分の力を出していきたい、という。「昨年の自分の記録を更新する、というのは目安としてありますが、あくまで駅伝であり、10区間の中の1つです。1つでも上の順位で往路を終える、トップで走れるのだったら2位以下を1秒でも離してゴールすることが目標、そういう気持ちです」と穏やかな口調の中にも強い思いを感じさせる。

2017年、18年と5区を担当した田中とは、1年間山に向けた練習をともにしてきた。「今年は負けないからな」という言葉ももらった。結果的に田中はメンバーから外れることとなったが、宮下にとって「ライバルと思えるような先輩だと思います」と先輩の思いも背負って走る。

ルーキー松山「相澤さんのような走りができる選手に」

酒井監督からキーマンとして挙げられたルーキーの松山。入学してからの帰省期間は1人で練習することが多く、精神的に鍛えられたと振り返る。松山は学法石川高校の先輩でもある相澤に憧れを持って入学した。「3、4年生のころには相澤さんのような、インパクトのある走りができる選手になりたい」と目標を語る。

11月1日の全日本大学駅伝で大学駅伝デビューしたが、各校のエースが集まる2区で「周りの空気に飲まれてしまった」という。区間7位、トップとは37秒差での襷渡しとなり「情けない走りをしてしまったという感想です。心の弱い部分が出てしまったなと思います」

全日本大学駅伝で大学駅伝デビューした松山。酒井監督からの期待も大きい(写真提供:東洋大学)

松山の強みは、序盤突っ込んで入ってから、中盤以降粘れることだという。全日本のときはその粘りがうまく発揮できなかった。箱根では積極的にレースをすすめ、前後の選手に負けないようにしたいと意気込む。「きつい部分でペースを落とさず、ペースアップさせたいです」。走ってみたい区間を聞いてみると「将来的に経験を積むためにも、主要区間、2、3区を狙っていきたいです」と、「将来のエース候補」としての自覚をすでに持っているようだ。

今大会は史上初めて無観客での開催となるが、酒井監督は「どこかで見てくれていることには変わりはない。映像から伝わる、鉄紺らしい走りを見せるんだという意気込みでスタートラインに立ちたい」と力強く言った。新しい力と上級生の力が融合し、チームとして充実を見せる東洋大学。着実に上位に返り咲くことができるだろうか。

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