大学陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

東洋大・宮下隼人 山にあこがれて初の箱根駅伝、自覚と成長の5区区間賞

芦ノ湖のゴールに飛び込み、区間新記録を樹立した(撮影・佐伯航平)

第96回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
10位 東洋大 10時間59分11秒
5区 1位 宮下隼人(東洋大2年) 1時間10分25秒(区間新)

「山の東洋」は今年も健在だった。総合10位と思わぬ結果に終わった第96回箱根駅伝だったが、5区の宮下隼人(2年、富士河口湖)が区間新記録で区間1位、6区の今西駿介(4年、小林)も区間新記録で区間2位だった。

東洋大箱根10位で途切れた「伝統」 酒井俊幸監督「一からチームを作り直す」
東洋大・相澤晃が2区で史上初の1時間5分台 東国大・伊藤達彦と競り合って大記録

いけるところまでいこう

東洋大には過去2回5区を務めた田中龍誠(3年、遊学館)もメンバーに入っていた。だが昨年12月29日の時点で酒井俊幸監督は宮下を5区で使うと明言。「クロカンの適性もあり、練習自体も田中よりできているので彼の伸び率に期待して起用した」と語っていた。酒井監督の言葉通り、2日の小田原中継所には宮下の姿があった。

昨年も一昨年も、東洋大は小田原中継所をトップで通過した。しかし今年はキャプテン・相澤晃(4年、学法石川)の爆走があったもののチームは苦戦。4区の渡邉奏太(4年、吉原工)は手術した箇所に痛みが出て、区間最下位の苦しい走りとなってしまった。14位で襷(たすき)をもらった宮下は、中央大の畝拓夢(3年、倉敷)とほぼ同時にスタートした。

渡邉(左)から笑顔で襷を受け取る宮下(撮影・北川直樹)

最初の1kmの通過は2分48秒。設定よりも速く、畝は早々に離れる。宮下は少し不安に感じたというが「それでも自分の中で余裕を持っていたので、このままいけるところまでいってみよう」と思ったという。淡々とペースを刻み、日大の廣田全規(4年、川越東)、順天堂大の真砂春希(3年、小豆島)をとらえてかわす。宮ノ下の交差点から先は勾配が急になり、きついと言われる場所。「とてもきつかった」と宮下も振り返る。「宮ノ下から、宮下じゃないですけど(笑)、頑張ろうと思って気合いを入れたので、踏ん張れたと思います」と自分の名前と難所をかけて力を発揮した。

宮下の出身は山梨。箱根の山を超えた向こう側から、家族やたくさんの友人が応援に来てくれた。沿道の声援を力に変えた。最後は中央学院大の畝歩夢(3年、倉敷)と競り合い、先行される場面もあったが、ゴール直前でスパートして11位で芦ノ湖のゴールに飛び込んだ。1時間10分25秒。堂々の区間新記録、そして区間賞だった。

関東インカレで「おごり」、全日本後に初心にもどった

宮下は柏原竜二さん(東洋大~富士通)が箱根の山を走る姿を見て、5区にあこがれて東洋大に入学した選手だ。1年のときは三大駅伝出場はなく、先輩たちの影に隠れて目立たない存在だった。それが昨年5月の関東インカレ男子2部ハーフマラソンで日本人トップになり、一躍鉄紺の新戦力として注目されるようになった。

関東インカレハーフマラソンで日本人1位、笑顔でゴールする宮下(撮影・北川直樹)

出雲駅伝で初のメンバー入りし、4区区間4位。トップと4秒差の3位で襷を受け取り、序盤は先頭争いにからみ順位こそキープしたが、結果的にトップとの差を17秒に広げてしまった。全日本大学駅伝ではアンカーを任されたが、区間8位。チームの順位を3位から5位に落としてしまった。「関東インカレからいい流れがきてて、浮かれてるじゃないですけど、『おごり』みたいなものがあったかと思います。それが出雲、全日本で悪い結果として出てしまいました。4年生に申し訳ない走りをしてしまって。全日本が終わってから初心に戻ってやり直して、今回の結果になっていると思います」

宮下の口からは、何度も「先輩たちに迷惑をかけてしまった」「申し訳なかった」という言葉が出た。その借りを返すために箱根では懸命に走った。相澤たち先輩からは「山の神になれよ」という言葉をもらった。自分でも区間上位で走れる自信はあった。「目標としていた71分フラット、それを切って70分台前半だったので、自分の中でもよかったと思います」

相澤にしてもらったことを、次は自分が

出雲駅伝では相澤から襷を受け取った。初めての駅伝で緊張していたが、相澤が5位から3位へと順位を上げて渡してくれた。「相澤さんのおかげで前の位置で走る経験ができました。自分が上級生になったときには、自分がどんな位置でもらってもしっかり順位を上げて、下級生にいい位置で走らせてあげたい。自分が相澤さんにしてもらったことを、下級生にしてあげたいです」。先輩の思いはしっかり宮下に引き継がれている。

出雲駅伝では先頭集団で走る場面もあった(撮影・佐伯航平)

初めての5区はしんどかった。でもあこがれていた柏原もこの道を走ったと思うと、楽しい気持ちも混ざり、結果的には「とても楽しく走れた」という。「来年も機会があれば走りたい、次は69分台を目指したい」と、穏やかながらもはっきりと口にする宮下。「1つ上に(田中)龍誠さんもいるので、切磋琢磨(せっさたくま)して。龍誠さんが伸びてくるのであれば、相澤さんが抜けた2区を狙う、とかもしていきたいです」

走っているときは闘志を前面に押し出している宮下は、レースを離れるととても穏やかな口調で話す。だがその内面に強い意志を感じる。初めての箱根を経験し、戦力としての自覚を高めた宮下が、これから東洋大をどのように押し上げていけるか、楽しみに見続けたい。