全日本大学駅伝6位の東洋大学 酒井俊幸監督と西山和弥が口にした「諦めない」姿勢
第52回全日本大学駅伝
11月1日@愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
6位 東洋大 5時間13分15秒
「強い東洋を取り戻す」をテーマにトレーニングを積んできた2020年の東洋大。初戦となった全日本大学駅伝では、昨年より順位を1つ落として6位だった。「残念ではあるが、充分収穫はあった」と酒井俊幸監督。その視線は2カ月後の箱根駅伝をまっすぐ見すえている。
6区までミスなくつなぐも、最後は優勝争いに絡めず
今回走った8人のメンバー中、4人が3大駅伝初出場。1区は2年の児玉悠輔(東北)、2、3区はルーキーの松山和希(学法石川)、佐藤真優(まひろ、東洋大牛久)とフレッシュな顔ぶれだったが、崩れることなく襷(たすき)をつなぎ、4区前田義弘(2年、東洋大牛久)、5区大澤駿(4年、山形中央)、6区腰塚遥人(3年、桐生工)からエースの西山和弥(4年、東農大二)へ、先頭と20秒差の5位で襷が渡った。
西山で先頭へ。レースの前日、青山学院大学の原監督も「西山くんが7区に来れば、東洋大は優勝争いをする」と評していたが、酒井監督もそのつもりで西山を起用したはずだ。しかし西山はペースが上がらず、後ろから迫ってきた青山学院大の神林勇太(4年、九州学院)、順天堂大の吉岡智輝(3年、白石)に抜かれ7位に後退。アンカーの宮下隼人(3年、富士河口湖)が順位を1つ上げたものの、先頭争いには絡めなかった。
宮下がにじませた上級生としての責任感
レース後の会見で宮下は「1区から6区の選手がとてもいい流れで襷をつないできてくれたので、本来であれば7、8区で順位を上げて優勝争いをしなきゃいけなかったのに、去年より1つ順位を落としてしまいました。悔しい結果です」と絞り出した。
「西山さんや自分、それから今回走っていない吉川さん(洋次、4年、那須拓陽)、蝦夷森(章太、3年、愛知学院愛知)、鈴木(宗孝、3年、氷取沢)だったりがチームを盛り上げていかないと、上位を狙うことはできないと思います。上級生が練習から雰囲気をあげて臨んでいかないといけないです」。宮下の言葉からは、3大駅伝初出場の選手たちがいい走りをしてくれたからこそ、経験者の自分たちがもっとがんばらないといけなかった、という責任感が感じられた。
今回の目標は、優勝争いをしながらの3位入賞だった。酒井監督は「6位は残念だけど、13年連続シード権を確保できたこと、6区まで若手を起用しながら戦えたのは充分収穫はあった」とまず振り返った。
昨年は相澤晃(現・旭化成)という大エースを中心としたチームだった東洋大。箱根駅伝で10位に終わったのを機に、酒井監督は「新しくチームを作り直す」と新シーズンを始動した。折からのコロナ禍で選手全員が帰省したが、大森龍之介主将(4年、佐野日大)が中心となり動いた結果、コミュニケーションの密度は以前よりも上がった。選手たちは自主的に考えて練習に取り組むようになり、チームの雰囲気が非常にいい状態でこの大会を迎えていた。
課題になるのは「エース力」
これまでにないチーム運営で、若手が伸びる結果になってきているとし、今回起用した選手たちが中間層を引き上げてくれたとプラス面に言及した上で、課題としては「エース力」をあげた酒井監督。「相澤が抜けた穴を埋めるどころか、そこが課題となっていると感じています。今日起用できなかった経験者のピーキングを合わせていくなどしていかないと、トップ3争いをするのも厳しいかなと感じています」と気を引き締める。
トップ3争いをするには、駒澤大、東海大、青山学院大の「3強」に割って入らないといけない。今回は明治大がそこに割って入るなど、各大学の戦力はさらに拮抗してきている。「青山学院大も東海大もすごくブレーキしたわけではないんだけど、いま一歩だったと思います。駒澤大もまだまだの走りだなと。ここから3強はさらに良くなっていくんじゃないかなと思います。その争いに加わっていくには、さらにミスのない走りが求められると思います」
西山に関しては想定より1分30秒ほど悪かったとし、「去年よりだいぶ良くなっているが、完全復活までいま一歩。後退じゃなく前進しているので、諦めないでやっていきたい」と前向きに締めくくった。
「調子は良かった」西山だったが……
西山は全日本大学駅伝の2週間前の10月17日、宮崎県延岡市であった宮崎県長距離記録会に出場した。相澤とともに走り、28分03秒94で日本選手権10000mの参加標準記録を突破。日本インカレで快走してからいい流れが来ていたが、このレースのあとに今までにないぐらいの疲れが出てしまったと振り返る。だが走る前は準備万端、調子もいいと思っていた。襷をもらった時点では前を追いかけようと思っていたが、神林につかれてから焦りが出て、体も思いのほか重く感じた。10km手前からかなり腹痛も出ていたという。
「監督から『7区で行くぞ』と言われて練習もしていたんですが、ちょっと間に合わなかったのかなと思います。まだ2週間で立て続けに出るほどの体力がなかったのかなと思います。ミスなくつないでくれたのに、チームに迷惑をかけて申し訳ないです」と反省の弁が口をついて出た。「4年生だし、ここでチームの雰囲気を悪くするわけにはいかないので。どうやったら箱根を走れるのか、(12月4日に)日本選手権もあるけど果たして出ていいのか、監督と相談します」
場合によっては日本選手権を回避するという選択肢もあるのか? と問われると、「そこはまだ完全に決まってないけど、あとは(監督と)話そうと思います。今回、日本選手権の標準も狙いつつ立て続けにレースだったので、もう少し練習が必要だったのかなと。夏前にあまり距離が踏めていなかったところが出てしまったなと思います。チームには申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、切り替えていきたいと思います」。悪いところは認めつつも、前を向いて切り替えていく、その思いを強く感じられた。
箱根に向けて最高の準備をしたい
チーム全体のことについて聞いてみると、「吉川や蝦夷森、鈴木など、出ないといけない選手がいない中でも6区まで勝負できたので、そこが戻ってきてくれれば箱根ではもっとステージを上げて走ることができるのかなと思います」と今走れていない選手への期待と信頼をみせる。主将の大森がチームの雰囲気を良くしてくれているといい、「その姿を見習って(下級生への)声かけも頑張りました。口がうまいほうじゃないんだけど、緊張をほぐすようにと思ってしたんですが、それだったら自分が走れてないといけないんで……」と苦笑する。
ラストイヤー、西山の気持ちは箱根駅伝に向いている。「日本選手権もあるけど、最後箱根をしっかり走りたいという思いが強いです。4年間の集大成として、ここでは終われない。諦めずに明日から頑張りたいです。最高の準備をしたいです」
そう話す西山の口調からは、思い通りの走りができなかった落胆よりも、前を向く力強さが感じられた。「強い東洋」を取り戻し、3強に割って入るために。ここからまたチーム一丸となって突き進む。