陸上・駅伝

東洋大・宮下隼人 「度胸」で戦う自身2年目の学生駅伝、自分の走りで勇気を与えたい

宮下は自分のペースを守り、28分37秒36と大幅に自己記録を更新した(撮影・朝日新聞社)

トラックゲームズ in TOKOROZAWA

10月11日@早稲田大学・織田幹雄記念陸上競技場
男子10000m
7位 宮下隼人(東洋大3年) 28分37秒36

10月11日に予定されていた出雲駅伝が新型コロナウイルスの影響で中止になったことを受け、早稲田大学、東洋大学、明治大学、創価大学の4校による対校戦「トラックゲームズin TOKOROZAWA」が早稲田大の織田幹雄記念陸上競技場で実施された。対校戦には5000mに各校4人、10000mに各校2人がエントリーし、その合計記録で競われた。

東洋大からは当初、10000mに西山和弥(4年、東農大二)と宮下隼人(3年、富士河口湖)が出走予定だったが、急きょ西山はメンバーから外れた。「ごめんな」と西山から声をかけられた宮下は「任せてください」と返したという。その結果、WA規格外シューズながら28分37秒36と自己記録(29分20秒74)を大幅に更新する走りを見せた。

自分のペースを刻んで、一人ずつ抜いていく

今大会にあたり、酒井俊幸監督からは対校戦を勝ち切ること、そして10000mで記録を出せるチームにしたいという言葉をかけられたという。宮下自身、10000mを走るのは久しぶりだったが、「10000mの平均タイムは他大学に一歩劣るところ。自分がしっかり記録を出して、少しでも平均タイムを上げよう」という思いでスタートに立った。

レースには3校の学生のほか、キプキルイ ビクター コリルや吉田祐也などGMOアスリーツの選手も出走。序盤から速いレース展開になるだろうと想定していた宮下は、焦らず自分のペースを守る走りをイメージしていた。レースはひとつの大きな集団で動き、最初の1000mは2分49秒。その後も2分50秒前後で進んだ。想定していたよりもペースは落ち着いていたため、集団の中ほどで力を貯め、タイミングを見て一人ずつ抜いていこうと考えた。

4000m過ぎにキプキルイがひとり抜け出すと、2位集団に中谷雄飛(早稲田大3年、佐久長聖)や手嶋杏丞(明治大3年、宮崎日大)、太田直希(早稲田大3年、浜松日体)など7人の2位集団が続き、その後ろを宮下がひとりで追い上げる。7000m過ぎには手嶋を抜いて学生3位に浮上。しかしさらに速いペースで追い上げてきた鈴木聖人(明治大3年、水城)に抜かれ、最後は7位(学生4位)でフィニッシュ。「後半の5000mが14分25秒前後かかっているので、そこはちょっとよくなかったところかなと思っています」と課題を口にするも、大幅な自己ベストに表情は明るかった。

高校時代は遠い存在だった中谷、今は勝たないといけない

宮下は今年の箱根駅伝、5区で1時間10分25秒の区間新記録をマーク。初の山登りで結果を出し、一躍注目を集めた。新型コロナウイルスの影響で東洋大陸上競技部は3月末から自宅待機となり、約3カ月間、宮下は地元の山梨・富士吉田市で練習を積むことになったが、その間も山登りを意識していた。「地元には山があるのでトレイルランニングも(練習に)入れました。もし(箱根駅伝)5区を走らせていただくことになればそのためにも、でもそれは平地にもつながる走りだと思うので、そういう意味で取り組ませていただきました」。また東洋大が寮で取り組んでいる食育を家でも実践。「両親に迷惑をかけたりもしていたんですけど」と言いながら、この期間を活用して基本に立ち返り、きたるべきレースに心も体も備えた。

初の箱根駅伝でいきなり5区区間新記録を樹立し、登りの強さを印象づけた(撮影・佐伯航平)

宮下は昨年の出雲駅伝で学生3大駅伝デビューを果たし、4区区間4位。全日本大学駅伝ではアンカーの8区を任されたが、区間8位でチームの順位を3位から5位に落としてしまい、悔し涙を流した。経験値が上がった今年、全日本ではまた8区を走ってリベンジをしたいという思いはあるが、「全日本では悔しいという気持ちがあるので、悪いイメージをなくしてチームに貢献できれば」と、任せられた区間で力を出し切りたいと考えている。

宮下自身、今までは後ろからレースを進める消極的な走りだったと振り返るが、次第にレース展開を見て自分のペースを刻み、ここと思ったタイミングで追い上げることがスムーズにできるようになったと話す。そうした変化の理由をたずねると、「度胸ですかね」と答えた。東洋大での毎日の積み重ねで走力をつけられたことがひとつ。そして、悔しさも含めて3大駅伝を走った経験も大きなきっかけになっている。高校時代、同年代の中谷に対しては「雲の上のような存在で、到底一緒のレースを走るような機会はなかった」と話すが、今はもう、「同じ舞台で戦って勝っていかないといけない」という気持ちに変わっている。

「西山さんに負けられないな」

「東洋のエース」の話をしている時、宮下は「エースと言われると力んじゃうところがあるんで、自分はあくまでチームの中での中間層ぐらいのつもりでやらさせていただきます」と控えめに話していたが、本心はちょっと違うようだ。

今大会にこそ西山は出走しなかったが、チームにおける西山の存在は大きい。9月の日本インカレ10000mで西山は28分43秒17をマークし、5位(日本人2位)と結果を残した。昨シーズン、けがに苦しんでいた西山の復活レースを宮下の目の当たりにし、力をもらった。「西山さんが元気になられると、やっぱりチームも盛り上がって練習も寮の中も元気になるので、西山さんが帰ってこられてうれしいなという思いがあります」。その一方で、「自分がチームの中でトップをとりたいなというイメージはあるので、西山さんに負けられないなという思いも生まれました」とも話す。笑顔で話すその言葉の裏に、確かな闘志を感じた。

前回の全日本大学駅伝ではアンカーで順位を落としてしまい、悔し涙をこぼした(撮影・藤井みさ)

今大会のレース直後、宮下は「この大変な状況の中でこのような機会をいただけ、自分たちも久しぶりに走ることができたということに、まずは早稲田大学さんはじめ、大会に関わってくださったみなさんに、感謝を言いたいと思います」と真っ先に話した。そして続く全日本大学駅伝や箱根駅伝に対しても、「自分たちが全日本大学駅伝や箱根駅伝で一生懸命走ることで、大変な思いをされている方々に勇気を与えられるのがスポーツの力だと思っているので、自分たちはめげずに日々、練習を継続させてきました」と言い切る。

謙虚にまっすぐに、陸上と向き合ってきた男が、「回帰と挑戦」を掲げる東洋大の強さを支えている。

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