陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

箱根駅伝準優勝の創価大学・榎木和貴監督に聞いた「100%の力を出し切れた」理由

「1」のポーズで往路優勝のゴールテープを切った三上。創価大の歴史が変わった瞬間だった(撮影・佐伯航平)

第97回箱根駅伝 

1月2~3日@大手町~箱根の10区間217.1km
2位 創価大学 10時間56分56秒
往路1位 5時間28分08秒
復路5位 5時間28分48秒

箱根駅伝4回目の出場にして、準優勝の成績を残した創価大学。とりわけ1日目の往路優勝時は、多くの駅伝ファンを驚かせた。レースの率直な評価と好走の要因を、榎木和貴監督にオンラインで取材した。

「出だしで主導権を握る」レースプラン通りの往路

まず、レースを終えての総評をたずねてみた。「往路に関しては100%、自分たちの力を出す走りをしてくれました。復路は当初から目標にしていた総合3位を目指してスタートしましたが、先頭を走るモチベーション、ワクワク感を選手たちが楽しみながら走ってくれました。9区までは目標タイムもクリアし、100%の走りだったと思います」。最終10区で逆転された小野寺勇樹(3年、埼玉栄)に関しては「緊張感やプレッシャーもあり、力を出しきれなかったと思います。今のチームの最終的な結果として受け入れないといけないし、今後の課題となりました。誰が走ってもあの結果になったかなとは思います」。レース後、小野寺とは「全部受け止めて新体制でしっかりやっていこう」と話をしたという。

1、2区でしっかり主導権を握って、往路は3位以内でゴール。レース前に想定していた通り、1区福田悠一(4年、米子東)が区間3位、2区フィリップ・ムルワ(2年、キテタボーイズ)が区間6位、順位は2位で3区の葛西潤(3年、関西創価)に襷(たすき)リレー。葛西は区間3位、4区嶋津雄大(3年、若葉総合)は区間2位の快走でついに先頭に立った。5区三上雄太(3年、遊学館)はそのまま山を上りきり、往路優勝のゴールテープを切った。

1、2区で先行したい。選手たちが力を発揮し、いい流れを作った(撮影・北川直樹)

往路優勝後の榎木監督のコメントを聞いていて、ひとつ意外に思ったことがあった。「3、4区はしのぐ区間だと思っていたが、そこで予想外にトップに立ってくれた」と言っていたことだ。葛西も嶋津も、チーム内では主力級の選手。その選手を配置して「しのぐ」とは? と聞いてみると「3、4区はもちろんうちのチームでは5番手以内の実力者です。ですが他大学の戦力を考えたときに、主力級の選手が配置されてくる。そういう選手たちと肩を並べたときに、簡単にはいかない、実力者と走りながらも上位にとどまってくれれば」という意味だったと教えてくれた。結果的には、期待以上の結果をもたらしてくれた走りとなった。

目標達成、選手たちには「よくやった」

復路は先頭でスタートした6区濱野将基(2年、佐久長聖)、7区原富慶季(4年、福岡大大濠)、8区永井大育(3年、樟南)とつなぎ、9区の石津佳晃(4年、浜松日体)へ。昨年も9区を走り順位を11位からあげられず悔しい思いをした石津は、榎木監督の「1時間9分ぐらいで走ってくれれば」という思いをいい意味で裏切り、区間新記録にせまるペースで走り続けた。1時間8分14秒と、区間記録にあと13秒届かなかったが「内に秘めた闘志を持っている選手だと思います。メンバーみんなが同じ練習をしてきたのが自信となって攻めきれたのだと思います」と石津の走りを評価する。

10人のうち、最も期待以上の走りをしてくれたと榎木監督が評する9区の石津(右、撮影・佐伯航平)

9区が終わった時点で2位の駒澤大とは3分19秒差。率直にどう思っていましたか?「小野寺が練習通り力を発揮して、ペースを守れれば逃げ切れるのかなと思っていました」。しかし小野寺は緊張やプレッシャーからか動きが固くなり、自分の走りができず、追う駒澤大の石川拓慎(3年、拓大紅陵)との差はみるみる縮まった。運営管理車からの大八木弘明監督の声も聞こえた。「あーもう来たか、と思いました。ここまでの縮まり方を見たらすぐに追いつかれるなと。残り5kmで『簡単には優勝できないな』と思いました」

緊張やプレッシャーから力を出しきれなかった小野寺。次なるチームへと悔しさが引き継がれた(撮影・藤井みさ)

10区で逆転されての準優勝という結果。榎木監督はどう受け止めているのだろうか。「選手たちは優勝を逃して残念、悔しいという気持ちが大きいと思います。ただ当初の目標は総合3位以上で、優勝争いをしての準優勝。目標は達成しているので、私が悔しいというのはちょっと違うかなと思うし、『よくやった』と言いたいです」と選手たちをねぎらった。

「ミスのない走り」を体現できた理由

榎木監督は運営管理車から選手の走りを見ていて、「練習の時より堂々としているな」と感じたという。公式ユニフォームを着用するのは今シーズン、この箱根駅伝のみだった。「それもあってか、赤と青のストライプの背中がなんだか大きく見えましたね」。今シーズンは出雲駅伝の出場権を得ていたが大会が中止になり、書類選考となった全日本大学駅伝はボーダーラインとはわずか8秒の差で落選となった。それだけに、選手たちの箱根にかける思いは強かった。「全て詰まった走りだったと思います。ここまで箱根に向けて作ってくれて、出し切ってくれました」

戦国駅伝時代にあって、どの指導者も「ミスをしたら負ける」と口にする。今回、9区までのレース運びはまさに「ミスのない駅伝」を体現できているように思えた。多くの大学の選手が期待通りの走りができなかった状況でも、なぜ創価大学の選手たちは力を発揮しきれたのだろうか。榎木監督は「昨年のチームから、どんな状況でも100%力を出し切る練習をしてきました」という。

選手たちの力を100%引き出せるような練習を常日頃行っているという(撮影・佐伯航平)

風が強くても、雨が降っていても自分の走りをできるように。具体的には11月の静岡・島田合宿でハーフの距離でのトライアル、12月には単独走15kmなどを行った。島田市は榎木監督が実業団のときに合宿をしていた土地でもあり、常に風が強いことはわかっていた。気象条件がいい中で練習してタイムを出しても、それは真の練習にはならない。強風や高温など条件が悪くてもそれに対応できるように、選手自身の順応力や臨機応変に組み立てていく力を育てていった。

「駅伝のレース中は、こちらの指示で動かす場合もありますが、スタートしたら基本的には自分との戦い、相手との駆け引きになります。選手それぞれの考えでレースプランをその都度組み立てていく。そのために練習の時から条件が悪い中でも割り切って、設定タイムをクリアできるようにと取り組んできました」

4区嶋津は区間2位の力走で、創価大学史上初めて箱根駅伝で先頭に立った(代表撮影)

今シーズンの創価大学のチームには、公認記録は29分台だが非公認では28分30秒台のタイムを持つ選手が多かった。それも事前の評判と、レースの結果を見誤らせた要因の一つでもあったかもしれない。「もちろんタイムも求めてはいました。ただ今シーズンは記録会も減るなど、たまたま機会に恵まれていなかっただけです。できることなら公認記録を残してあげて、次につなげてほしいと思っています」と榎木監督はいう。ただ今シーズンに関しては、表向きのタイムは出ていないが、自分たちで立ち位置がわかれば絶対的な自信になる、というスタンスでいたという。しっかりと練習をこなしてきた選手たちの自信と、監督と選手相互の信頼関係が生み出した好走だった。

3大駅伝を見据えて、新体制始動

箱根駅伝後の帰省期間を経て、9日からすでに新体制が始動している。新主将は5区を走った三上。副将には8区を走った永井と、新3年生の緒方貴典(熊本工)の2人を置いた。今までの4年生の代はマネージャーを含め15人いたが、新4年生の代はマネージャーもおらず、選手も7人しかいない。そのためその7人でチーム作りをするというよりも、下の代も巻き込んで縦、横両方のつながりをさらに強化していきたいという考えからだという。三上は物静かな選手だが、言わなければいけないことを言ってくれるタイプ。「この1年コツコツと積み上げてきたことをチームのみんなが知っているので、説得力があると思います」。対して永井は積極的なタイプで、発信力もある。性格は対象的な2人だが仲も良く、情報交換などもしているという。

副将を務める永井。今回の箱根では8区を担当し区間8位だった(撮影・北川直樹)

新体制の具体的な目標はこれから決めるが、見据えるのは3大駅伝の全てだ。「出雲駅伝は去年大会がなかった分、2年分の思いをもって。全日本大学駅伝では予選会からしっかり結果を出して、本戦でも上位争いを。そういう気持ちでチャレンジしていきたいですね」

これから今まで以上に注目が高まりますよね。そう問いかけると「気持ちだけが舞い上がりすぎないように、しっかり足元を見つめて行動していきたいです」と榎木監督。取り巻く環境が変わっても、自分の走りに徹するだけで、やることは変わらない。一歩一歩着実に、創価大学は強豪校への道を歩む。

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