大学陸上・駅伝

ルーキー吉居大和、学生トップレベルの快走の理由 中央大学の現在地(上)

7月8日のホクレン深川大会での吉居。力強い走りを見せた(代表撮影)

近年箱根駅伝でシード落ちが続いている中央大学。しかし今年は戦力が充実、箱根駅伝で面白い存在となる可能性は大いにある。中央大陸上部の現在について、2回にわけて紹介する。前編では今年入学した吉居大和(仙台育英)のホクレンディスタンスチャレンジでの活躍とその理由、今後達成していきたい目標について聞いた。

わずか2試合で学生トップレベルに

入学してわずか2戦で、吉居大和が学生長距離界をリードするタイムを叩き出した。

ホクレンディスタンスチャレンジ全4試合のうち、深川大会(7月8日)と千歳大会(同18日)の5000mに出場。深川大会B組1位になった吉居の13分38秒79は、自己記録(13分55秒10・19年7月)を16秒31も更新し、昨年の学生リスト日本人4位に相当する好タイムだった。

「6月6日の部内の5000mタイムトライアルを13分42秒で走ることができたので、日本選手権(12月)の参加標準記録(13分42秒00)を確実に切ることが目標でした。高校のときに13分45秒は出せる感触があったので、13分30秒台はこの時期に出せると思っていました」

学生トップレベルの記録も冷静に受け止め、さらに「もう少し行ける感触があったので、次は13分38秒は確実に上回りたい」と思って千歳大会に臨んだ。

千歳では最も強い選手が集まるA組に出場。先頭集団でレースを進めたが、3500m付近で遅れはじめた。だが3000mまでの各1000mがすべて2分42秒のイーブンペースで、4000mまでも2分43秒と、吉居がペースダウンしたわけではなかった。そしてラスト1000mを2分39秒にペースアップし、13分28秒31の6位(日本人3位)でフィニッシュ。2006年に佐藤悠基(東海大1年、現・日清食品グループ)が出したU20日本記録の13分31秒72を更新してみせた。

「3000mまでは先頭集団に絶対につこうと思っていたんです。13分31秒は“切れたら”くらいの気持ちでしたが、ラスト200mで13分30秒を切れると思いました」

13分28秒31は学生歴代でも7位。歴代リスト(下表参照)上位には、代表経験者がずらりと名を連ねる。4カ月前には高校生だった吉居が、将来の日本代表候補に躍り出た瞬間だった。

■学生歴代上位10選手
13.19.00 竹澤健介(早大3年) 2007/07/28
13.20.43 高岡寿成(龍谷大4年) 1992/07/02
13.20.80 大迫傑(早大4年) 2013/11/17
13.21.49 上野裕一郎(中大4年) 2007/07/28
13.23.57 佐藤悠基(東海大2年)2006/08/30
13.26.53 渡辺康幸(早大3年) 1994/07/15
13.28.31 吉居大和(中大1年) 2020/07/18
13.28.73 花田勝彦(早大4年) 1993/07/31
13.28.79 八木沢元樹(明大3年)2013/09/29
13.29.11 鎧坂哲哉(明大4年) 2011/09/13

1年目から活躍できた背景

記録が伸びた理由を安易に特定するのは控えたいが、中大入学後の練習が順調だったことは事実だ。「高校の頃よりも質の高い練習ができていました。寮生活にも不安はなく、練習以外でも早いうちに環境に慣れることができて、一段上のトレーニングに取り組めたと思います」

吉居は愛知県田原市出身。地元の中学を卒業すると宮城県の仙台育英高に進み、3年前から寮生活を経験していた。中大には2月の合宿から合流し、3月8日の中大記録会10000mを28分35秒65の高校歴代5位で走った。中大の練習の成果とは言えない時期だが、6月の5000mタイムトライアルの13分42秒は中大の練習の流れの中で出した。2位を約30秒引き離す強さだったが、チーム全体としては翌週の10000mタイムトライアルに照準を合わせていたという。その練習の流れでも吉居の力が抜き出ていた。

走る前に意識させたい部位に刺激を入れるのが大事だと藤原監督は言う(写真提供・中央大学陸上部)

7月に入ってホクレンの5000mに合わせた練習の流れになったが、中大の藤原正和駅伝監督は、「皆さんが考えるほどのスピード練習ではないと思います」と言う。「トップスピードの練習より、どちらかというと(速い)動きを楽に出せるようにする練習に取り組んでいます」

藤原監督は速いスピードで走っている最中に、「どこかを意識させるのは難しい」という。「走る前にここを使うんだと意識させ、走っているときは無意識に再現できるようにする。そうすることで効率を良くしたい。走っている最中(の指示)はリズム良く、くらいですね」。それは練習の多くを占めるジョグに対しても同じだという。朝練習で走り始める前に、使いたい部位に刺激を入れるトレーニングを行っている。

吉居は高校時代から、そうした動きを良くするためのトレーニングも積んできたのだろう。中大の練習にもスムーズに適合でき、入学3カ月でU20日本記録までタイムが伸びた。

中大の4年間で達成したいこと

中大での4years.で達成したいことを、吉居は以下のように話している。

「個人では5000m、10000m、ハーフマラソンの学生記録です。日本記録をどの種目で狙うかは決めていませんが、(それまで走ってみて)自分がどう感じているかを体と相談しながら考えていきたいと思います」

3種目の学生記録は以下の通りだ。
5000m:13分19秒00・竹澤健介(早大3年)2007年
10000m:27分38秒31・大迫傑(早大4年)2013年
ハーフマラソン:1時間00分50秒・村山謙太(駒大3年)2014年

竹澤は在学中の08年に北京オリンピック代表入り。現役学生のトラック長距離種目代表は56年ぶりの快挙だった。大迫は卒業後に世界陸上とオリンピック代表になり、3000m、5000m、マラソンの3種目で日本記録保持者となっている。村山もトラックで世界陸上に出場し、現在はマラソンで2時間8分台まで記録を伸ばしている。

藤原監督は2024年にパリオリンピックが開催されると仮定し、前年の大学4年時に代表争いで優位なポジションまで引き上げたいと考えている。「(5000mの)12分台がマストではありませんが、12分台を狙える力を4年間でつけさせたいですね。成長過程の中で13分20秒台、10秒台、0秒台と安定して出していける選手になってほしい」

12分台を狙える力をつけさせたい。吉居への期待は大きい(写真提供・中央大学陸上部)

吉居にはこれまで大きな国際大会出場の経験はないが、インターハイ5000mで3位(日本人1位)となったときの留学生選手との走りが印象的だった。上位2選手には引き離されたが、終盤にペースアップして、3、4番手を走っていた留学生2選手に残り1周で追い着き、前に出た。ラスト200mで一度は抜き返されたが、残り170mで抜き返し、さらにラスト50mで追いつかれたが、そこから突き放した。

全国高校駅伝も3年時は、留学生選手と対決する3区を走った(区間8位でチームは優勝)。前年は最長区間の1区で区間42位(チームは11位)と、悔しい結果に終わっていた。3年時の区間起用は「一番はチームの優勝。そのために選ばれた区間で良い走りをする」ことを最優先に考えていたが、「1区を走ってリベンジしたい思いも、3区で留学生と競り合いたい気持ちもあった」という。

高校3年時の全国高校駅伝では3区を担当した。中央が吉居(代表撮影)

高校時代は留学生を目標に成長したが、大学入学後はより具体的に世界を見ての強化になる。今春卒業した舟津彰馬(福岡陸協)らがそうだったように、米国のプロチームに留学することも選択肢に入ってくる。

個人種目も駅伝も

チームで戦う駅伝も、吉居のモチベーションになっている。

「箱根駅伝は優勝が目標です。大学で4年間やるなら箱根駅伝は一番大きなステージ。そういうところで優勝したい気持ちはずっと持っていました」

箱根駅伝は全10区間が20km以上の距離で、全員にハーフマラソンの走力が求められる駅伝だ。だが中大では一律的なトレーニングではなく、個人の特性や希望に沿った強化方法がとられる。藤原監督は「吉居は主戦場を5000mにしながら、ベースを作る意味でも10000mにも出て行くことになります。箱根に向けてはハーフをがっちりやるのでなく、10マイル(約16km)のテンポ走を練習で行えば、レースではハーフまでもつ」と、今後のトレーニング方針を明かした。

長距離では聞き慣れない“テンポ走”という言葉を藤原監督は使ったが、その言葉に込められた意味は後編で紹介する。

箱根駅伝は各区間の距離は20km強と同じでも、起伏や風の吹き方によって区間の適性は異なる。吉居がスピード型の練習でどの区間を走れるようになるかも、駅伝の展開を左右する注目ポイントだろう。

吉居自身は個人種目と駅伝で、取り組み方や気持ちの入れ方を区別していないという。「駅伝だから、個人だから、とは考えていません。どちらが大事ということはなく、陸上競技をやっているからには陸上競技で勝ちたい。出るからには“どんなレースでも勝とう”という気持ちでやっています」

その姿勢が吉居の成長にはプラスに働いた。高校2年の駅伝で失敗しても、気持ちが切れることなく3年時のトラック5000mで好成績を残すことができた。3年時の高校駅伝でも快走とはならなかったが、翌月の全国都道府県対抗男子駅伝の1区(7km)区間賞を経て、今季のトラックの快進撃につなげられた。

どのレースも大事に走る姿勢は練習でも同様で、中大入学後の質の高い練習にも抵抗なく取り組めた。走りだけでなく、サポートしてくれる人間の話を聞く姿勢も丁寧だ。

素直にアドバイスを聞く姿勢も、吉居の成長につながっている(写真提供・中央大学陸上部)

「監督やコーチからこうだったよ、と言われることに、自分では気づいていないこともあるはずです。自分の感覚と同じくらい近くで見てくれている人の意見は、大切にしています」。こうした精神面も、吉居の成長を支えてきた。

2年時の高校駅伝で失敗したときも、練習の意味をしっかり考えるようにするなど細かい点で自身を見直したが、一番は「どうしたら勝てるようになるか、今まで以上に真剣に取り組む気持ちを強く持った」ことが立ち直れた背景にあった。

大学でも成長を続けるために、どうしていこうとしているのか。「自分はどんなレースでも1番をとる、誰にも負けない、そういった気持ちで走っています。高校までとは違って、上の学年の人と一緒に走ることが多くなるのが大学です。つねに上の人たちを見て、その人たちに勝てるように頑張っていきます」

“上の人たち”が、大学4年間でどんな選手たち、どんなレベルになっているのだろうか。ルーキー吉居の視線の先を注目していきたい。

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後編では上級生を中心としたチームの戦力を分析します。

藤原正和駅伝監督「結果にこだわっていく1年に」 中央大学の現在地(下)

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