大学陸上・駅伝

藤原正和駅伝監督「結果にこだわっていく1年に」 中央大学の現在地(下)

中大陸上部の主力を担う選手たち。中央は森凪也、後列左より三須健乃介、加井虎造、大森太楽、千守倫央、川崎新太郎(写真提供・すべて中央大学陸上部)

近年箱根駅伝でシード落ちが続いている中央大学。しかし今年は戦力が充実、箱根駅伝で面白い存在となる可能性は大いにある。中央大陸上部の現在について、2回にわけて紹介する。後編では藤原正和駅伝監督への取材を中心に、チームの現状の戦力を分析する。

ルーキー吉居大和、学生トップレベルの快走の理由 中央大学の現在地(上)

6人が28分台で走った3月の10000m

今季の中大は吉居大和(1年、仙台育英)だけではない。コロナ禍の状況でも、チームは好記録を量産させている。3月8日の中大記録会10000mでは入学予定の2人を含めると、実に6人が28分台を記録した。

■中大記録会男子10000m成績と前回の箱根駅伝成績  ( )内は新学年
1位 28分35秒65 吉居大和(1年)
2位 28分35秒66 大森太楽(4年)9区10位
3位 28分36秒65 三須健乃介(4年)
4位 28分37秒68 千守倫央(2年)1区16位
5位 28分40秒30 三浦拓朗(3年)3区12位
6位 28分58秒80 中野翔太(1年)

12位とシード権を逃したが、箱根駅伝は1~3年生9人が出場し、そのメンバーが成長していることをアピールした。新主将となった池田勘汰(4年、玉野光南、4区11位)も29分06秒19で7位と続いている。三須も前々回の3区16位と箱根経験者だ。中大記録会は欠場したが、川崎新太郎(4年、水口東、2区17位)は2月の丸亀国際ハーフマラソンで1時間03分26秒の自己新を出した。

藤原正和駅伝監督は「日本学生ハーフマラソン(3月8日・立川)に合わせていました。ハーフの練習をした中で、全体的に10000mのタイムが出たわけです」と説明する。「1年生では吉居だけでなく、中野も良い選手です。吉居とは対照的なロード型で、在学中にマラソンの(藤原監督自身が持つ)学生記録(2時間08分12秒)にも挑戦できる」

これだけ好記録を量産しても、中大は今年11月の全日本大学駅伝に出場できない。関東学連推薦校選考会がコロナ禍のため中止となり、昨年の記録の合計で出場校が決められたためだ。8人の10000m合計タイムで上位7校が本大会に出場できたが、7位の城西大とわずか7秒差で落選した。

選手たちは箱根駅伝の目標を「3位」と設定したが、「全日本に勝ったチームに箱根で勝てば、自分たちが大学ナンバーワン」という声も挙がり始めている。

昨年の反省からスタミナ寄りの練習がメインに

新型コロナウイルスの拡大防止のための非常事態宣言が出て、4月からは実家に戻る選手と寮に残る選手に分かれて練習した。1年生には中大の練習を理解させるためにも、原則寮に残ってもらったという。「自粛期間はトラックも使えず難しかったのですが、ロードや坂道を上手く使うことができました。ベース作りをして出力を高める練習をした結果、全体的にタイムが上がってきました」

2月の宮﨑合宿での集団走。昨年の反省からスタミナ練習が多くなった

そして6月には5000mのタイムトライアルと、10000mのタイムトライアルを2週連続で実施した。前編で言及したように5000mでは吉居が13分42秒で走り、2位を約30秒引き離した。翌週は全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会(10000m)が開催されるはずだった日程である。

藤原監督は「5000mはそのとき走れた選手だけで人数も少なかったし、調整もしていませんでした。10000mの方がチームとしてはメインで、実際、充実していました」という。

3月もハーフの距離に取り組んでいたし、6月も5000mよりも10000mと、今季の中大は距離の長い種目に重点を置いている。それは昨年の箱根駅伝予選会(10月26日)で10位と、あわや予選落ちの大苦戦をした反省からだ。

「私の調整ミスです。箱根に向けては長い距離を踏まないといけない」と藤原監督は自戒を込めて話した。予選会や本戦で競り合いやスピードレースとなることを想定し、スピード練習も多く行っていたのだ。

昨シーズンの失敗を踏まえ、7月はこの時期としては距離の長い16kmのタイムトライアルを実施し、練習はそこに向けての流れを中心にした。

吉居の強化はスピード型で

だが個人種目の強化も重視するのが中大の伝統だ。吉居や三浦、昨年の予選会でチームトップの13位だった森凪也(3年、福岡大大濠)ら、トラックレースに出場する選手たちは7月も別練習の流れになっていた。そのなかで吉居が13分28秒31のU20日本記録を出したのである。

吉居の試合スケジュールは9月の日本インカレと12月の日本選手権が決まっている。「日本インカレは勝つレースをしっかり重ねる大会になります。そして今年一番の目標は日本選手権で結果を出すことです。10~11月をどう過ごしていくかが課題で、10月の予選会に“10マイル仕様”で出ていくか、それとも予選会には出ないで10000mを1本挟むか、もしくは1500mでもう少しスピードのレベルを上げるか、状態を見ての判断になると思います。ただ1年生ですから無理はさせられません。ホクレン(ホクレンディスタンスチャレンジ)がよかったのは試合数が少なかった影響もあったと思うので、試合過多にならないように注意します」

藤原監督が「エース」と認める3人。左から三浦拓朗、吉居大和、森凪也

“10マイル仕様”とは10マイル(約16km)までの距離で練習していけば、ハーフマラソンや箱根駅伝の距離を走れる練習パターンを指す。スピード型の選手には、20km、30kmという距離のメニューを行うとオーバーワークになる可能性があるからだ。学生長距離界全体を見てもスピード型の箱根駅伝出場選手は一定の割合で存在する。

前編の記事で“テンポ走”というメニューを藤原監督が口にしたことを紹介した。短距離の練習ではよく聞くメニューだが、長距離では聞いたことがなかった。藤原監督も現役時代(西脇工高→中大→Honda)は使っていなかったという。

「チームによって違いはあると思いますが、距離走は1km3分30~40秒で20~30kmを行います。ペース走は12000~16000mを決められたペースで走ります。テンポ走はもう少し速いイメージで、今の中大では3分00~05秒です。10000~12000mの距離の中盤、あるいは終盤をリズム良く走ります。ペース走だと高校の延長の感覚で、一定のスピードで押して行けばいいんだな、ととらえてしまう選手もいる。走りのリズムの表現として、テンポ走という言葉を使っています」

吉居ならそのテンポ走を、「10マイルの距離までできればハーフももつ」と藤原監督は見ている。

「練習のスピードを上げていこうとすると、距離を抑えていくことになります。距離をやらないことによって生じる時間で、動きがぶれない体作りをしていくことができる。トラックレースでは接触したりすることもありますから、体のバランス感覚も重要になります」

トラックで快走した吉居が駅伝でも活躍する。今季の中大のシナリオには、それがはっきりと書き込まれている。

結果にこだわっていく1年に

今年の中大の1年生は、他大学の指導者たちもうらやむほど粒ぞろいの学年だ。吉居と中野以外にも、3月の記録会で伊東大翔(1年、國學院久我山)と園木大斗(1年、開新)が29分40秒台で走り、山田俊輝(1年、川崎市立橘)は1500mでインターハイ3位のスピードを持つ。「箱根駅伝の16人のエントリー中、1年生が5人くらい入ってくるかもしれません」と藤原監督。

その一方で「チームの中心はやはり上級生」と明言もしている。前述のように3月の記録会10000mや、1~2月のハーフマラソンで自己新が続出しているのだ。

躍進のためには上級生の活躍も欠かせない。左から寮長の大森太楽、駅伝主将の畝拓夢、主将の池田勘汰、三須健乃介

4年生は3月の10000mで吉居と0.01秒差の接戦(28分35秒66)をした大森太楽(鳥取城北)、28分36秒65の三須健乃介(韮山)、箱根駅伝2区を走った川崎、山登りの5区で区間9位だった畝拓夢(4年、倉敷)、そしてキャプテンの池田と、「戦力的に充実している」と藤原監督も信頼する学年だ。

池田を中心にチームをまとめる役割もしっかりと果たしている。“自立”と“自律”をテーマに掲げ、練習の意味を選手自身もしっかり考え、生活面でも自らを律する雰囲気を作っている。

3年生では10000m記録会で28分40秒30の三浦拓朗(西脇工)、昨秋の箱根予選会でチームトップとなった森の2人が箱根駅伝を走った。2年生では28分37秒68の千守倫央(松山商業)が1区の、若林陽大(倉敷)が6区の経験者だ。

現時点の中大はトラックで好記録が続出しているチームではあるが、箱根駅伝を戦う“強さ”を持っているとは言い切れない。襷(たすき)をかけて他チームのエースと競り合う走りや、単独でペースを維持する走りができるのか未知数の部分が多いからだ。

だが期待ができるのは、箱根駅伝経験者が9人と多いこと。選手が個人種目で成長をすれば、駅伝の同じ区間の走りをある程度は想定できる。試合数自体は少ないが、中大の箱根駅伝経験者は間違いなく、成長の手応えを感じているはずだ。2区、5区、9区などの主要区間で、確実な戦力アップが計算できるのは大きい。

そこに強力な1年生たちが加わった。スピード型の吉居、スタミナ型の中野と、練習でグループ分けをしても核となる1年生が存在する。上級生たちの大きな刺激となっているのは明らかで、相乗効果が期待できるだろう。そして1年生が経験のある上級生を押しのけてメンバー入りしたとき、起爆剤的な役割を果たすのではないか。

女子マネージャーたちもチームを支える大きな戦力だ

藤原監督が就任して5年目。「結果にこだわっていくシーズンにしたい」と強い調子で話す。「当たり前のレベルを毎年引き上げていく」という藤原イズムが、チームに浸透してきた手応えがあるのだろうか。

「(箱根駅伝の成績もコロナによる社会環境も)厳しい状況下でも負けないチームを、4年間作ってきました。浸透しているか、まだ判断はできませんが、秋以降に大きな花が咲くチームになりつつあると思います」

今後はロードでの戦績が駅伝を占う材料になる。中大の選手たちがハーフマラソンなどでどんな成績を残していくか。1時間1~2分台が続出するようだと、箱根駅伝のダークホースになっていくだろう。

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